マーケティング戦略

博報堂生活総研に学ぶ未来の読み方 [前編]―― 仮説のフレームワーク

記事内容の要約

  • よい仮説を立てるには、軸の取り方が重要
  • 感覚的な志向の人間と論理的な志向の人間が同じテーブルで議論する
  • ロングレンジのデータに注目してストーリーをつくる
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博報堂生活総合研究所(博報堂生活総研)は、「生活者発想」でさまざまな事象の分析を進めるシンクタンクだ。人間を単なる消費者としてではなく、「生活する主体」としてとらえ、その意識と行動を研究している。

そんな同研究所が、「あしたのまちの100の風景」(*1)という、少し変わった未来予測を2016年1月に発表した。人口減少や超高齢化などが本格化する2025年以降、「社会保障システムが崩壊する」と警鐘を鳴らす識者もいるように、「未来予測」は悲観的に語られがちだが、博報堂生活総研のアプローチはそういった予測とは一線を画している。

2025年の街を描く軸として設定したのは、人口動態や社会保障費といったマクロなものではない。人の住む場所である「生活空間」というインフラ面をまず軸として、そこにもうひとつ、人と人のつながりを示す「人間関係」という軸を設定したのだ。そして「生活空間」と「人間関係」をそれぞれ、「あけるか? しめるか?」という分類で考える。その結果、生まれたのが、悲観論などではない「鍵のないまち」「住所のないまち」「壁のないまち」「窓のないまち」という4つの未来だ。

「本当にこんな未来が?」と疑う一方で、「意外とありえるかも」とうなずいてしまう絶妙な未来予測は、いったいどのように導き出されたのか。「当たり前」ではないアイデアを生むためのデータの読み方と発想法を、博報堂生活総研 生活発見グループの酒井崇匡氏と菅順史氏に聞いた。

すでに現れつつある2025年の姿

―― いま、多くの企業がビジネスを展開するなかで「これからの収益のアイデア」を見つけようとしています。今年発表した「あしたのまちの100の風景」は、まさにそうしたアイデアが100通り描かれていますよね。この発想は、どこから生まれたのでしょうか?

酒井:この「あしたのまちの100の風景」は、“シナリオプランニング”というアプローチで考えました。シナリオプランニングでは、未来の変化の軸(視点)を2つ設定するのですが、今回は「生活空間」「人間関係」という2軸を設定しました。生活空間と人間関係それぞれについて、人々がより開放的な生活を求めるか、反対に内向きな生活を求めるか、つまり、「あける」パターンの未来と、「しめる」パターンの未来をかけ合わせることで、4つの街のシナリオを作成しました。ちなみに、なぜ人間関係を加えたのかといえば、人間が共存する社会には、インフラである生活空間だけでなく、助け合いという要素が関わってくると考えたからです。通常のシナリオプランニングでは、大きな政策や社会事象の発生などで軸をつくるのですが、生活空間と人間関係をあけるか? しめるか? という生活者の欲求の分岐をベースにしているのがユニークなポイントです。

2025年の街を「人間関係」「生活空間」の2軸で分析する

2025年の街を「人間関係」「生活空間」の2軸で分析する

―― 住民同士が助け合い、キッチンやお風呂といった「家」の機能を、街なかで共有する「鍵のないまち」や、逆に住民同士は互いに干渉せず、サテライトオフィスやモビリティなどを含め、さまざまな機能が街に散らばる「住所のないまち」などを聞くと、「いくらなんでも、そんな未来はないだろう」と思ってしまいますね。

菅:意外とそうでもないんです。たとえば「鍵のないまち」に出てくる、地域のために自分の得意とする分野で時間を費やす「地域に根付いたダブルワーク」や、近所に住む世帯が共同のキッチンで料理してみんなで食べる「いっぱいつくってみんなで食べる」といった提言は、「TimeRepublik」(*2)や、「okatteにしおぎ」(*3)のように、すでに兆しとなるサービスが国内外にあるんですよ。

皆で共同のキッチンを使って食事をつくるイメージイラスト

誰もが助け合える「鍵のないまち」 
皆で共同のキッチンを使って食事をつくるイメージイラスト
(出典:博報堂生活総研『みらい博 あしたのまちの100の風景』)

発想の軸をどうつくるか

―― 言葉にすると簡単ですが、ビジネスの現場ではその2軸をどう設定するかが難しいですよね。

酒井:可能性をどう見つけるかですね。たとえば「2025年の日本の未来」については、人口動態や社会保障費などのさまざまな予測データが出ていますが、どうしても悲観的にならざるを得ません。そこで「悲観的な未来を解決する可能性はどこにあるのか」を考えるのですが、そのベースとなったのが今回の2軸なんです。生活空間と人間関係で考えると、解決策らしい希望がいくつも見えてきた。悲観的な与件としての未来に、「こんなことはできる? ありえる?」といった可能性という名のボールをぶつけると、「こうしたら解決できそう」「こうなったらいい」というたくさんの希望的発想が浮かぶ。そこで現実に立ち戻って見直したとき、それに類似する、すでに萌芽しているサービスがあることに気づいたんです。この考え方のフレームを「ひらけ、みらい。」発想フレームと呼んでいます。

「ひらけ、みらい。」発想フレームの概念図

「ひらけ、みらい。」発想フレームの概念図

―― 具体的に、今回の軸はどういうプロセスで見いだしたのでしょうか?

菅:当社では「ワンテーブル」と呼んでいるのですが、取材やフィールドワーク、データを使ってロジックをつくるリサーチャーと、デザイナーやコピーライターといったクリエイターが、同じテーブルで議論するんです。仮説を立てるためにどういうデータや調査法が必要なのか、同じ目線でさまざまな意見を出し、ディスカッションします。そのなかで、「この2軸なら、自分たちの予測する未来をうまく導き出せるだろう」という結論になりました。

柔軟な発想を促すデータの扱い方

―― 来るべき未来を描くには、先ほども話に出たように、現実のデータを見ることからスタートすると思います。仮説を導くために、データをどう活用しているのでしょうか?

酒井:ビジネスプランを考えるときに参考にするデータは、直近の四半期の実績、長くても数年単位のデータが多いのではないでしょうか。僕らの場合は、むしろ10年、20年単位のロングレンジのデータに注目するんです。ある事象の背後にある動きを、長期にわたってとらえることで、はじめて「なぜ、こうなのか」というストーリーが見え、その事象の新規性を分析できるだけでなく、説得力も増すのです。また個人的には、複雑なデータ分析をくどくど説明するより、極力シンプルにすることを心がけていますね。シンプルな方が、聞く人は納得するからです。

――「シンプル」ですか。難しそうですね。ぜひ具体的な方法を教えてください(笑)。

前編を読む | 後編を読む

注釈:
(*1)「あしたのまちの100の風景」(外部サイト)
(*2)「TimeRepublik」(外部サイト)
(*3)「okatteにしおぎ」(外部サイト)

プロフィール

株式会社博報堂 博報堂生活総合研究所 生活発見グループ 上席研究員 酒井 崇匡氏

2005年博報堂入社。マーケティングプランナーとして、教育、通信、外食、自動車、エンターテインメントなど諸分野でのブランディング、商品開発、コミュニケーションプラニングに従事。2008年より博報堂教育コミュニケーション推進室に参加。2012年より現職。著書に『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(2015年/星海社)がある。

株式会社博報堂 博報堂生活総合研究所 生活発見グループ 研究員 菅 順史氏

2010年博報堂入社。PR戦略局に配属。企業の情報戦略の企画立案や実施業務に従事し、化粧品、食品、飲料、商業施設などを担当。2013年より現職。 博報堂季刊広報誌「広告:なぜか愛せる人々」編集員。第45回JAAA懸賞論文(2015年)「論文の部」銅賞受賞。

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