マーケティング戦略

みずほ銀行のデータ活用戦略[前編]──収益5倍増を実現したマーケティング改革とは

記事内容の要約

  • 3行統合を契機に顧客データも統合し、データベースマーケティングを本格化
  • マーケティング実践のために、システムで顧客のライフイベントを注視
  • システム基盤を改善することで、One to Oneマーケティングのヒット率を3倍、収益5倍増を実現
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日本を代表するメガバンクであるみずほ銀行は、国内金融業界の中でも先進的なIT活用で知られている。それは、マーケティングにおけるデータ活用についても同様だ。同行では、膨大な行内データを積極的に活用し、One to Oneマーケティングによる収益を過去の5倍にまで伸ばしているという。その驚くべき成果をあげている背景を探る。

90年代後半から本格化したデータベースマーケティング

みずほ銀行は、2002年4月に、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行統合により誕生した。そのみずほ銀行を中核とするみずほフィナンシャルグループは、かねて最新のITによる金融サービスの変革に意欲的に取り組んできた。

最近では、グループ共通のプライベートクラウド「みずほクラウド」を構築し、勘定系システムを除く各種業務の共通システム基盤として運用を開始。また、コールセンターや店舗での窓口業務・顧客対応の支援・自動化を目的に、IBMのコグニティブ・システム(*1)の1つである「IBM Watson」や、ソフトバンク・ロボティクスの人型ロボット「Pepper」を導入した。さらに2016年3月には、ブロックチェーン技術(*2)を応用したクロスボーダー証券取引決済システムの実証実験を行うなど、いわゆるFinTechの分野でも日本の金融機関の先頭を走っている。

そんなみずほ銀行では、マーケティングにおけるITやデータ活用の歴史も長い。同行で個人顧客向けのマーケティングを担当する、ビジネス開発推進部 データベースマーケティングチーム 参事役の吉澤陽子氏によれば、旧行時代の1990年代後半には、行内データを個人向けマーケティングに活用するデータベースマーケティングを本格化させていたという。

「低金利時代を迎え、銀行の収益性が大きく変化する中で、お客さまとのつながりを強化しながら、それぞれのニーズにフィットした新たな商品やサービスを開発・提案していく必要に迫られました。データベースマーケティングの始動は、そうした事情に端を発したものです」(吉澤氏)

バブル期以降の普通預金と定期預金の推移
バブル期以降の普通預金と定期預金の推移

杉並区「普通預金、定期預金金利の推移」および日本銀行「金融経済統計月報」より作成

“イベント・ベースド・マーケティング”へのシフトチェンジ

マーケティングでのデータ活用の取り組みは、3行統合によるみずほ銀行の発足を契機にさらに加速したが、そうした施策の根底に流れているコンセプトは、結婚・出産、子どもの進学、住宅購入といった顧客の「ライフイベント」に合わせて適切な金融商品やサービスを提案する「イベント・ベースド・マーケティング=Event-based Marketing(以下、EBM)」の実践だ。

いうまでもなく、生活者個人が生涯の中で銀行と取引する機会はそう多くあるわけではない。EBMは、そうした数少ない商機を確実につかむための施策であり、みずほ銀行では2006年からその展開に乗り出している。

「かつてのデータベースマーケティングのアプローチは、お客さまをセグメントし、それに基づいて商品やサービスを提案するという手法でした。しかし、このような“静的”なアプローチでは、お客さまのニーズの変化を的確につかむことはできません。そこで2006年からはマーケティングの手法を一歩進化させ、行動履歴や当行との取引データなどからお客さまごとの変化をとらえ、そのタイミングに合わせて適切な商品やサービスをおすすめするアプローチに切り替えています」(吉澤氏)

この個人向けマーケティング施策は、2009年に法人向けマーケティングと統合する形でシステム基盤を拡大し、さらに本格化したという。

ヒット率を3倍、収益を5倍に

では、そのEBMとは、具体的にどのような施策なのだろうか。

その一例が、長期金利が下がったときに住宅ローンの借り替えを提案したり、子どもが大学に入学するタイミングで教育ローンを案内したりするといった取り組みだ。

こうした取り組みを着実に推進するために、同行ではデータベースマーケティング用のシステム基盤を用意し、膨大な行内データの中から個々の顧客データを抽出・分析するためのしくみ仕組みを整えた。それを活用しながら、顧客ごとの属性や、預金の出し入れなどに変化があればそれを検知し、適切な提案を実践しているのである。


EBMの概要
顧客の情報を収集、分析し、ライフイベントにあった適切な提案をするのがEBMだ。

吉澤氏は、こう語る。
「現在は、個々のお客さまの行動をモニタリングして分析し、インターネットバンキングのサイトやダイレクトメールを通じて適切な情報を提供しています。また逆に、お客さまのニーズに変化がないときには、不要と思われる接点は持たないようにしています。この施策展開を支える分析基盤を2009年に拡大させてからは、One to Oneマーケティングのヒット率が過去の2~3倍、EBMによる収益は約5倍にまで高められ、お客さまの満足度も大きく向上しています」

加えて2014年12月には、業務の生産性向上とマーケティングパフォーマンスのアップを狙ってシステム基盤を一新。店舗に顧客を誘導するというオムニチャネルの施策にも力を注いでいる。

「個人のお客さまは、大多数の方が店舗で契約を結ばれます。ですから、インターネットバンキングを含めたあらゆるチャネルを通じて、適切なタイミングで適切な商品をご案内し、店舗への来訪を誘導することが大切ですし、店舗でもお客さまのニーズを事前に把握しておくことが重要です。当行では、そうした観点からオムニチャネルの施策を行い、一定の成果をあげているのです」(吉澤氏)

このように、みずほ銀行はいち早くデータ活用の重要性に着目し、強力なマーケティング施策を進めてきた。では、その施策を実現するために背後で動いているシステム基盤とは、どのようなものなのだろうか。後編では、みずほ銀行のマーケティングを支えるIT施策にフォーカスを当てる。

前編を読む | 後編を読む

注釈:
(*1)コグニティブ・システム:膨大なデータを理解し、大規模に学習し、目的を持って推論し、人と自然にかかわり合う新たなコンピューター・システム
(*2)ブロックチェーン技術:ネットワークに接続された複数のコンピューターが取引記録などを共有し、相互に認証する仕組みしくみ。特定の管理者がいないため、改ざんや攻撃に強いとされる

プロフィール

株式会社みずほ銀行 ビジネス開発推進部 データベースマーケティングチーム 参事役 吉澤 陽子氏

1992年富士銀行入社。1999年持株会社みずほホールディングスへ出向し、個人ビジネスを支える分析基盤の企画・構築プロジェクトをけん引。2002年みずほ銀行発足と同時に個人戦略企画・セグメント戦略再構築に従事。2006年以降はCRM戦略の企画推進、邦銀初のEBM本格導入・推進、最近では銀行データ×外部ビッグデータによる顧客インサイトに基づいたみずほプライベートDMPの企画構築をけん引している。

株式会社みずほ銀行 IT・システム統括第一部 戦略情報基盤システム推進チーム 調査役 家村 育民氏

2005年九州大学大学院卒業後、IT戦略会社を経て2009年株式会社みずほ銀行入社。以来、みずほグループのIT戦略立案に従事。最近では、オムニチャネル戦略を支えるビッグデータ分析基盤の企画推進や、人工知能(AI)等のテクノロジーを駆使したデータ利活用促進のための施策立案に携わっている。

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