マーケティング戦略

「野村AI景況感指数」のスゴ腕[前編]~ AIが目をこらせば景気の深層が見えてくる?

記事内容の要約

  • 人工知能(AI)で政府・日銀の景況認識を指数化する「野村AI景況感指数」のシステムを開発
  • しくみの中心は、人間の書いた自然言語の文章から景気の状態を判断するディープラーニング
  • 「景気ウォッチャー調査」のぼう大なデータを学習させることで、予測データの精度を向上
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政府や日本銀行(以下、日銀)は、経済状況をさまざまな側面から分析し、その結果を記述したテキストを公表している。これは、日銀の金融政策や政府の経済政策の先行きを予測するうえで非常に重要な情報だ。それらのテキストを、野村證券が独自の人工知能(AI)で分析・指数化した「野村AI景況感指数」が、今、金融業界のあらたな取り組みとして話題を集めている。AIによる分析が、専門家を超える示唆を提供しはじめているからだ。その舞台裏を紹介する。

文字で書かれた文書から数値を導く

「値下げする商品の減少と、仕入れた商品のさばきを見るかぎり、順調と思える」。

人が読めば、この一文を書いた人物は、世のなかの景気を「上向き」、あるいは「やや上向き」と判断している、ということがわかるはずだ。

ところが旧来の文章解析システムにとって、冒頭のような、人間が普通に話をするように書かれた文の意味を正確に読み解くことは難しい。では、人工知能を使うことで、ぼう大な同種の文書を理解・解析し、景気の動向を探ることはできるのだろうか。

そのような発想からスタートした、大量の資料をAIで読み解いて景況感を数値で表そうという試みが、野村證券株式会社の「野村人工知能モデル」だ。そして、このモデルを用いて算出された景況感の指数が、現在注目を集めている「野村AI景況感指数」だ。

政府と日銀の2種類の景況感を提示

現在、野村AI景況感指数には、分析対象とする資料によって大きく2つのタイプがある。

まず1つは、内閣府が毎月発行する「月例経済報告」(*1)を主な分析対象とする、日本政府の景況感を指数化したモデルだ。

「内閣府の月例経済報告は、政府の景気認識を記述した資料で『個人消費は、消費者マインドに足踏みが見られるなか、おおむね横ばいとなっている』といったように、文章で各項目に関する景気認識が示されています。これを読み解いて景況感を数値化することで、財政出動の有無など政策を予測するための示唆が提供できると考えました」と、金融経済研究所 経済調査部エコノミストの水門善之氏は語る。

もう1つは、日銀の景況感を指数化したモデルだ。

こちらは「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」(*2)や「金融政策決定会合における主な意見」(*3)といった日銀の公表資料を主な分析対象とし、政府資料の場合と同様、文章を分析することで日銀の景況感を数値化している。

95%の精度で景気の動向を判別

野村人工知能モデルが文章の精緻な分析を実現しているのは、従来のテキストマイニング(*4)のアプローチとは異なるディープラーニング技術による。

たとえば、従来のテキストマイニングでは、「値下げ」、「減少」、「下降」などの「ネガティブ」と評価する単語と、「値上げ」、「増大」、「上昇」などの「ポジティブ」と評価する単語を数えあげる方法によって、果たしてその文章では「ネガティブ」な意見を述べているのか「ポジティブ」な内容なのかという判定を下していた。

しかしこのような手法では、冒頭で紹介したような一文からは、「(景気が)上向き」、あるいは「やや上向き」といったポジティブな結果を導き出すのは難しい。というのも、文章中に、「値下げ」や「減少」といったネガティブ単語が出てくるためだ。

これに対し、野村人工知能モデルは、「値下げする商品の減少」という文脈を正しく理解し、その文の内容がポジティブなものだと判定できる。

「しかも、その判定の精度は、機械学習によって95%近くにまで高めることができます」と、野村人工知能モデルの開発で中心的な役割を演じた、金融工学研究センター シニアクオンツアナリスト 山本裕樹氏は語る。

20万件の「景気ウォッチャー調査」で学習

野村人工知能モデルの開発にあたって利用したのが、内閣府の「景気ウォッチャー調査」(*5)だ。景気ウォッチャーに対して実施した20万件というぼう大な数のアンケートデータをAIに読み込ませ、1つひとつの回答についてAIがどのような判定を下すかを確認しながら、調整を進めたのだ。

「このような機械学習により、AIは、“(景気が)良くなっている”、“やや良くなっている”という、人間の景況判断と文章の対応関係を自動で学んでいき、95%の精度で文章の意味を理解するようになるのです」と、山本氏は説明する。

また1つの事実について、それを景気が良いととらえるか、悪いと感じるかは個人によって差があるが、それはぼう大な量のデータによってならされてくるという。

では、文章からAIが割り出した景況感は、どのように指数化されるのだろうか。

「たとえば、内閣府の月例経済報告であれば、一文ごとにAIが景況感を判定して、0(最悪の景気)から100(最高の景気)までの範囲で指数化します。そしてその平均値を求め、全体の景況感の好悪を指数化しているのです」(水門氏)

月例経済報告に基づく野村AI景況感指数の作成手順
前述の内容を表した図

月例経済報告を一文ずつ指数化。その平均値を取って最終的な野村AI景況感指数とする。

日銀の“サプライズ政策”を事前に示唆

野村AI景況感指数は、すでにそのデータの有効性を実証している。たとえば、2014年10月31日に、日銀が追加の金融緩和を決定した。この決定は、アナリストのおおかたの予想を裏切る“サプライズ緩和”だったが、同時期の野村AI景況化指数は、日銀が景況感を悪化させていることを示していた。つまり、指数は追加緩和があることを示唆していたわけだ。

野村人工知能モデルによる景況感指数の推移
野村AI景況感指数は、追加金融緩和時に景況感を悪化させていた。

また、2015年10月30日、日銀は追加緩和を先送りした。これも市場の予想を裏切るものだったが、野村AI景況感指数は日銀が景況感を好転させていることを示し、先送りの可能性が高いことを示唆していたのである。

これらは、野村人工知能モデルによる分析の正確性を物語るものといえる。

しかし、水門、山本両氏によれば、AIは決して万能ではなく、当然ながら限界もあるという。では、その限界とはいかなるもので、なぜ、そのような限界が生まれるのだろうか。後編ではAIの現実と可能性を見ていく。

前編を読む | 後編を読む

注釈:
(*1)内閣府「月例経済報告」(外部サイト)
(*2)日本銀行「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」(外部サイト)
(*3)日本銀行「金融政策決定会合における主な意見」(外部サイト)
(*4)「テキストマイニング」文章を単語や文節で区切って要素とし、それら要素の出現頻度や傾向、要素間の関係性などを解析する手法。 
(*5)内閣府「景気ウォッチャー調査」(外部サイト)

プロフィール

野村證券株式会社 金融経済研究所 経済調査部エコノミスト 水門 善之氏

2007年東京大学大学院修士課程修了後、野村證券入社。同社金融経済研究所金融工学研究センターにて、債券クオンツアナリストとして、日本国債および金利デリバティブの市場分析に従事。2013年米国ミシガン大学経営大学院修了後、金融経済研究所経済調査部に所属。現在、エコノミストとして日本経済のマクロ経済分析を担当。

野村證券株式会社 金融工学研究センター シニアクオンツアナリスト 山本 裕樹氏

2006年京都大学を卒業、物理学修士。同年に野村證券金融工学研究センターに入社。2010年には事業ポートフォリオに関する研究で証券アナリストジャーナル賞を受賞するなど、一貫して金融分野での定量分析に従事している。 2014年から社会人ドクターとして東京大学の松尾豊准教授の元でディープラーニングを学び、金融とAIに関する研究に取り組んでいる。

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