デジタルマーケティング入門

【Dの視点】データ活用と血圧計―「計測」と「分析」の違い

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ビッグデータやデータサイエンティストという言葉が登場してから、「データ活用」について論じるビジネス書籍や記事が増えてきました。

そのような記事では、「データ活用はPDCAサイクルが大切」「ツールや方法論にとらわれないように」と書かれています。ですが、自分自身がデータに触れてきた経験からいうと、そもそもデータを計測する(見る)ことと、分析することの違いを語ったものはあまり多くはないと感じます。

ビジネスの状態を表す数々の数字がダッシュボードに並んでいます。そこに表示される数字を眺めていると、なんとなく分析した気になってしまいます。ビジネスの状態が数値で表されると、何か“気づき”を得たように感じることもあります。しかし、ダッシュボードに並んだ数字は事象の輪郭を表す集計値でしかないのです。分析とは、その数字として表れた事象の原因を探り、施策につなげることです。一方、ダッシュボードで数字を見ることは、日々の状態の変化をチェックすること、つまり計測なのです。

計測と分析の違いは、血圧測定にたとえることができます。
血圧計に腕を入れ、血圧や心拍数を測ることは分析のきっかけになりますが、分析そのものではありません。計測です。これを日々続けることで、何か変化が起きたときにいち早く気づきを得ることができます。

急に血圧が上がったら、まず病院に行くでしょう。病院では、再度血圧を測ったり、問診したり、症状を見たりして、血圧が上がった原因を絞り込みます。もし病気による高血圧の疑いがあれば、CTスキャンなどを使って原因を特定していきます(実際に、副腎にできた腫瘍が原因で高血圧になるということがあるそうです)。こうして治療方針を判断するのです。これが分析です。

診断したあと、血圧上昇の原因が病気であるならば病巣を取り除く施策を打ちます。生活習慣病であれば、血圧を上げる習慣を制限して投薬します。ビジネスでいえば、これらが施策に当たります。

施策を行ったあとは、当然その効果を検証しなければなりません。病院であれば、治療後の経過観察が検証です。再び血圧を測って正常値まで下がっているか、ほかに異常は出ていないかをチェックします。これがPDCAサイクルなのです。

データ活用と聞くと、ツールの導入やその使い方や統計学、分析手法といった「HOW」から入ることが多いように思います。HOWは具体的な情報が多く伝えやすい、わかりやすいからでしょう。一方で「PDCAサイクルはどういうものか」「計測と分析の違い」などの概念を説明した記事や書籍はほとんどありません。これでは具体的にデータを利用するビジネスやビジネスプロセスから意識がそれてしまい、データ活用がなかなか進展しないのではないでしょうか。

データ活用の説明に「血圧測定」というメタファーを使っている理由は、もう一つあります。それは「データで分析する目的」が伝えやすいからです。「データ分析すると、何かいいことがありそう」という漠然とした期待感のまま、HOWに飛びついているのではないでしょうか。その“いいこと”は何なのか、どんな業種・業態でも共通する概念としてシンプルに説明されることがないのではと思っています。

私は、分析の効果は「ビジネスを最適化すること」だと考えています。高血圧の原因を一つひとつ深掘りして特定するように、分析とは、計測に表れた事象を要因に分け、原因を突き詰める過程なのです。「ビッグデータ」は、さまざまな事象を構成するさまざまな要因がデータとして存在している、あるいはその要因がデータとして取得できる世界を示す言葉だと考えています。

ビジネスで置き換えてみましょう。たとえばアプリのユーザー数が減少している場合、「新規ユーザーと既存ユーザー」に分けてみます。新規ユーザーが減っているのならば、新規ユーザー獲得の施策が必要ですし、既存ユーザーが減っているのならば、機能やUIに問題はないか、ユーザーに魅力のあるコンテンツを提供しているか、競合企業にユーザーを奪われていないかなど、一つひとつ深掘りし、既存ユーザーに働きかける施策が必要です。

こうして、ビジネスにおいてリソースを投下する対象を明確にし、ビジネス最適化していくことが、データ分析する目的です。そして、最適化が実現したとき、「データを活用した」状態が実現される。そう考えています。

著者プロフィール

橋本 恭明(ハシモト ヤスアキ)

株式会社GYAO CRM室室長。2004年7月、ヤフー株式会社に入社。検索事業部、広告開発本部、メディアサービスカンパニーメディアサイエンス室、データ&サイエンス統括本部データサービス本部などでデータやサイエンスを使ったプロジェクトマネジメントに従事。2016年10月よりエンターテインメント事業を展開する株式会社GYAOに出向。

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