マーケティング戦略

EC×リアルを成功させた無印良品[後編]―― ファンをつくるための顧客理解

記事内容の要約

  • さまざまな顧客行動の履歴を蓄積することで、顧客理解を深める
  • サイトの機能改善だけでなく商品開発や出店計画までPDCAを効率化
  • アプリは「良質な顧客体験」を基本とし、不要な機能拡張はしない
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この記事の前編を読む

良品計画が提供するスマートフォンアプリ「MUJI passport」は、「顧客のエンゲージメント度合いを可視化する」というコンセプトで誕生した。CRMやエンゲージメントの視点で顧客理解を深め、店舗独自のキャンペーンを実施する際にも使われている。通常であれば競合関係に陥りがちなECと店舗だが、なぜこのような良好な関係を築いていけるのか。MUJI passportが実現する、同社のデータ戦略を追っていく。

データの蓄積により進む顧客理解

MUJI passport(*1)の設計思想は「お客さまをよりよく理解すること」だ。良品計画 WEB事業部部長 川名常海氏はこう語る。

「既存の販売時点情報管理(POS)から得られる購買データに加えて、オンライン上の行動データや位置情報、顧客属性データなどをひも付けて整理しておき、マーケティング部門だけでなく店舗スタッフや販売部、商品部や店舗開発部などの社員全員がマーケターとなって仮説検証を行い、お客さまにとってよい体験をつくることが重要だと考えています」

前編でも紹介したとおり、ショッピング時に使えるMUJIポイントと交換可能なMUJIマイルは、店舗へのチェックイン、商品や在庫の検索、レビューの投稿など、顧客が無印良品と関わる行動をとると付与される。

チェックインでは位置情報から顧客の生活圏を類推しやすく、欲しい商品や購入履歴を見れば嗜好(しこう)がわかる。行動に付帯するさまざまな情報を含めて分析することで、より顧客理解が深まるわけだ。


WEB事業部部長 川名常海氏

WEB事業部部長 川名常海氏

川名氏は「世の中では『ビッグデータ』がバズワードになりましたが、目的がなければ『大量のデータの塊』でしかありません。お客さまを知るという目的があって、はじめて生かせるのです」という。

データがあれば仮説から検証まであらゆるPDCAを回せる

MUJI passportがあることで、「ウェブで情報を収集し、店舗へ行く」という動線も把握できるようになった。ウェブで商品を見ている顧客のうち、そのままネットで購入する割合は32%だったという。「実は半数以上は店舗に行くんです」と川名氏は明かす。

このような顧客行動の変化を知ることで、「ユーザーにとってウェブは、購入チャネルというより、むしろ情報を見るカタログの位置付けに近いのではないか」という仮説が生まれる。

そこで個々の商品情報ページには、購入ボタンだけでなく、どの店舗に行けば購入できるかがわかる[店舗在庫]ボタンを追加した。これによって店舗の在庫情報を調べられるようになり、外出中の顧客が店舗に立ち寄る動機づけにもつながることがわかった。売り方、マーケティングのやり方が大きく変化したのだ。


購入ボタンの横に、店舗の在庫を確認するボタンが設置されている

購入ボタンの横に、店舗の在庫を確認するボタンが設置されている

さらに商品開発部門の仕事の仕方も変わってくる。

顧客視点という理念のもと、年代や性別をターゲティングしてその顧客層に使ってもらうための商品を開発していたものの、実際にその層に届いているのかはPOSデータだけではなかなか見えてこない。その点、MUJI passportなら商品開発の仮説検証にも役立てることができる。さらにアプリ使用時の位置情報を見れば、効率的な出店プランを立てることも可能だ。

「いろいろなデータがあるから、いろいろなことがわかる」と全社で認識してもらえるようになり、各部から「こういうことが知りたい」と問い合わせをもらう機会も増えてきた。現在は、店舗ごとの顧客属性やMUJI passport比率を明らかにし、それを店舗運営に生かすようになった。店舗独自のキャンペーンは、こうしたバックエンドのしくみにより生まれたものだ。その効果は絶大で、だからこそ「店舗レジでMUJI passportをすすめてもらえるまでになったのです」(川名氏)という。

機能の拡充ではなく、「よい体験」を

川名氏によれば、アプリ開発を行っていると「ビーコンを使って店舗の近くに来たら広告オファーを出しましょう」などと、新しいテクノロジーを使った提案を受けることが多々あるそうだが、川名氏は、安易な機能の拡充については「一度立ち止まって、よく考えるべき」という。

MUJI passportは、確かに顧客理解のために不可欠なツールであり、必要なデータが取れるが、一方で「無印良品における顧客体験を向上させるアプリ」という付加価値がある。「何でも追加すればよいということではありません。機能のベースはあくまで『よい体験』です。自分自身が1人のお客さま、1人の無印良品ファンとして考えながら開発を進めれば、結果、長く愛されるサービスになると思います」と川名氏は述べる。

川名氏は現在、MUJI passportのしくみについて、海外への横展開を進めている。2015年5月にはまず中国市場でMUJI passportをリリースし、12月には台湾でも展開。2016年8月には香港版もスタートした。

「これによって、世界の無印良品ファンに『よい体験』を提供したい。そして1人でも多く、無印良品のファンになってもらいたいですね」と川名氏は締めくくった。

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注釈:
(*1)「MUJI passport」(外部サイト)

プロフィール

川名 常海氏

株式会社良品計画 WEB事業部部長 川名 常海氏

1992年良品計画に入社し宣伝販促業務を担当。2004年より現在のWEB事業部に所属。ECサイト「無印良品ネットストア」、顧客との共創を目的としたコミュニティサイト「くらしの良品研究所」、モバイルアプリ「MUJI passport」など無印良品のデジタルマーケティング全体を統括。特に統合的マーケティング・コミュニケーション視点での展開が評価され、One Show、TIAA、文化庁メディア芸術祭、モバイル広告大賞、Yahoo Creative Award、CODE AWARD等受賞。

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