デジタルマーケティング入門

広告を嫌う消費者を前に広告はどうあるべきか? :ネイティブ広告について考える[前編]

記事内容の要約

  • 日本では言葉だけが先行しており、また「ステマ」との混同もあった「ネイティブ広告」についての取引を正常化させるために、業界全体での概念・定義の普及と正しい運用についての活動を行う一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(以下JIAA)
  • ネイティブ広告は、「形式」と「機能」の組み合わせで「ユーザーの媒体体験を損なわない」が大原則
  • 企業がネイティブ広告を新しいマーケティング手法として採用すべき理由として、ネイティブ広告の広告効果には「ブランドに対する理解向上や購入意向を上げる“ブランドリフト”がある」ことが挙げられる
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近年、デジタルマーケティング業界で急激に普及し、その活用の真価が問われているキーワードが「ネイティブ広告」だ。「媒体が制作する編集コンテンツとデザイン・フォーマット・機能が同一な広告」として一般化しているが、この「ネイティブ広告」という新しい広告フォーマットが誕生した経緯や、近年のオーディエンスデータを活用した広告配信方法が普及するなかでどのような役割を担うのか。米国のネイティブ広告プラットフォーム企業である Sharethrough Inc.の日本代表で、一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会(JIAA)のネイティブ広告部会では広告効果分科会のリーダーを務める高広伯彦氏に、DIGIDAY[日本版]プロデューサーの谷古宇浩司氏が前後編で聞いた。

正常なネイティブ広告の普及と取引発展のために発足したJIAAネイティブ広告研究会

― 一昨年あたりから、広告業界やデジタルマーケティング業界でネイティブ広告が注目されるようになり、日本インタラクティブ広告協会(Japan Interactive Advertising Association:JIAA)でも「ネイティブ広告研究会(現在はネイティブ広告部会)」が立ち上がりました。まずは設立経緯を教えてください。

高広:ネイティブ広告が先行していた米国のインタラクティブ広告業界団体(Interactive Advertising Bureau: IAB)で研究が開始され、ガイドラインが発表されるに至ったのも、業界内での混乱がありそれを収束させるためだったわけですが、この点においては研究会の立ち上げ経緯と似ています。

ただ日本の場合は、加えて2つ、混乱の要因がありました。第一に「ネイティブ広告」という言葉だけが輸入された状況が先にあり、その名を冠した広告商品が日本でも市場に出はじめたこと。すると、日本によくある独特の市場の混乱、たとえば「(本来の)概念が正確に理解されていない」、「実際にはネイティブ広告とは言えない広告までその名前で売られている」という輸入キーワードの誤用による混乱が起こりました。第二に、同時期に「ステマ」(編集部注:ステルスマーケティング、消費者に広告と表記せず宣伝行為をすること)の問題と混同される状況があり、米国以上の混乱があったように思います。

もし混乱が続けば、媒体社も広告事業者も広告主もネイティブ広告に対してポジティブに活用できず、取引が正常化できないだろうという懸念もあり、ネイティブ広告に関する共通認識を普及させる必要があるということで研究会が設置されました。

とりわけ、意図的に広告表示を外して編集記事に見せかけた「ステマ問題」については、業界内でも当初は「そんなに悪いことなの?」という認識の人々もいて、ネイティブ広告を取り巻く環境はマイナスからのスタートだったと言えます。

インタビューを受ける高広伯彦氏

ステマの最大の問題は、ユーザーに「企業からなんらかの金銭が出ている“ペイド”(=広告や取材協力費など)」であるにも関わらず、それを明示せず、編集記事と同じ情報利用体験を提供することです。

“ペイド”の場合は概して商品やブランドに関する情報についてネガティブなことは書かれませんし、企業からお金が出ている時点でバイアス(偏り)がかかっていると考えられます。これが、消費者の情報取得に関してひずみをつくるということで、米国などでも「ステマ」が禁じられている理由です。

「ネイティブ広告」は、広告の見た目のデザイン・形式やたとえばそれをクリックしたときに起こる動作・機能を、媒体社の一般的な編集記事と同一にすることで、ユーザーの情報利用体験を一体化します。そのため、時には編集記事と企業からの「広告」が見分けが付かないこともあります。それゆえに明確に「広告であること」を記さなくてはならないというスタンスが取られます。

この「記事と広告の見分けがつかない」ことについて、悪くとる人からすると、「人々をだまそうとしている広告」と思われるかもしれませんが、ネイティブ広告は他のこれまでの広告フォーマットと比べると「邪魔にならない」、「チカチカしない」広告です。つまり、「だまそうとしている」というよりもむしろ、「嫌がられない」ための広告フォーマットとして生まれてきています。

人々が媒体を訪れるのは「広告」を見るためではありません。そこに書かれた編集記事や他のコンテンツを読む、見るためです。もし「広告」が従来のような「広告」ではなく、情報として立ち振る舞うことができるような「広告」になれば受け入れられやすいでしょう。言い換えれば、「ユーザーの媒体体験・情報体験を損なわない」ことがネイティブ広告の最重要命題です。

その一方で、あまりにもネイティブ広告は媒体の中でなじむ仕組みであるがゆえに、広告であることを明示すべきなどのガイドラインや、そしてそのためのネイティブ広告の定義や期待される効果、その指標をより共有するために研究会から部会に昇格して、今はJIAAの中の重要活動の1つになっています。

「ネイティブ」の由来は「エイリアン」との対比

― そこで昨年JIAAによって策定されたネイティブ広告の定義が「デザイン、内容、フォーマットが、媒体社が編集する記事・コンテンツの形式や提供するサービスの機能と同様でそれらと一体化しており、ユーザーの情報利用体験を妨げない広告」ですね。ここに至るまでに、大きな議論などはあったのでしょうか。

インタビューをする谷古宇浩司氏

高広:定義そのものに関する大きな議論はなかったのですが、媒体社や代理店などさまざまな立場によってネイティブ広告の認識がバラバラだったことがわかりました。この「認識がバラバラだった」ということがわかったことも、成果のひとつと捉えています。結果として、同時に出したガイドラインも含め、それらを順守することを宣言している媒体社や広告事業者が多く出てきたのも成果でしょう。

ネイティブ広告というと、「通常のタイアップや記事広告とどのように違うのか」という疑問もよく聞きますが、日本で言う一般的にタイアップや記事広告は米国の市場を見ていると“sponsored content”と呼ばれるものに近い。つまり“広告主の広告費によってつくられた記事”と、ネイティブ広告という“枠”については少し違う捉え方をされているように思います。そして特にこの “枠”に関して、英語のnative(土着の/生まれつきの)という語感が持つニュアンスを理解すると、なぜ「ネイティブ広告」と呼ばれるかがより理解できると思います。

nativeの反語はalien(外来の/異種の)であって、「外来生物」というのは alien speciesといいますが、たとえば従来の広告は媒体の編集コンテンツから見てみれば、どこかからやってきた「外来生物」で読者には好かれない対象だった、と考えてみてください。それに対して、「ネイティブ広告」を編集コンテンツなどと同様の顔つきと機能を持ち、共存を目指すようなものと考えれば、「ネイティブ広告」がなぜ「ネイティブ」と冠された広告なのかがお分かりいただけるかと思います。

ネイティブ広告誕生の原点が「効果指標」をひもとくカギ

― ネイティブ広告は、従来の広告と比べて何が違うのでしょうか。

高広:本来、広告には「消費者に必要な情報を届ける」という役割があったはずです。それが「アドブロッカー」などが出てきて、明確にユーザーから広告を嫌っているという態度表明がなされるようになってきました。

この嫌われる状況を生み出した原因として、特にデジタル広告の世界で「購買に近いところにいる人々をターゲティングしよう」というダイレクトマーケティング的なレスポンス型広告ばかりが目につくようになったことが挙げられます。また、過度なオーディエンスターゲティングや、一度訪れたサイトの広告がやたらと追いかけてきて俗に「ストーカー広告」と呼ばれるようなリマーケティング・リターゲティングに嫌悪感を抱く人が増えてきたことが要因であることは、多くの人々が同意する事実でしょう。

インタビューを受ける高広伯彦氏

検索連動型広告の成功以降、デジタル広告の世界では「広告や商品を見た人、サイトを訪れた人には購入意思がある可能性が高い」と考えられ、また、「その後、追いかければ購入するはずだ」という考え方まで広まっています。

しかし、実際のところはたとえ、高くて数%、一般的には小数点以下のクリック率だと考えると、多くの人から、不要で役に立たない、追いかけてくる広告であると思われているかもしれません。

購買プロセスで、比較検討段階だったり、興味本位で広告を閲覧したりということも当然あるわけで、そういう人にとって今のデジタル広告市場が提供している広告は嫌う対象になってしまう可能性が高く、これは広告効果の低下につながるでしょう。

また、購買プロセスでいうと最上位の段階、商品やブランドにまだ興味を持っていないものの、将来的には興味を持ってくれそうな「潜在層」に対して効果を発揮するようなデジタル広告は10年前と比べて相当少なくなった気がします。今は「顕在層」を相手にしたデジタル広告商品ばかりといっていいでしょう。

しかし、ネイティブ広告は「コンテンツ」があることが前提の広告なので、「潜在層」を動かす可能性を「効果」として期待できます。「コンテンツ」を読んでもらうという過程があることよって、態度変容を促すことを目指すことができるということですね。

現状、日本の市場では、ネイティブ広告は「クリック率の落ちてきたディスプレイ広告に変わるクリック率が高い広告」という認識で、ダイレクトレスポンス型の使い方をされているのをよく見かけますが、それではせっかく新しい広告フォーマットが生まれたのに、現状の置き換えとしてしか使われていないうえ、本来的な使い方ではありません。

先行する欧米を見ても、ネイティブ広告をダイレクトマーケティングのために使うというケースは極めて少なく、私が所属している Sharethrough Inc.において、欧米の広告主を見渡してみてもダイレクトマーケティングのためにネイティブ広告を使っているケースは1%もありません。ネイティブ広告の活用理由に関する複数の調査を見ても、まず「ブランドリフトのため」という理由が筆頭にあがっています。

ブランドリフト(Brand Lift)とはブランド認知度、広告想起率、ブランドへの関心度、ブランド購入意向度が広告に触れた人が触れなかった人より上がったことを示す指標です。

(高広氏資料から編集部作成)

日本では、どうしても “広告を見せるだけで購買に結びつかない広告なんて意味がない!”と過剰反応する人が見受けられますが、これは「ブランディング」に対する大きな誤解です。むしろ「ブランディング」は、潜在層から顕在層まで、商品やブランドに対する理解促進・好意度を高めることなどを通じ、“購入意向を高める”ために行われる企業活動です。欧米の企業が「ブランディング」のためのネイティブ広告を活用しているのも、「モノを売るため」なわけです。

JIAAにおいてもネイティブ広告については、この「ブランディング」に関する効果に注目しており、媒体の見た目や機能に応じた広告フォーマットで、かつコンテンツの存在があることを加味した上で、ネイティブ広告の期待される主たる効果を「ブランドリフト」として研究、広告主・媒体社・広告代理店への理解促進を行いはじめています。

もちろん購買プロセスの1つとして広告効果の指標化ということができなければなりませんし、数値化できるというのがデジタル広告の強みであるので、「ネイティブ広告をどのような指標で測るべきか」を示すことが、JIAAのネイティブ広告効果研究チームのテーマとなっています。

― ありがとうございます。後半では、その効果測定方法について詳しく伺います。

この記事の後編を読む

プロフィール

Sharethrough Inc. 日本ビジネス代表 高広 伯彦氏

1996年博報堂入社、2004年電通、2005年Googleを経て、2009年に独立。コミュニケーションプランニングを専門に手がける「株式会社スケダチ」をスタートさせ、その後、並行して、2012年インバウンドマーケティングをメインに手がける「株式会社マーケティングエンジン」を設立した。現在はネイティブ広告配信プラットフォームを提供する米国Sharethrough Inc.の日本におけるビジネスの代表を務め、JIAAではネイティブ広告部会の広告効果分科会リーダーとして広告効果指標の整備に携わる。著書に「次世代コミュニケーションプランニング」「インバウンドマーケティング」など。京都大学経営管理大学院博士後期課程在学中。

株式会社インフォバーン DIGIDAY[日本版]プロデューサー 谷古宇 浩司氏

1972年生まれ。株式会社BCNで情報技術専門の報道記者を務めた後、株式会社アットマーク・アイティ、アイティメディア株式会社で「ITmedia エンタープライズ」「ITmedia マーケティング」など情報技術専門Webメディアの編集・事業責任者を歴任。2015年、株式会社インフォバーン入社、現職。

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