マーケティング事例

売上増を実現する新たなPOS活用[前編]―― 求められている商品の見つけ方

記事内容の要約

  • 「安売り」のマーケティングによる、赤字体質・高い廃棄ロスがスーパーマーケットの経営課題に浮上
  • 経営改善の観点で見ると、情報の質と内容に課題があった従来のPOSデータ
  • スーパーマーケットのレシートから生成するデータを活用し、地域の顧客ニーズを把握
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「低価格」の訴求を中心にマーケティングを展開してきたスーパーマーケットが、現在、岐路に立っている。購買チャネルの多様化が進み、低価格路線のスーパー自体が珍しくなくなったことで、安売りの価値が低下し経営を圧迫する事態に陥っているのだ。さらに薄利多売のため、利益率より高い廃棄ロスに悩む経営者も後を絶たない。こうした状況を打開するため、スーパーマーケットのデータ活用による経営支援に取り組んでいるのが、株式会社アイディーズだ。同社は、どのようなデータに目をつけ、活用しているのだろうか。

「安売りが価値」の時代の終焉

スーパーマーケット業界のデータ活用といえば、一般的にはPOS(Point of Sales)データの活用を連想する人が多いだろう。1970年代に米国で誕生したPOSシステムは、バーコード規格を用いてレジ業務を効率化するとともに、「いつ何が売れたか」という記録を蓄積する便利なしくみだ。

だが実は、スーパーマーケットにおけるPOSデータ活用は、世間で一般に思われているほど進んだものではないと、流通業界のマーケティングを支援する株式会社アイディーズ 代表取締役 山川朝賢氏はいう。さらに「経営者は確かに、取得したPOSデータを見てはいますが、それは『何が売れたのか』を見ているにすぎず、データ分析とは違います。スーパーマーケット業界では、本格的にデータを分析して活用するという企業文化が、まだ根付いていないのです」と続ける。

その大きな要因のひとつは、分析システムの価格の問題だ。スーパーマーケットの利益率は、平均して1%ほどしかない。薄利多売のビジネスのため、高価なITシステムはなかなか導入できない。

また、かつてスーパーマーケットは、大量に仕入れて仕入れ費用を抑え「他店より1円でも安く売る」という戦略さえあれば顧客の囲い込みができ、それが顧客にとっての価値にもなったため、「データを分析してマーケティングに生かす」という風土が育ちにくかったという事情もある。

しかし現在は、食品や日用品を購入するにしても、コンビニやドラッグストアなどスーパーマーケット以外の選択肢がいくつもある。顧客は安さだけでなく、利便性や商品の良し悪しも含めて店舗を評価するようになったのだ。

山川氏は「これからは単なる安売りではなく、お客さまの声を聞いて、そのニーズに対応する小売業が伸びてきますし、その方向に変わらざるを得ない状況にきています」と話す。

安売りスーパーが勝てなくなった理由

一般的なスーパーマーケットに置かれている商品点数は、平均3万アイテム前後といわれている。

そのうち月に1個でも売れる商品は、わずか4,000アイテムほどだ。なかには廃棄処分される商品も少なくない。特に廃棄率が高い分野が、生鮮食品や総菜だ。

山川氏によると、総菜の廃棄率は全体の10%、水産物だと8%ほどになり、多くの店舗では平均して5%の廃棄ロスが発生するという。1%という低い利益率に対して、5%の廃棄ロスは大きな負担だ。大量消費の時代ではなくなった現在、安売りを続けていれば、それだけ赤字が増えてしまうのだ。

ギリギリの利益率のなか、売上を向上させて廃棄ロスを減らすには、取るべき戦略は1つしかない。それは「顧客が求める商品を増やす」ということだ。顧客が欲しい商品があれば、売上は増えて結果として廃棄ロスが減る。そこで注目されているのが、本当の意味での“データ活用”だ。

従来のPOSデータに足りなかったもの

実際、最近のスーパーマーケットの経営者の危機意識は高まっている。顧客が欲しい商品が何なのか、自店のPOSデータによる売上情報を漫然と見ているだけではつかめなくなっているからだ。そこで必要となるのが、「自店のある地域では、何が買われているのか」という同じ地域にあるスーパーマーケット全体の購買データだ。それを分析し、自店との傾向を比較することで地域の顧客が本当は何を求めているのかが見えてくれば、適切な対策を打てるようになる。

たとえば自店でのPOSデータではあまりトマトが売れていないとしても、同じ地域では、自店より高い価格で、トマトがよく売れていたとする。その事実がわかれば、周辺の顧客は「旬だからトマトが食べたい」というニーズを抱えているにもかかわらず、自店では十分な対応ができていないのではないかという仮説を立てることができる。自店のPOSデータ情報は、あくまで自店だけのものであり、本来把握しておくべき周辺顧客のニーズはそこからは見えてこないのだ。

さらに実は、従来のPOSデータには2つの課題があった。

1つは、POSデータはもともと「何がいつ、どれだけ売れたか」という“売れた情報”なので、「誰が」という“買った”側の情報が入っていないこと。もう1つは、スーパーマーケットの主力商品である生鮮食品のバーコードが店舗によってバラバラだったことだ。

山川氏は「生鮮食品業界を統一する団体がなく、バーコードはレジ業務効率化のために各店舗で独自に付与されていただけ。店舗内でしか通用しないものだったのです」と説明する。これを解決し、データ活用の可能性をひらいたのが、アイディーズの「i-code」(*1)だ。

主力商品のデータ共通化で見えてきたこと

アイディーズが2012年に提供を開始した「i-code」は、1日全国500万人分のレシート(8,400万件の購入データ)を収集し、これまで把握できなかった生鮮商材・総菜の購買行動の可視化を可能にした。

i-codeのデータ保有数と処理能力(*2)
アイディーズのi-codeは、1日あたり500万人分、8400万件のデータを処理し、2016年2月現在、520億件のデータを保有している。

i-codeは、レシート情報が元になっているため、個々の店舗の識別はもとより、その店舗がある地域全体で何がどれくらい売れたのかも把握できる。それによって、地域全体の顧客ニーズと自店の品ぞろえとの差が明らかになる。

i-codeによる、自店と同一エリア全体での売れ行きの比較例
商品購入に関するPI値という指標を使って自店とエリア全体の状況を比較することで、自店の抱える課題が見えてくる。

自店と同じエリア全体でのPI(Purchase Index)値(*2)を比較すると、たとえばもやしや豆腐は、自店はエリア全体に比べて、数量や価格面で十分な対応ができていないのではないかという仮説が成り立つ。一方玉ねぎは順調なので、現状維持か、あるいはさらに積極的な施策についての検討も可能だ。

自店の販売データだけを見ていたのでは、本来の顧客ニーズをつかみ損ね、効果的なマーケティング施策につながらなかったかもしれない。

だが、i-codeの登場だけで、スーパーマーケットのデータによるマーケティングが万全になったわけではない。スーパーマーケットの経営課題をデータで解決するには、もう一工夫必要だった。後編 では、その具体策と効果を説明する。

この記事の後編を読む

注釈:
(*1)「i-code」(外部サイト)
(*2)合計データ保有数は、2016年2月現在の数値
(*3)「PI(Purchase Index)値」購入客1,000人あたり、該当の商品が何個購入されているかを示す指標。売れた個数÷来店客数×1000の数式で求める。

プロフィール

株式会社アイディーズ 代表取締役社長 山川 朝賢氏

昭和32年沖縄県那覇市生まれ POSデータ活用に特化した事業に一貫して取組み、「店頭を科学する」のコンセプトのもとに付加価値の高いサービスを行い、2008年「ハイ・サービス日本300選」に選ばれる。全国のPOSデータを取扱うなかで、標準化されていなかった生鮮三品のコードの統一化を図る。データそのものの価値を高め活用の幅を広げる政策に取組み、他業界からも注目を集める

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