マーケティング戦略

博報堂生活総研に学ぶ未来の読み方 [後編]―― データを発想力に変えるには

記事内容の要約

  • 大規模な動きを表す定量データと定性データを使い分けて発想を促す
  • 仮説とは、事象の裏側にある「ストーリー」
  • アイデアは、発想を言語化し可視化することで生まれる
  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

この記事の前編を読む

世の中のさまざまな調査データを活用し、生活者視点でユニークな未来を描き出す博報堂生活総合研究所(博報堂生活総研)は、「さまざまな職種をまたいだブレスト“ワンテーブル”で仮説を設定」、「人を納得させるにはシンプルなデータ活用」というスタンスで調査研究を進めている。後編では、具体的なデータ活用例と発想を柔軟にするスキルトレーニングについて、博報堂生活総研 生活発見グループの酒井崇匡氏、菅順史氏が紹介する。

定量データと定性データの使い分け方

―― 前半では「仮説を導くには、長期視点のデータをシンプルに活用すること」というお話がありました。そこについて、もう少し詳しく教えてください。

酒井:前提となる軸がしっかりしていれば、今回の「未来のまち」で設定した“あける・しめる”といったコンセプト軸のように2項対立で考えることもありますし、複数のデータをあげて推論という形で考えることもあります。気をつけているのは、データを複雑に分析することで仮説を検証することは可能ですが、解析方法が複雑な分、かえって聞く人の納得度が低くなってしまいがちだ、ということです。それよりは、「これとあれとそれ、この3つのデータにより、こういうことがいえます」と言い切ってしまって、「確かにそれはあるかもしれない」と共感してもらった方がいい。

―― それでも納得できない人に対しては?

酒井:「では次回、深掘りして因果関係を分析しましょう」でいいんです(笑)。すべての物ごとを一度に複雑に検証する必要はありません。

菅:シンプルに考えるのは、生活総研の伝統ですね。初代の所長がコピーライターで「それは一言でいうと何?」が口癖だったため、シンプルに考える所風があると思います。

酒井:定性データと定量データの使い分けもポイントです。

たとえば「あしたのまちの100の風景」(*1)でいえば、定性的なデータは、調査対象の人に、2025年の街の様子について自分なりのイメージを浮かべてお絵描きをしてもらったり、自分たちが気になる場所に取材に行ったりして得たデータですが、これは全体から意味を見いだすものではありません。大切なのは、仮説につながる気づきを得ることです。

これと対極にあるのが、実態を表す定量データです。僕らは人口動態のようなマクロなデータと、ミクロな定性データを行ったり来たりしながら仮説を見つけ、必要に応じてオリジナルのユニークな定量調査を実施し、地道に検証していくやり方をしています。

博報堂生活総研の生活定点調査(*2)の公開データ一例。博報堂生活総研では、暮らしに関するさまざまな事象について20年以上、定点観測を続けており、そのデータを公開している。

博報堂生活総研の生活定点調査(*2)の公開データ一例。博報堂生活総研では、暮らしに関するさまざまな事象について20年以上、定点観測を続けており、そのデータを公開している。

仮説とはストーリーである

―― ビジネスでのデータ活用は、データを分析すること以上に、「そこからどのような仮説を導き出すかが重要」といわれます。前編でも、よい仮説を導き出すためにデータや調査法まで含めて全員で議論しあうという話がありました。

酒井:仮説とは、いってしまえば「ストーリー」です。ある事象が起こるには、そうなるだけのストーリーが裏側にあるはずです。繰り返しですが、その話の筋は、ショートレンジのデータをながめているだけでは出てこないでしょうし、またストーリーを探り出すには、数字を見るだけでは出てこない“流れ”を組み立てる必要があります。そのためにはブレストを重ねる必要があります。

―― 今回の「未来のまち」でいえば、仮説を出すまでにどれくらいの時間がかかったのですか。

酒井:並行してフィールドワークやリサーチを進めたりしたので、一概には難しいのですが、3カ月以上はかかっています。

菅:会議の頻度としては1週間に1回ですが、議論を続けるうちに何となく「腑に落ちる」瞬間が出てくるんですよね。


左:酒井崇匡氏  右:菅順史氏

納得できる仮説を立てるスキルとは

―― そのような作業を通じて仮説を立てるには、どのようなスキルが必要でしょうか。

菅:「タウンウォッチング」がいいかもしれません。街を歩いていて、気になったことやモノを、帰ってからとにかく紙に書いていくんです。そのなかで2つ、気になったことやモノを見つけ、結びつけてみる。そして「その2つが自分のなかでうまくつながったら、それは新しい概念なんだ」というのが、自分が最初についた上司の言葉でした。それ以来、仮説を立てるときには、いかに新規性があるかを考えています。

酒井:僕が仮説を出すときに意識しているのは、「議論を前進させられるかどうか」という点です。たとえば販売が落ち込んでいたときに、解決法につながらない仮説を立てても役立つ施策には結びつきませんよね。物語としてカタルシスがない、ともいえます。次の可能性につながる仮説は、議論と行動を前進させます。これは常に意識していますね。

またデータを見るときには、その裏側にある大きな背景をつかむ視点が重要だと思います。たとえば、何か大きく増加した分野があれば、それと反比例して減った何か、連動して増えた何かがあるはずです。たとえば、人口が大幅に減少するという予測があれば、人口が増加するところはどこなのか?と発想する。そういうふうにマクロな観点で事象の相関関係をつかむことも重要です。それらに共通する背景を考えることで、物語としての仮説の土台がしっかりし、納得性を高めることができるんです。

また、もしその仮説が正しいとした場合、「では何が解決策になるか」と一歩進めて考えてみると、おもしろい発見が得られるかもしれません。

―― いままでの経験のなかで、仮説を立てるために有効だと思うトレーニング法があれば、教えてください。

菅:やっていない人が多いのかもしれませんが、書き出すというフェーズが重要だと思います。書き出す癖がついてからは、仮説となるストーリーが出やすくなったというのはあります。

酒井:単に頭で考えていても、アイデアはあまり出てきません。まずは思いついたことを言語化して、可視化することが重要だと思います。そこからストーリーを生み出す。

あと、コツとしては、自分とは逆の立場に立ってみたり、定説や常識とは反対の方向に考えてみたりすることも有効です。たとえば、元研究員のデザイナーは、街をながめているとき、「生活者のニーズを見つけよう」というスタンスではなく、ひたすら「カッコ悪いもの」を探そうとするんです。「みんなが使っているからカッコいい」ではなく、「どこがイケテナイか」という視点で観察する。

それから、あまりデータだけにこだわらず、自由に発想を遊ばせて、妄想に近い仮説を組んでみることも必要です。意外と、そのなかに真実が隠れていることが多いからです。

前編を読む | 後編を読む

注釈:
(*1)「あしたのまちの100の風景」(外部サイト)
(*2)「生活定点調査」(外部サイト)

プロフィール

株式会社博報堂 博報堂生活総合研究所 生活発見グループ 上席研究員 酒井 崇匡氏

2005年博報堂入社。マーケティングプランナーとして、教育、通信、外食、自動車、エンターテインメントなど諸分野でのブランディング、商品開発、コミュニケーションプラニングに従事。2008年より博報堂教育コミュニケーション推進室に参加。2012年より現職。著書に『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(2015年/星海社)がある。

株式会社博報堂 博報堂生活総合研究所 生活発見グループ 研究員 菅 順史氏

2010年博報堂入社。PR戦略局に配属。企業の情報戦略の企画立案や実施業務に従事し、化粧品、食品、飲料、商業施設などを担当。2013年より現職。 博報堂季刊広報誌「広告:なぜか愛せる人々」編集員。第45回JAAA懸賞論文(2015年)「論文の部」銅賞受賞。

  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

Insight for Dの
ページにいいねしよう!

「いいね!」してInsight for Dの最新情報をチェック

Yahoo! JAPANのデータソリューションについて

Yahoo! JAPANのデータソリューションについて

Insight for Dの公式Facebookページ、Twitterでも最新情報や取材の様子を発信中。