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豊島区の防災対策はデータ活用で[前編]――3.11でわかった自治体の防災課題

記事内容の要約

  • 2015年5月、豊島区は群衆行動解析技術を取り入れた新総合防災システムを導入
  • 従来、行政の防災対策は、国から各自治体へ落とし込んでいく中央集権型を採用
  • 東日本大震災で起こった帰宅困難者の混乱から、「現場状況の見える化」が課題に
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2015年5月、豊島区は新庁舎の落成とともに、ビッグデータ技術を活用した新総合防災システムを構築した。東日本大震災の経験を生かし、帰宅困難者を安全な場所に的確かつ効率的に誘導できるよう、テクノロジーと救助体制の両面を強化した。この総合防災システムが誕生した背景と、災害対策の技術的な課題を探る。

ターミナル拠点だからこそ必要な群衆行動解析技術

東京都西北部に位置する豊島区は、巨大ターミナル・池袋駅を有する三大副都心の一つだ。池袋駅には、JR東日本各線や東京メトロのほか、埼玉県と池袋をつなぐ東武東上線、西武池袋線など多数の路線が乗り入れており、JR東日本によると2015年の1日平均乗降者数は55万6,780人だという。

2015年5月に豊島区役所が新たに構築した総合防災システムは、まさにこのターミナル拠点ならではの課題に対応するためのシステムだ。2011年3月に発生した東日本大震災の教訓を生かし、警察や自衛隊などのほか、民間企業と協力体制を取って、緊急物資や避難所、情報提供など総合的に連携を図っている。

そのなかでも防災対策の要とされているのが、ビッグデータ解析技術「群衆行動解析技術」を採用した帰宅困難者支援の取り組みだ。この技術は、街なかに設置された防災カメラで撮影された映像から人々(群衆)の動きを解析し、その場の混雑状態の推移を見て、異常を検知しアラートを出すというものだ。たとえば最初は10人いた場所に、短時間のうちに20人、50人と滞留していったとする。通常、人の動きがあれば滞留は起こらない。「急に人が増えはじめたということは、何らかの事故が起こっている可能性が高い」と判断され、アラートが通知される。

異変発生時の群衆の行動を防災カメラでとらえ、状況を解析する図

異変発生時の群衆の行動を防災カメラでとらえ、状況を解析する

豊島区総務部 防災危機管理課長 樫原猛氏は、「東日本大震災では、膨大な帰宅困難者が発生しました。実際に災害が起こると、予想以上の交通渋滞が発生し、どうしても対応が後手後手になります。そうした反省を踏まえ、誕生したのがこのしくみです」と説明する。

行政の防災対策はブレークダウン型

通常、行政の防災対策は、国から都道府県へ、都道府県から各市区町村へと一方通行に流れている。防災対策はまず、国の中央防災会議で議論され、この要綱に基づき各都道府県が地域防災計画を策定する。市区町村は、この地域防災計画に沿って上の階層である都道府県と役割分担を行う。東京都の場合、都が東京全体の防災対策とオペレーションを担い、区はその下で区内の支援に当たることになるわけだ。

「たとえば23区でいえば、災害1日目は区内にある備蓄物資を避難所に配りますが、それ以降に必要な物資があれば都へ要請します。このようにオペレーションを分担することで、必要な場所に必要な支援を届けるしくみになっています」(樫原氏)

3.11でわかった、従来の防災体制に欠けていたこと

防災計画では、大災害発生時には当然ながら区民だけでなく、その地域で働く人々などによる帰宅困難者が出ることも予想し、それに向けた計画や物資の備蓄も行われていた。ところが東日本大震災が発生すると、予想外のことが次々と起こったという。

樫原氏は当時の状況を「当然ですが、帰宅困難者も私たちも、地震がいつまで続くかわかりませんでした。情報も入らないし、電車も動かないので、ターミナルである池袋駅の東口や西口、そして地下街にも帰れない人が集まってきました。人が集まりすぎて、地下街から地上に上がることができなかったほどです。その状況を実際に確認するために、区役所から人を派遣するのですが、人や車があふれていて、普通なら10分ほどで行ける距離にも行き着けない。避難場所の様子もわからないので、次にどの避難所を開けるべきか判断もできませんでした。情報の伝達が遅れるなかで、人がどんどん膨れあがってきたのです」と振り返る。

東日本大震災の直後、池袋駅西口は帰宅困難者であふれかえった。

東日本大震災直後(2011年3月11日)の池袋駅西口 帰宅困難者の様子
提供:豊島区

豊島区の広域避難場所として指定されているのは立教大学だが、当時は立教大学にも学生が多数いたため、帰宅困難者すべてを大学に誘導することはできなかった。次にどこに何人誘導すればよいのか、状況が見えない。後になって思えば「もっとできることはあったはずです」と樫原氏はいう。

そしてこの経験から「いま起きている状況を見える化する」という必要性を痛切に感じたそうだ。そこで2015年5月、拠点が7つに分散し、老朽化も進んでいた庁舎を刷新するタイミングで、新しい総合防災システムを構築することになったのだ。その後、同区が選んだのが、「状況が見えること」「異常があったら早めに検出し、先手を打てること」という新技術を使った防災のしくみだった。

後編では、その新技術の詳細と、それが豊島区の防災体制にどのような影響を与えたのか、見ていこう。

前編を読む | 後編を読む

プロフィール

豊島区総務部 防災危機管理課長 樫原 猛氏

1986年練馬区入庁。その後、2007年豊島区医療制度改革担当課長、2009年練馬区危機管理室安全・安心担当課長、2010年豊島区生活産業課長、2013年豊島区防災課長を歴任。豊島区の組織改正により、現職にいたる。

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