マーケティング戦略

三井不動産レジデンシャルの挑戦[前編]~ 「電力の使い方」をマーケティングデータに!

記事内容の要約

  • 「節電意識の高まり」を契機に電力消費データを活用したサービスを着想
  • 電力消費をベースとした「居住者のライフスタイル」を分析し、付加価値を提供
  • HEMSを通じて判明した居住者の要望を把握し、顧客満足度を向上
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電力小売り自由化やスマートメーターの普及などを背景に、「HEMS(ヘムス)」という、電力の使用状況を各家庭で把握できるシステムが注目を集めている。市場調査会社である株式会社富士経済によれば、2020年にはHEMSの累計導入戸数は160万戸に達するという(*1)。この、HEMSを通じて得られる電力消費に関するデータをマーケティングに活用し、マンションそのものの付加価値を高めようとしているのが三井不動産レジデンシャル株式会社だ。どのようなしくみでデータを可視化し活用するのか、その施策を追った。

HEMS活用の契機は3.11以降の「節電意識の高まり」

「HEMS」とは、「Home Energy Management System」の略称で、住戸内で使用している「エネルギー量の見える化」や「家電制御」の機能によって、電力などのエネルギーを効率的に利用するための管理システムだ。前出の富士経済によれば、2016年度以降、HEMSの導入は加速し、2020年度末には累計導入戸数は160万戸、市場規模は263億円に達するという数字もある。

三井不動産レジデンシャルで新築分譲マンションの商品企画を担当する、市場開発部 商品企画グループ 主事の町田俊介氏は、同社のHEMSを活用した取り組みの契機は、2011年3月の東日本大震災にあると語る。

「当時実施されていた計画停電などをきっかけに、節電に対する消費者の関心が高まり、工場やオフィスビルだけでなく、一般住宅でも『ピークカット』(電力需要が集中する時間帯の電力供給量を抑えること)の考えが浸透してきました。HEMSを利用すれば、使用している電力量が一目瞭然となるので、使用電力の多い家電を止めるなど、節電の動きにつながるのでは、と考えました」

インターホンによるHEMS表示
インターホンにHEMSサービスが表示されている図。電力消費量などが表示される。

提供:三井不動産レジデンシャル株式会社

しかし、いくら節電への意識が高まったとはいえ、「電力使用状況の見える化」や「家電の遠隔制御」の機能だけでは、居住者にとってメリットが薄く、HEMSの機器設置が物件選択の動機づけにはならない。そこで同社が考えたのが、電力消費データから居住者の生活行動を可視化し、マーケティングによる付加価値を提供することだった。

電力の使い方で「居住者のライフスタイル」をパターン化

現在、同社が分譲した複数のマンションにHEMSが設置されているが、今回の施策は東芝製のHEMSが設置された都内の2棟が対象だ。各居室にHEMS機器が標準装備されており、そこで取得した電力消費データを、東芝が開発したアルゴリズムにより分析。その結果、居住者のライフスタイル情報はおよそ10パターンに分類され、同社に提供されるしくみになっている。

「たとえば、キッチンの電力消費データを分析すれば、外食が多いのか、あるいは自宅で料理をすることが多いのかという傾向がわかります。また、使用電力が多い世帯は、家電製品をたくさん所有している居住者である可能性が高いことが推測されます。このように、1日における使用電力の時間帯や頻度などを分析することで、おおよその家族構成やライフスタイルが浮かび上がってくるので、それをおよそ10パターンに分類しています」

「省エネ行動の推進」「居住者に対する、新たな価値の提供」がポイント

ではHEMSの導入によって、居住者にはどんなメリットがあるのか。提供される付加価値のポイントは「省エネ行動の推進」と「居住者に対する、新たな価値の提供」の2点だ。この2点について、町田氏はこう説明する。

「『省エネ行動の推進』は、たとえば夏場の電力ピーク時に、居住者のタブレットに商業施設の優待サービスを表示させることで外出を促し、そこで涼んでもらうような無理のない“クールシェア”などがあります。また電力供給会社とのコラボレーションにより、各戸で削減した電力量に応じて、翌月以降の電気料金の支払いに利用できるポイントを居住者に付与しています。このようにして、電力ピーク時における、マンションの総使用電力量の減少に取り組んでいます」

外出をすすめるHEMSの画面
電力消費のピークが近くなると、商業施設などへの外出をすすめる情報が表示される。

提供:三井不動産レジデンシャル株式会社

「また、『居住者に対する、新たな価値の提供』については、居住者のライフスタイルに応じて、レストランや商業施設などの優待や、さまざまな商品を優待価格で購入できるサービスを提供しています。具体的には、三井不動産グループの商業施設が優待利用できるほか、提携企業が提供するキッチン用品や家電製品、食料品などを優待料金で購入できるというものです」

ライフスタイルに応じたサービスを提供
前述の内容を表した図。

提供:三井不動産レジデンシャル株式会社

居住者から高く評価されるHEMS

この電力消費に応じたサービス付与のしくみについて、実際に居住者たちはどう感じているのだろうか。

居住者を対象に行った「HEMS利用状況に関する調査」では、「家電を使ったときの使用電力が確認できる」「電気料金の意識づけになる」という評価が多く、また今後、HEMSに期待する機能として「自分たちにお得な電気料金プランを提案してほしい」という声が多かった。一方、「操作方法がわかりづらい」という不満点も見受けられる。

こうした結果を受け、「今後はデバイスのあり方も含め、よりいっそう、居住者一人ひとりに対する、パーソナライズされた情報やサービスの提案につなげていきたいと思っています。HEMSを設置しただけで終わりではなく、そこからお客さまとの関係構築がはじまると考えています」と町田氏はいう。

さらに、「実は施策から得られた知見は、新たな分譲マンションの商品企画にも生かされているのです」と続ける。

ではいったい、マンションそのものの商品価値向上のために、電力消費データはどのように活用されているのだろうか。後編で詳しく見てみよう。

前編を読む | 後編を読む

注釈:
(*1)富士経済マーケット情報(外部サイト)

プロフィール

三井不動産レジデンシャル株式会社 市場開発部 商品企画グループ 兼 総務部 環境推進室 主事 町田 俊介氏

2007年入社後、新築分譲マンションの開発部門や営業部門を経て、2011年より現職。環境・防災・ICT関連の横断的な商品企画やマンション居住者のライフスタイル調査などのマーケティング業務を担当。

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