マーケティング事例

接客ロボットに機械学習は不要!? 来店客をファンに変えるPepperの技[後編]

記事内容の要約

  • Pepperの高い会話力を実現しているのは、独自開発された会話エンジン
  • コンプライアンス違反を未然に防ぐため、あえてディープラーニングなどは非適用
  • 人間とPepperの役割分担を適切に行うことで、業績や顧客満足度の向上が実現可能
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この記事の前編を読む

スーモカウンターで人間に接客するPepperの“頭脳”を開発しているのが、リクルートテクノロジーズ ITソリューション統括部 アドバンスドテクノロジーラボだ。スムーズな会話が可能となるその頭脳は、どのようにつくられているのか。開発者の塩澤繁氏に、そのしくみと課題を聞いた。

Pepperの会話をつかさどる頭脳「TAISHI」とは

現在、15店舗のスーモカウンターで活躍するPepperだが、その頭脳を開発したのが、株式会社リクルートテクノロジーズ (以下、リクルートテクノロジーズ)ITソリューション統括部 アドバンスドテクノロジーラボ(以下、ATL)だ。ATLが自然言語処理技術に基づき独自開発した会話エンジン「TAISHI」が、Pepperの頭脳の基となっている。

TAISHIは、2013年に株式会社リクルートジョブズがリリースした、声でスケジュールを登録・管理するスマホアプリ「ジョブーブのこえ手帳」の中核技術として開発された。そしてそれ以降も進化を続け、SNSなどで会話エンジンとして使用されるようになった。この流れで2014年に誕生したのが、フロム・エー ナビの人気キャラクター「パン田一郎」のLINE公式アカウントだ。

LINEの公式アカウント「パン田一郎」
LINEアカウントのキャプチャ

開発に携わったリクルートテクノロジーズ ATLの塩澤繁氏によると、TAISHIの内部は、次のようなものだという。

内部には、基本的な会話パターン数万件を登録した「会話データベース」と、テキストを自然言語処理してその会話の意図を把握し、適切な会話例を選び出す「会話エンジン」がある。パン田一郎の場合、LINEでの自然な会話を実現するため、レスポンスの時間にもこだわり、あえて数秒置いてから会話を返すように設計しているそうだ。人間が言葉やスタンプを選ぶ間合いを再現することで、よりリアル感が実現できるという。

Pepperが「会話パターン」だけで会話する理由

人工知能(AI)といえば、何度も会話ややりとりを積み重ねるなかでフィードバックを受け、アルゴリズムが進化していく「ディープラーニング」が注目されている。だが今回のPepperでは、あえてディープラーニングや機械学習テクノロジーを適用せず、あらかじめ登録させた会話パターンからの一問一答形式にこだわった。その理由を塩澤氏は次のように話す。

「AIに、何をどうやって学習させるかによりますが、誤ったディープラーニングは、企業のコンプライアンス上、好ましくない結果を生むことがあります。先日、機械学習AIのチャットボット(*1)が不適切な発言を繰り返し、公開後すぐに稼働停止するという出来事がありましたが、これはまさにその一例です。レコメンドエンジンなどは別ですが、企業と顧客のコミュニケーション手段としてAIを使う場合、コンプライアンス違反を未然に防ぐには、現時点では人手による対策が必要です。今回のPepperの場合、登録した会話パターンや言葉に限定することで、問題が発生するリスクを削減しました。来店した方も、不快な思いをすることなく、ロボットとのコミュニケーションを楽しめます」

LINEアカウントのキャプチャ

リクルートテクノロジーズ 塩澤氏とPepper

応用分野と可能性は無制限、それが競争力の源

本格展開から5カ月が経過したが、Pepperに対する顧客の反応は総じてよく、前編で説明したような効果も実際に出ている。また店舗の専任スタッフも、スーモカウンターの簡単な案内や紹介、子どもとのコミュニケーションなどはPepperに任せ、より付加価値の高い接客に注力できる。こうした総合的な評価を鑑みながら、今後も設置店舗を増やしていく可能性もあるという。

とはいえ、会話生成エンジンの可能性はPepperに限定されたものではない。たとえばコールセンターなど、会話パターンがある程度蓄積されており、応対力と迅速さが求められるコミュニケーションでは、会話生成エンジンやおよび機械学習のが果たす役割は大きいと考えられる。機械と人間の分業が進むことで、より付加価値の高い応対や問い合わせに人手を割くことができるので、顧客満足度も向上する。

会話生成エンジンは、なぜ専門的な会話ができるのか
会話生成エンジンが、専門的な会話をするまでの仕組みを表した図。会話生成エンジンに専門的な辞書を追加していくことで、適用可能な分野を広げられる。

そもそもリクルートテクノロジーズATLのミッションは、グループ競争力強化に向け、競合優位性の高い要素技術などの最先端研究を行うことにある。要素技術となる頭脳を固めておけば、将来的に別のデバイスやロボットが登場したとき、その頭脳を適用して新たな接客やコミュニケーションを実現できる。

同社は現在、Pepperという最新ハードと、これまで蓄積してきた会話生成エンジンという成果を組み合わせ、今しか提供できない新たな“接客”で効果を出しているが、未来の世界では、予想もしない新たな接客や対面コミュニケーションが現れるかもしれない。そのとき、Pepperで得た成果やノウハウが、また新たな分野で花開くはずだ。

注釈:
(*1)【キーワード】チャットボット(Chatbot)参照

プロフィール

塩澤 繁氏

1976年生まれ。大学卒業後、外資系金融機関に勤務後、国内金融機関へ前職の3名と共に新ビジネスを提案、異動後に新ビジネスの立ち上げに従事。2008年に株式会社リクルートのIT部門であるFITに転職。アジャイル開発のマネージメント、海外拠点の立ち上げ、リケジョとのIoT製品開発等を担当。現在は、自然言語会話エンジン(TAISHI)とロボットの開発に従事する。

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