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豊島区の防災対策はデータ活用で[後編]――見えない群衆の動きを捉えろ!

記事内容の要約

  • 群衆行動解析技術で、個人を特定せずに人の滞留状態や人数を見える化
  • 2020年の東京オリンピックでも応用できると国内外から注目される
  • 災害時の情報収集や拡散に向け、テクノロジーはさらに活用できる
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豊島区の新総合防災システムは、群衆行動解析技術を適用し、人の滞留状況をモニタリングして、異常があればアラートを出すしくみを備えている。防災において、テクノロジーやデータはどのように活用できるのか。豊島区の試みから見えてきた、その役割と課題を見ていく。

「状況を見える化」することの意義

豊島区が2015年5月に新たに構築した総合防災システムでは、NECの群衆行動解析技術が採用されている。このシステム構築に当たり、同区が重視したのは「状況をきちんと可視化すること」だった。

「まず区内全域50カ所以上に、観測用のカメラを設置しました。これは防犯用ではなく、あくまで人の流れを見るためのものなので、個人を認識できるような大きな映像を撮影するわけではありません。これをターミナル周辺17カ所に設置、残りは避難所近くの街なかに設置しました。有事の際は、この映像でリアルタイムに状況を見て、対応策を判断できます。またそれだけでなく、何らかの異常が発生した際に、すぐ的確な対応ができるということで、群衆行動解析技術を導入しました」(樫原氏)

豊島区総務部 防災危機管理課長 樫原猛氏

豊島区総務部 防災危機管理課長 樫原猛氏

人の滞留状況で異常を感知する群衆行動解析技術によって、どのようなことがわかるのか。たとえば池袋東口で何か有事が発生した際、反対方向にある西口や、近辺の大塚駅にも人が滞留する可能性がある。その時にアラートがあがれば、東口の有事に対応しつつ、人が滞留しはじめた西口や大塚駅でも前もって的確な対策をとることができる。なお、セキュリティーやプライバシーの観点からカメラの位置も映像も非公開であり、日常の生活に与える影響はまったくない。なぜなら、群衆行動解析技術は、何人かの人間が集まった塊のパターンを解析することで人数を推定するため、個人を特定しなくてもおおよその混雑状態がわかるからだ。

避難場所や経路、救援などの情報については、防災無線を通じた告知のほか、FacebookやTwitterによる情報発信に加え、ターミナルにあるデパートやビルが持つデジタルサイネージでも伝えられるように体制を整えているという。ちなみにデジタルサイネージは、個々に発信メッセージを設定できるため、居場所に適した情報が入手できるそうだ。

国内外からも注目される総合防災システム

この防災システムは、2015年3月に実施された新庁舎の内覧会などで区民にも紹介された。その際、区民からは「こういうしくみがあると安心」という声が多数寄せられたという。また警察も防犯の観点からこのシステムに関心を持ち、これまでに何度か見学に訪れているそうだ。

2020年にオリンピック開催を控える東京都も、災害・防犯対策として、豊島区の新総合防災システムに注目している。実際に、2016年のリオデジャネイロ五輪前には現地からも視察団が訪れたという。

目的が防災のため、このシステムや群衆行動解析技術により、通常の防災業務に大きな変化があるわけではない。ただ、有事の際の帰宅困難者に対するオペレーションは大きく変わりつつあるという。

たとえば、以前は帰宅困難者に対応する部署はなかった。今後、帰宅困難者に向けた対応を強化するのであれば、避難所の確保や運営を含め、専門部署の設置が課題となってくる。それに避難所や物資があっても、誰がいつどうやってそれを届けるのかなど、整備することは多数ある。東日本大震災の時のように、予想もしなかった交通渋滞が発生するかもしれない。

樫原氏は「こういう議論を重ね、大手の事業者と契約し、プロによるオペレーションを強化することにしました」と語り、中央集権的なこれまでの防災と異なり、豊島区独自の対策を企画していることを明らかにした。

ITを防災に活用することの期待と課題

課題はほかにもある。警察や自衛隊、救急機関と群衆行動解析の映像情報を、安心・安全に共有するにはどうすればよいか、技術面での検討も進める必要がある。

また、将来大きな災害が発生した場合の情報配信については、よりよい方法がないか未だ模索中だ。「個人的には、位置情報技術と連動してその人に必要な情報をスマートフォンなどに的確に届けられるしくみがあれば、より有益な災害支援になると思っています。あと、外国人に対してどのように情報を出していくかについても、検討する必要があります」と樫原氏は語る。

こうした課題がありながらも、防災分野でITを活用することは、今後の防災計画にプラスに働くと樫原氏は考えているという。なぜなら、リアルタイムで状況判断に必要な情報を収集できること、そして必要な情報を一斉に配信できるという利点は、何ものにも代えがたいからだ。

自治体が災害情報を提供する手段の割合
自治体の災害情報の提供手段は防災無線が約80%と最も多く、次が緊急速報メールで約57%が実施している。

内閣府が2011年11月に実施したインターネット調査による推計によると、東日本大震災時には、首都圏で計515万人、うち東京都では約352万人の帰宅困難者であふれかえったという。あの当時、誰もが抱いた不安と心細さを繰り返さないためにも、豊島区の試みは注目されているのだ。

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プロフィール

豊島区総務部 防災危機管理課長 樫原 猛氏

1986年練馬区入庁。その後、2007年豊島区医療制度改革担当課長、2009年練馬区危機管理室安全・安心担当課長、2010年豊島区生活産業課長、2013年豊島区防災課長を歴任。豊島区の組織改正により、現職にいたる。

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