マーケティング戦略

利用客満足度向上のカギは“情報” JR東日本の一策とは?

記事内容の要約

  • JR東日本が公共交通の情報連携サービスの実証実験を展開
  • ねらいは「JR降車客」に対するサービス向上
  • 交通機関の遅延情報もリアルタイムに提供
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東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)は2015年11月、「鉄道・バス・地域の情報連携サービス」の実証試験を実施した。その目的は、利用客の満足度を高める情報サービスのありかたを探ること。この試みからは、「使われる情報サービス」をどう設計し、提供すべきかのヒントが浮かびあがってくる。まずは、JR東日本の実験の全容と、そこから同社が得た「気づき」を紹介しよう。

「降りる」お客さまに注目

今回の実証試験は、東京駅と中央線沿線の武蔵小金井駅、東小金井駅、武蔵境駅の各駅で実施された。

この実験の要は、ほかの交通業者との「情報の連携」にある。具体的には、JR東日本の情報だけではなく、同社の各駅に接続するさまざまな交通機関──たとえば、地下鉄、バス、タクシー、レンタサイクルなどの情報や駅周辺の地域情報を連携させ、「JR東日本の電車から降りた利用客」に向けて提供するというのが実験の骨子だ。これを言い換えれば、鉄道利用者に対する“アフターサービス”を情報によって強化する試みといえる。

そして今回は、スマートフォン向けアプリ(以下、スマホアプリ)「JR東日本アプリ」と、各駅に設置されたデジタルサイネージを活用して乗客への情報提供を実施した。では、その詳細を見ていこう。

JR東日本アプリの東京駅の情報
JR東日本アプリでは、東京駅発のバスや店舗情報などが配信された

JR東日本提供

誰に対してのデジタルサイネージか?

JR東日本ではこれまで、同社の電車に“乗ろうとしている利用客”をメインターゲットに情報を発信してきた。

たとえば、JR東日本アプリは、JR東日本の運行情報などの提供を主眼に開発されたものだ。また、駅構内の電光掲示版やデジタルサイネージにしても、「これから乗車する利用客」を対象にしたメディアとして機能し、デジタルサイネージの画面も、「JRの改札口に向かっていく人」のほうに向けて設置されてきた。

ただ、電車に乗って目的の駅にたどり着いても、それは途中経過であり、目的地に着くためには電車を降りてからも、さまざまな交通機関を利用するという人は少なくない。そうした乗客に向けた情報サービスを充実させれば、結果的にJR東日本に対する満足度の向上につながるのではないか──。そうした考えが、今回の実証実験の背後にあると、JR東日本研究開発センターフロンティアサービス研究所の三田哲也氏(主幹研究員 情報デザイングループリーダー)は言う。

「降りるお客さま向けのサービスという考え方は、実はいろいろなところに現れています。たとえば実証実験を行った各駅でのデジタルサイネージの画面は、これまでとは逆方向──つまり、駅の改札に「向かう人」ではなく、改札を「出ていく人」のほうに向けられているのです。電車を降りた後の情報を見ていただくのだから当然のことではあるのですが、今まではちょっと思いつかないところでした。」

リアルタイム・データの連携がもたらす価値

周知のとおり、スマートフォンやタブレットの市場では、すでに便利な乗り換え案内アプリが民間企業から提供されている。そこで気になるのが、これらのアプリに対するJR東日本アプリのアドバンテージだ。この点に関して、三田氏はこう述べる。

「既存の乗り換え案内アプリも便利な仕組みですが、ベースの情報は静的な時刻表データに限定されることが多いかと思います。それに対してわれわれは、交通事業を営む当事者としてJR東日本を含む各交通機関のリアルタイム・データも収集・連携させられるという強みがあります」

こうしたJR東日本アプリの特性が最も生きるのは、交通機関に遅れなどが発生したときだ。

「列車の遅れを最小限にすることが鉄道事業者にとって最も重要ですが、通勤通学で鉄道を利用する際に、“遅れ”に関する情報がリアルタイムに把握できる仕組みを整えることも不可欠であると考えます。加えて、バス会社などと連携し、鉄道の“大幅な遅れ”に対処するための適切な情報が提供できることも必要となると考えています」(三田氏)。

JR東日本以外の鉄道の遅れも確認可能
JR東日本アプリには、他の鉄道の遅れも確認できる

JR東日本提供

鉄道の利用客が本当に必要とする情報とは

先にも触れたとおり、今回の実証試験ではターミナル駅である東京駅に加えて、武蔵小金井駅や東小金井駅、武蔵境駅など、いわゆる「ベッドタウン」の駅も実験の場として選ばれている。

いうまでもなく、郊外のベッドタウンは、平日の日中における駅の利用客は少ないものの、夕刻から夜にかけての「降車客」の数は多く、それらの顧客に向けた交通機関の情報サービスには相応のニーズがある。

「さらに、そうした街の地域情報、たとえば観光スポットなどの情報を充実させれば、ほかの地域から人を呼び込める可能性も高まります」と、三田氏は付け加える。

2015年11月にスタートを切った実証試験は、2016年2月末で一区切りを迎え、収集したデータや利用者の声を分析しながら、サービスを洗練させていくフェーズに入っている。では、実証試験の結果として現時点(2016年3月時点)で、どのような手応え、気づきが得られたのだろうか。

「結論から先に言えば、われわれが当初立てた仮説どおりの結果が得られています」と三田氏は語り、以下のような説明を加える。

「たとえば、東京駅でもベッドタウンの3駅でも、バス情報のニーズが非常に高いことが確認できました。これはわれわれの想定どおりの結果です」

また、観光のために東京駅に降り立った利用客の多くが、改札を出た後、次なる目的地に向かうバスに関する情報を欲しいと感じている。そのため、「東京駅では、高速バスの運行情報に対するニーズも非常に高かった」(三田氏)と言う。

その一方、想定外だったこともある。実証試験を行った各駅で、バス乗り場に関する駅員への問い合わせが大きく減ることはなかったのだ。

「この結果から、アプリを通じた情報提供の限界と、デジタルサイネージを拡充することの重要性があらためて確認できました」(三田氏)。

確かに、すべての人がスマートフォンの扱いに精通しているわけではなく、また、旅行への関心・出費意欲が高いとされる中高年層のスマートフォン普及率は相対的に低く、2014年末で、50代の普及率は41.8%、60代以上になると10%弱だ(*1)。その点を考慮すると、こうした利用客への情報サービスの展開には、デジタルサイネージの活用が不可避であり、だからこそ、JR東日本ではスマホアプリとサイネージの併用を選択したともいえる。

このような実証実験を通じて取得したデータを活用し、JR東日本では、より利用客目線に立った情報提供を推進しようとしている。

注釈:
(*1)総務省「平成26年通信利用動向調査」(外部サイト)

プロフィール

東日本旅客鉄道株式会社 三田 哲也氏

1996年 入社
車掌、運転士、輸送指令室などを経て、2007年よりIT・Suica事業本部
2010年からJR東日本研究開発センター フロンティアサービス研究所

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