マーケティング戦略

EC×リアルを成功させた無印良品[前編]―― 顧客可視化までの道のり

記事内容の要約

  • デジタル戦略をはじめた2000年以降、顧客の購買行動が劇的に変化
  • 購入だけでなくコミュニケーションにもマイルを付与することで顧客行動を可視化する「MUJI passport」
  • 競合状態だったECと店舗が、「MUJI passport」のデータ活用により協調関係に
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人気ブランド「無印良品」を展開する良品計画は、早くからデジタルマーケティングに取り組んでおり、積極的にデータを活用する先進企業として知られている。そして、同社が顧客理解とコミュニケーション促進のために活用しているのがスマートフォンアプリ「MUJI passport」だ。単なるポイントアプリとはまったく異なる視点で設計したというMUJI passportが誕生した経緯に迫る。

顧客とのコミュニケーションを可視化した「MUJI passport」

無印良品の店舗で商品を購入する際、レジスタッフに「MUJI passportはお持ちですか?」と尋ねられることをご存じだろうか。MUJI passport(*1)とは、無印良品を展開する良品計画が2013年5月にリリースしたスマートフォンアプリだ。アプリ自体が会員証となっており、店舗やECでの購入時に利用すると、金額に応じて「MUJIマイル」が加算される。

このアプリのユニークな点は、店舗に行く前にチェックインしたり、購入後に商品レビューをサイトに投稿したりすれば、実際に商品を買わなくてもMUJIマイルが付与されることだ。貯めたマイルは、買い物時に使えるMUJIショッピングポイントに換算できる。またアプリをダウンロードして会員になると、「無印良品週間」という会員優待期間中に、全商品10%オフの優待価格で買い物ができる。現在、国内では500万人が利用中だ。

「MUJI passport|無印良品 iPhone / Android アプリケーション」

良品計画 WEB事業部部長 川名常海氏はMUJI passportを、「お客さまと無印良品とで交わされるコミュニケーションを可視化するアプリです」と説明する。在庫検索、商品情報収集、店舗来店や購入など、リアルとウェブの両方で起こる顧客とのコミュニケーションすべてがMUJI passportによって可視化できるからだ。

川名氏は「かつてはECなどのデジタル施策と店舗との間で足並みがそろわず、店舗によってはカタログ内にあるネットストア情報を切り取ってしまうこともありました。今、こうしてECと店舗が一緒になって顧客理解を深めようという体制になり、感無量です」と語る。

なぜ、深い溝があったECと店舗との間で一体感が生まれたのか。それは、MUJI passportで蓄積される膨大なデータをマーケティングに活用し、大きな成果を得ているからだ。まずは具体的な活用事例の前に、MUJI passportが誕生した背景を見ていこう。

通販チャネルとしてECをスタート

良品計画には、創業以来大切に育ててきた理念がある。それは「顧客視点」というものだ。顧客の生の声を商品開発やサービスに反映することで、満足度の高いブランドをつくりあげる。創業時から大切にしている生活者視点でのものづくり―。その理念は「くらしの良品研究所」(*2)のなかの「IDEA PARK」(*3)として現実のものとなり、顧客とコラボレーションしながら商品開発を進めている。

そんな同社がECに本格的に取り組みはじめたのは2000年だ。「当時のECは、店舗が近くにないお客さまのための通販チャネルという位置づけでした」と川名氏はいう。

しかしECの売り上げが伸びると、店舗を運営する側にとってECは店舗と同様に販売チャネルの1つとなり、競合同士にならざるを得ない。

無印良品のEC「ネットストア」の画像

無印良品のEC「ネットストア」(*4)

当時はインターネット普及率も低く、誰もがインターネットで買い物をする状況ではなかった。そのため売り上げの伸びは緩やかであったが、それにもかかわらずウェブの閲覧者はそれを上回る勢いで増加していた。その理由を調査したところ、ウェブへの来訪動機の1番目は「買い物前に商品について調べる」であり、「ウェブ上での購入」は2番目、続いて「新商品のチェック」「セールやキャンペーン情報の収集」など、必ずしも来訪者全員が購買のために閲覧しているわけではないことがわかった。

「EC=通販チャネル」という最初の戦略を見直す必要が出てきたのだ。

ウェブで商品を調べてから店舗訪問、ウェブでの問い合わせ、コミュニティで商品のレビューや改善アイデアを投稿、というプロセスが増えるなど、顧客行動もウェブと店舗を融合したものに変化していった。

「お客さまにとっては、どちらも同じ『無印良品』です。この時期から店舗とECは別々ではなくなり、全社最適の視点で考えるという戦略に変わってきました」(川名氏)

そこで出てきたのが、店舗とECの長所・短所を補う施策だ。店舗はリアルで商品を体験できるという大きなメリットがあるが、商品の品ぞろえや営業時間は限られる。一方ECはすべての商品情報が集まるが、実際に商品を体感できないという弱みもある。そこでメールによるクーポン配布をはじめたり、ECで購入した商品の店舗受け取りを可能にして配送費を無料にし、その売り上げは店舗に計上したりするなど、ユーザーの利便性を高めつつデジタルとリアルの両方で価値を高める施策を進めていったのだ。

こうしたなか、2007年に登場したスマートフォンにより顧客行動は再び変化する。

SNSのタイムライン上で、友人や知人の投稿を見て「この商品が欲しい」と思った顧客が、ウェブでその商品を調べて店舗に行く。そして購入し、レビューをSNSに投稿する。その結果、SNSからウェブ、ウェブから店舗という、全体的な動きはある程度把握できたが、それを「個客」という視点で捉えることは非常に困難だった。

「MUJI passport」で顧客の行動を可視化する

その流れをふまえて生まれたのがMUJI passportだった。その誕生の背景には、デジタルの発展・普及とともに、顧客の購買行動が複雑化したことがあげられる。

「昔から家電量販店などの会員カード制度はありましたが、無印良品としては購入履歴だけでは顧客を理解するのに十分でないと考えていました。MUJI passportは、無印良品のコンセプトである『顧客視点』という原点に返り、顧客とのエンゲージメント度合いを測るという狙いで設計、開発しました」と川名氏は説明する。

では具体的に、どのようなデータをどのように活用しているかを後編で見ていこう。

この記事の後編を読む

注釈:
(*1)「MUJI passport」(外部サイト)
(*2)「くらしの良品研究所」(外部サイト)
(*3)「IDEA PARK」(外部サイト)
(*4)「ネットストア」(外部サイト)

プロフィール

川名 常海氏

株式会社良品計画 WEB事業部部長 川名 常海氏

1992年良品計画に入社し宣伝販促業務を担当。2004年より現在のWEB事業部に所属。ECサイト「無印良品ネットストア」、顧客との共創を目的としたコミュニティサイト「くらしの良品研究所」、モバイルアプリ「MUJI passport」など無印良品のデジタルマーケティング全体を統括。特に統合的マーケティング・コミュニケーション視点での展開が評価され、One Show、TIAA、文化庁メディア芸術祭、モバイル広告大賞、Yahoo Creative Award、CODE AWARD等受賞。

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