マーケティング戦略

リクルート「スタディサプリ」の秘密[後編]―― データがやる気を引き出す!

記事内容の要約

  • 複数の単元の関係性をモデル化・可視化することで、つまずきの原因となる単元を見つけ出し、根本的な苦手克服を実現
  • ログデータから受講生の学習パターンを分析し、効果的な保護者の対応法もアドバイス
  • 地域・所得格差で“学習できない”層の解消に向け、積極的に市場開拓、海外展開を進める
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学習ログデータ分析などを駆使して、受験生をはじめとする、ユーザーの学習成果の最大化を実現するのが、リクルートが提供するスタディサプリだ。現在、スタディサプリは、塾や予備校のない地域、あるいは経済的理由で十分な受験対策ができない層への支援だけではなく、学校との連携、海外市場への展開なども積極的に進めつつある。いっそうの広がりを見せるスタディサプリだが、その成功の理由はどこにあるのか。

ニューラルネットワークで、つまずきの「原因」を特定

リクルートマーケティングパートナーズが提供するオンライン学習サービス「スタディサプリ」(*1)は、これまでの塾や予備校、通信教育とはまったく異なっている。これはデータを活用した、いわば「未来の学習法」だ。スタディサプリのビジネス展開を担当する同社の、まなび事業本部 オンラインラーニング事業推進室 事業開発部 コミュニケーションデザイングループ グループマネジャー 松尾慎治氏は「人工知能研究で有名な、東京大学の松尾豊先生の研究室と一緒に、データを学習に有効活用すべく共同研究を行っています」と明かす。


株式会社リクルートマーケティングパートナーズ まなび事業本部
オンラインラーニング事業推進室 事業開発部 コミュニケーションデザイングループ
グループマネジャー 松尾慎治氏

そんな研究中の機能のなかでも大きな成果が期待されるのが、つまずきの根本原因を特定・レコメンドする機能だ。

「これまで、できない単元に関しては、その単元の簡単な問題を繰り返し解かせることしかできませんでした。しかし、それでは根本的なつまずき克服にはつながらないのではないかと考え、共同研究をはじめました。そこでは“Aという単元を理解するには、B単元の知識が不可欠”というふうに、各単元の関係性をネットワークモデルで可視化することを試みています。そして、このモデルに基づき、苦手単元克服のために復習するべき単元をレコメンドします。これにより、小手先の解き方の習得ではなく、根本的なつまずきの原因を取り除いて理解度を向上できると考えています」(松尾氏)

図形の証明におけるネットワーク図のサンプル
図形の証明問題の理解には、非常に多くの単元が関連している。

現在この研究は、モデル化しやすい数学分野で実証実験が進められている。将来この機能が実装されれば「“わけがわからないまま授業が進んでしまう”という状態が解消することになると思います」と松尾氏は語る。

モチベーションを上げる・やる気を引き出すためのデータ活用

前編で紹介した、小学・中学講座の受講生に対する保護者の「ほめ方・叱り方」も、実はスタディサプリのデータに基づいている。学習のペースによって、ほめるべきか叱るべきかという判断や、効果的な言葉のかけ方などに悩む保護者も多い。そこで児童心理学者や教育専門家の研究をもとに、モチベーションを最大限に引き出す方法や接し方を保護者にアドバイスするのだ。

また、ユーザーの学習ログを見ながら、「離脱しそうな波形」や「コツコツ型」「追い込み型」などのパターンを洗い出し、受講生のやる気を促進するために効果的な、保護者の対応法について日々研究を重ねているという。

仮説・課題を発見するためのプロセス

データ活用において難しいのは、まず分析すべき仮説を立てることだ。では、リクルートマーケティングパートナーズでは、仮説立案や課題発見をどのように行っているのか。

松尾氏は、いくつかパターンがあると説明するが、第一に、ログデータを見てほかの箇所と異なる異質なポイントを特定し、その理由を分析することだ。

たとえば、動画視聴の離脱ポイント分析がそれだ。データから、動画内で、ユーザーが板書を写す時間を確保するために講師がいったん画面から姿を消す瞬間―いわば空白の時間を設けていたのだが、そこで大半のユーザーが離脱することがわかった。

その理由についてユーザーにヒアリングしたところ、「板書を写すときには自分でポーズ(一時停止)ボタンを押して再生を停止している」ということがわかった。そこで、空白の時間をつくらない動画を撮り直すことにより、受講中の離脱率を大幅に削減することができた。

次に、ユーザーに直接ヒアリングすることだ。実際に使っているユーザーの意見だからこそ、提供側では気づきにくい改善点や課題などの示唆を得られる。「受験サプリリリースから5年たち、ようやくデータが蓄積されてきました。そのデータに基づいて検証しながら進められるようになったことも大きなポイントです」と松尾氏は語る。またコンテンツ改善については、やはり動画のレーティングや離脱ポイントなどのデータをもとに立案することが多いという。

少子高齢化のなか、多角的に展開するスタディサプリ

また同社では、スタディサプリで蓄積したデータを教育現場に還元することもはじめている。2015年3月現在で、全国に高等学校は約5000校あるが、そのうち700校以上でスタディサプリを取り入れ、授業で活用しているほか、データをもとに学習指導や進路指導を行っているそうだ。

スタディサプリ 教師用の画面

「将来的には、文部科学省はもちろん、地域の教育委員会とも連携し、学習データというビッグデータを有効活用していきたい」と松尾氏は語る。
さらに、フィリピンやインドネシア、メキシコなどでも「Quipper」(*2)というサービス名で、スタディサプリと同様のサービスを展開している。

「教育環境格差に悩む国はまだたくさん存在します。国内市場は少子化といわれていますが、学習環境の格差に悩む層はまだ多く、それは海外でもあっても状況は同じです。そうであれば、海外市場や学校との連携など、可能性はさらに広がると思います。そこでまたデータを得て、若い人が勉強するチャンスやモチベーション向上に貢献したいですね」(松尾氏)

低価格・高品質なサービスで、勉強したいという子供たちの意欲を支援するスタディサプリ。教育環境格差解消という理想に向けて、これからもさらに拡大を続けていくだろう。

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注釈:
(*1)スタディサプリ(外部サイト)
(*2)Quipper(外部サイト)

プロフィール

株式会社リクルートマーケティングパートナーズ まなび事業本部 オンラインラーニング事業推進室 事業開発部 コミュニケーションデザイングループ グループマネジャー 松尾 慎治氏

2006年リクルート入社。Hot Pepperの新規開拓営業や、じゃらん・リクルートエージェントなど全社のウェブサービスの新規立ち上げ、リニューアルおよびウェブ集客をサポートする業務に従事したのち、2010年に学び事業に異動し新規事業開発を担当。2011年、大学受験をサポートする「受験サプリ」を立ち上げ、以降サービス運営に携わる。

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