マーケティング戦略

「らしからぬ先鋭コンテンツ」はこうしてつくられる ── 日経ビジュアルデータのスゴさの理由

記事内容の要約

  • 他社の先進的な取り組みに触れ、自社の課題を把握
  • 積極的に技術力を取り込み、活用
  • 基盤となっている強みは自社の持つデータ
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日本経済新聞 電子版(以下、日経電子版)の「日経ビジュアルデータ」(*1)は、インフォグラフィックによって、世の中や世界経済の動きがビジュアル/直感的にとらえられるコンテンツだ。そのセンスのよさで周囲の関心・評価も集め、「日経の制作物とは思えない」という声すら上がっている。そんな「らしからぬコンテンツ」はなぜ生まれ、どのようにしてつくられているのか──。その答えを探ってみたい。

試行錯誤から始まったビジュアル化への取り組み

2016年4月現在で、有料会員数46万人を数えるオンラインメディア『日経電子版』──。これほど多くの有料会員を擁するオンラインメディアは世界的にもほとんど例を見ない。しかも、日経電子版の有料購読者の半数以上は、電子版だけを購読する読者だ。無償の情報が飛び交うオンラインの世界で、メディアが有料会員を獲得するのは極めて難しい実情を考えると、日経電子版のコンテンツが読者にとって代替のきかない、いかに価値の高い情報であるかが理解できるだろう。

ただし、日経電子版のコンテンツは、多くがテキスト記事と写真・図版などからなるオーソドックスなつくりだ。ニュースを伝える上ではそれで問題はないとも言えるが、「技術が進化し、ウェブコンテンツの表現手法も高度化するなかで、旧来型のコンテンツづくりを踏襲していていいのか、という問題意識もありました」と、日本経済新聞社(以下、日経) 編集局 メディア戦略部次長の板津直快氏は語る。

2年ほど前だが、実際、周辺のメディアを見渡すと、例えばニューヨーク・タイムズ紙の「Snow Fall」(*2)のように、最新技術を駆使した、訴求力の高いコンテンツが話題を集めている。また、データとグラフィックを一体化させ、情報を的確に伝える「データジャーナリズム」の潮流も勢いを増しつつあった。

こうした先進的な取り組みに追随すべく、日経新聞では2014年からグラフィックを前面に押し出したコンテンツをつくりはじめる。その初期のコンテンツとして制作したのが、東京モノレールの開業50周年に向けて、その歴史をビジュアル化したコンテンツ「東京モノレール50年 車窓から見た湾岸開発史」(*3)だ。

年号ボタンがある、前述のコンテンツのキャプチャー

[年号ボタン]を押すと各年代のモノレールの写真が解説テキストとともに表示されるシンプルなつくりだが、古いブラウザー対応やスマホ画面対応など試行錯誤を重ねることとなり、その結果、完成には1カ月の時間を要したという。

技術力の取り込みで質と量の大幅改善を実現

ところがその後、編集局に専門チームをおくことにより、ノウハウやスキルの蓄積もあって制作スピードは劇的に上がり、2015年4月からの1年間で、47本以上のコンテンツが制作されている。しかも、いずれも表現力・技術力ともにレベルの高いものだ。

また、最近では速報性も意識されている。例えば、2016年4月7日、セブン&アイ・ホールディングス元会長兼最高経営責任者(CEO)の鈴木敏文氏が緊急記者会見を開き、グループの全役職から退く意向を表明した際には、会見の映像とセブン‐イレブンの歩みと成長を示す年表・画像からなるコンテンツを、わずか3時間で完成させて公開している(*4)。

このような生産性向上に大きく寄与したのがエンジニアやデザイナー、記者が一体となったことだと、メディア戦略部でデザイン責任者を務める鎌田健一郎氏は強調する。

「エンジニアはデータジャーナリズムやインフォグラフィックに対する知見がありますし、新技術に対するアンテナも鋭く、勉強も熱心です。“データをこう見せたい”という記者の要望に対して、“この技術をこう使うと訴求力がさらに高まる”といったアイデアもさまざまに出してくれる。コンテンツの品質・生産性向上に対するエンジニアの寄与はとても大きいのです」

表現力と取材力の相乗効果が生み出す「新しい視点」

このように、多彩な表現力で多くの読者の関心を集めるビジュアルデータだが、その基盤となっているのは、日経の保有するデータ資産やデータ収集力・取材力であることは言うまでもない。

例えば、「巨大ベンチャー“ユニコーン”の勢力図」(*5)と題されたコンテンツでは、劇的な勢いで成長したタクシー配車サービス・ベンチャーのUber社をはじめ、数多くのベンチャーの企業価値が丹念に調べられており、それらのデータが企業価値の大きさを視覚的に、わかりやすく表現する円としてビジュアル化されている。

前述のコンテンツのキャプチャー

また、取材力と新技術の融合によってユニークなコンテンツが生まれた例もある。「荷物がすぐ届くワケ 360度カメラで見た巨大配送拠点」(*6)と題されたコンテンツがそれだ。これは、ヤマト運輸の大規模配送拠点の仕分けライン(全長1キロメートル強)に載った荷物に360度カメラを装着し、ラインで流れていく様子を撮影。これによって、視聴者自身が荷物の視点を持って、荷物はどう運ばれるかという、配送センターの仕組みが直観的に把握できるのである。

これは、360度カメラという新しい撮影方法があったからこそ可能になったコンテンツだろう。

前述のコンテンツのキャプチャー

このように、日経が有するデータやデータ収集力・取材力と、先進的な表現技術がかけ合わされることで、ビジュアルデータという大きなパワーが生み出されている。言い換えれば、インフォグラフィックによるデータジャーナリズムという手法は、日経が持っているデータの価値をさらに高めることができるというわけだ。

「将来的には、ビジュアルデータのコンテンツとデータベースとを連携させ、コンテンツ内のデータを自動で更新する仕組みを導入するなど、ビジュアルデータで培った経験・ノウハウをもとに、日経電子版全体の表現力もさらに高めていきたい」と板津氏は明かす。

インフォグラフィックの力によってジャーナリズムの潮流に影響を与えているビジュアルデータは、メディア企業に限らず、一般的な企業のデータ活用に関しても、新しい視点を与えてくれるのではないだろうか。

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