マーケティング事例

「インダストリー4.0」を日本でも実現する!? データ取引市場の構築を目指すJ-DEXの挑戦

記事内容の要約

  • すでに海外では、企業間でのデータ取引が進んでおり「インダストリー4.0」などさまざまな場面で活用されている
  • データ取引が実現すれば新しいビジネスの可能性が高まるが、現状の日本ではインフラの整備や人的リソースの確保など、さまざまなレベルの課題がある
  • プラットフォーム事業は、2020年に向け、5年間で段階的に発展していく
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「企業間のデータ取引を実現し、経営課題解決に向けてデータの利活用を促進する」という目的のため、2016年2月に設立されたのが株式会社日本データ取引所だ。ビジネスにおいて積極的なデータ活用が世界の潮流となっているなか、後れを取っている日本がデータ活用先進国となるためにはどうしたらよいのか。代表取締役社長の森田直一氏が描く青写真を紹介する。

プラットフォームが可能にする、データを中心にした自由な経済活動

「物品やコンテンツと同じようにデータを売買し、その取引を通じて企業や組織が自由に、他者が収集したデータを利活用できるようにする」― 株式会社日本データ取引所(J-DEX)が描くのは、そんな未来だ。

「データを取引して利活用する」というと、現状の日本ではイメージしづらいかもしれないが、世界を見渡せばすでに似たような例がある。たとえばドイツでは、製造拠点から小売店までデータをつなぎ、物流・生産・調達計画を自動的に調整してサプライチェーンを極限まで迅速化・効率化する、第4の産業革命とも呼ばれる「インダストリー4.0」が進行しているが、これも業界や企業の垣根を越えたデータの利活用が重要なポイントになっている。

もちろん、日本でも個々の企業でのデータ活用は活発に行われはじめているが、企業間でのデータ売買やその利活用となると、残念ながら心もとない状況だ。メーカーや流通企業が販売時点情報管理(POS)データを購入したり、マーケティング会社がパネル調査データを売買したりといったケースはあるものの、諸外国と比べると、日本企業のデータ利活用はまだ発展途上と言わざるをえない。そこで業種や企業の枠を越えてデータ流通を進め、日本のビジネスの発展に寄与しようというのがJ-DEXの狙いだ。

「たとえば、気象データと飲料水販売データを組み合わせれば、小売店は天気に応じて販売予測を立て、最適な仕入れを行えるようになります。また、ビジネスに利用できるデータを所有しているのは、企業だけではありません。たとえばECでの購買履歴のような個人のライフログもビジネスの対象となるのです。現在は、個人の許可なく、その人の情報を本来の目的以外で利用することは個人情報保護法によって禁じられていますが、しくみが整備されれば、個人の意思で、必要としている企業に自分のデータを販売できるようになるかもしれません。当社の目的は、こうした未来の実現に向けてプラットフォームを整えることなのです」と、J-DEX 代表取締役社長の森田直一氏は語る。

J-DEX設立の経緯とデータエクスチェンジプラットフォーム実現への道

ところで、日本のデータビジネスの将来を見据えたJ-DEXは、どのような経緯で設立されたのだろうか。

J-DEXの母体は、企業間データ取引のためのプラットフォームの構築・実証を進めるために2014年に設立されたLLP(有限責任事業組合)コンソーシアム「データエクスチェンジコンソーシアム」(DXC)だ。

2016年現在、DXCには、日本を代表する大手メーカー、金融、マスコミをはじめとする延べ100社以上の企業が参画しており、そこでは、企業間データのマッチング・分析支援、データ活用の情勢調査、データ分析に携わる人材育成などの施策を実施。そしてその成果として、4つのチームによる協働プロジェクトを成立させた。さらにそれらの活動を通じて、「データエクスチェンジプラットフォーム」の実現に向けた課題抽出やノウハウの蓄積を進めている。


株式会社日本データ取引所 代表取締役社長 森田直一氏

そして、このようなDXCの実績を、現実の事業として推進するために設立された事業会社がJ-DEXというわけだ。森田氏は「DXCは期間限定のLLPなので、存続は2017年3月までです。J-DEXは、DXCの最後の1年間を並走し、それを引き継ぐ形で、未来のデータエクスチェンジプラットフォーム実現を目指します」と説明する。

そのプロトタイプとして、J-DEXがDXCと共に運営しているのが、企業が持つデータをまとめた「データカタログサイト」だ。

会員限定ポータルサイト「データカタログサイト」のトップページのキャプチャー

これは、企業・組織や公共機関が持つオープンデータの所在や種類がわかるようにコンテンツやフォーマットを整理した会員限定のポータルサイトで、各社の実務担当者が自社データの概要、サンプル、事例などを登録・検索できるようになっている。

前述のデータカタログサイトの機能を表した図

これを皮切りに実際にデータ取引が可能となるインフラを整備し、最終的には、あらゆる企業・組織が自由にデータを売買・活用できるプラットフォームへと育てていく方針だ。

活動を通じてわかった、日本でデータ活用が進まない理由

ただし、そのプロセスは決して平たんではない。DXCやデータカタログサイトの運営を通じて、さまざまな課題が浮かび上がっている。

そのひとつが、データの統一フォーマットの問題だ。現状は、企業・組織ごとにデータのフォーマットや粒度が異なっているため、購入したデータを活用しようと思ったら、まずはそれを自社のフォーマットに適合させるところからはじめなくてはいけない。

また、法的な問題もある。たとえば個人のデータを取引する場合、単なる数値として取り扱いが可能なデータと、それができない、個々人のプライバシーに関わるデータの境界線をどこに引くか、あるいは企業であれば、企業機密に関わる情報をどのように保護するかといったことも議論の対象だ。

そしてさらに重要なのが、データを利活用する側の意識改革だ。

もし「自社のデータは機密が含まれるので出したくないが、他社のデータで利用できそうなものは欲しい」という企業ばかりだとしたら、提供されるデータのクオリティー向上は望めない。また、品質はよくても、新奇性の強いデータや、一見、事業と関係なさそうに見えるデータなどについては、その用途に新しいアイデアが出なければ取引に至ることは難しいだろう。

「ほかにも課題は数多くあります。国家レベルでは、データ流通に関するインフラ整備。各企業レベルでは、データ活用文化を醸成するための組織づくりや、データ分析などに携わる人的リソースの確保などです。しかしこのような課題を解決していくことで、データ取引は一歩ずつ実現に向かっていくと思います」と森田氏は話す。

当然ながら、このしくみはすぐに実現できるものではない。J-DEXでは、自動的なデータ売買が可能となるプラットフォームの実現に向け、2016年から2020年までの5年間の事業発展モデルを描いている。

前述のデータエクスチェンジプラットフォームにおける発展モデルの仮説を表した図

仮説によれば、現在取り組んでいるのは、いわば「第ゼロ世代」に位置づけられるプロトタイプであり、その後に、第1世代、第2世代、第3世代と発展するモデルとなっている。しかし、技術の急速な進化と普及を考慮すると、第1世代はコンセプト段階で陳腐化し、実際はブロックチェーンや人工知能(AI)を主役にした第2世代のプラットフォームから実用化される可能性もあると森田氏は見ている。

一方、森田氏は、「2016年は、いわば『データ取引元年』。データ取引というビジネスに対する関心やアイデアを深めることも、今後の大きな課題です。しかし、その道のりは長くなるでしょう」と率直な気持ちを打ち明ける。

それでもJ-DEX に“やらねばならない”という思いがあるのは、労働人口の減少が叫ばれ、競争力が後退している日本企業を応援したいという熱意があるからだ。


株式会社日本データ取引所 代表取締役社長 森田直一氏

「現在の日本企業は、自社にあるデータを活用するだけでもここまでの経済規模を実現しています。それならば、オープンなデータ取引によってデータとデータをかけ合わせることが可能となれば、新しいビジネスの可能性は指数関数的に増えるはず。それを通じて、日本の企業はいっそう元気になっていくと、私は考えています」。そう語る森田氏とJ-DEXが実現する未来に期待したい。

プロフィール

株式会社日本データ取引所 代表取締役社長 森田 直一氏

1964年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、三菱商事株式会社に勤務。ニューヨーク駐在をはさみ、約20年間、主にIT分野の事業開発に従事する。その後、Entrepia Venturesパートナー、株式会社マクロミル執行役員、株式会社ザッパラスの米国法人であるZappallas,Inc.(U.S.)の 最高経営責任者(CEO)を経て、2016年2月パートナー企業2社と共に株式会社日本データ取引所を設立。

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