マーケティング戦略

IAB Tech Labと語る:日本のデジタルマーケティングにいま必要なものとは

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日本に比べて、アドブロッキングやアドフラウド (*1)に対する意識が高い米国市場。果たして日本のデジタルマーケティングは米国に比べ遅れているのか? いま足りないものは何なのか? IAB(Interactive Advertising Bureau:以下、IAB)シニアディレクターのアレクサンドラ・サロモン氏、IAB Tech Labのアランナ・ゴンベール氏ととも共に、Yahoo! JAPAN マーケティングソリューションズカンパニー経営戦略本部長の高田徹が、グローバルな視点で日本のデジタルマーケティングについて語った。

―まず、IABとIAB Tech Labの成り立ちと位置づけについて、簡単に説明していただけますか。

アレクサンドラ・サロモン(以下、サロモン):IABは主に、20年以上前にアメリカで始まった機関です。パブリッシャー同士のリレーションと課題に焦点を当てて動画やデジタル広告の技術的、運用制度的なスタンダードを展開しています。世界に44のIABの機関があって、それぞれのマーケットで独立して運営しています。

アランナ・ゴンベール(以下、ゴンベール):IAB Tech Labは、約1年半前に設立した団体です。アドバタイザー、エージェンシー、パブリッシャー、プラットフォーマーといったメンバーで成り立っています。私たちはいずれかに依存するのではなく、全てに対し平等に、という立場で基準を作っています。

活動内容としては、テクノロジーの標準を作ることに特化しています。IAB Tech Labはグローバルで活動しているので支部はなく、世界各地のIABと連携したり、あるいはいろいろな業界団体と協力したりしています。活動は技術にフォーカスしており、グローバルでアグノスティック(非依存型)であることを重視しています。

―そのIAB Tech Labには、今年、日本からのボードメンバーとしては初めてYahoo! JAPANが参加しました。改めてその理由について聞かせてください。

高田徹(以下、高田):IABはきちんとした技術でアウトプットを出し、テクノロジーの発展に寄与しているという点で、重要な業界団体です。ただ、インターナショナルでありながら、やはりアメリカが中心をなしていました。日本は世界の中でいうと3番目に大きいマーケットで、広告マーケットも大きいにもかかわらず、こういった場で声を届けていなかったので、今回のIAB Tech Labへの参画はそのためのチャンスだと考えました。

目的としては、まず日本の技術者が世界に行きやすくなる環境を整えるという点があげられます。
日本は、特に2020年にかけて、注目を浴びるマーケットであるはずです。しかし、グローバルマーケットでは、思っている以上に日本のマーケットの情報は少ないのです。まず何が「違う」のかを理解できないと、グローバルなマーケティングストラテジーを単純に日本に持ってきてしまうなど、間違った動きが出てきてしまうでしょう。

日本のマーケティングは遅れているのか?

―デジタル広告の分野において、日本の弱い部分を指摘するとしたら、どういったところでしょうか。

ゴンベール:メッセージングの部分やマーケティングですね。例えば、日本はどういったものを創造して、何を世界に提供できるのかという情報を、もっと伝えてもよいと思います。たとえば、USとは違い、日本ではLINEが相当浸透しているとか、若者にSNOWというアプリでのコミュニケーションが流行しているといった状況については、私もつい最近知ったばかりです。こういうこまかな日本のマーケティングの情報についても、海外の人たちが知ることができるとよいと思います。

高田:海外出張の際にいつも感じるのですが、本当に日本のことが知られていませんね。製品の品質や基本的なスタンダードは、日本の全てのサービスで高いと思うのですが。食事だっておいしいし、紙オムツひとつにしても、非常に高いクオリティーだと思います。

ゴンベール:例えば、ロボットのPepperなどについても、日本に来て実際に見るまで知らなかったのですが、ひとめ見てとりこになってしまいました(笑)。そういう消費者向けの家電製品であれ、何であれ、基本的にマーケティングというものをもっと変えていいのではないか、もっとグローバルな視点を持ってもいいのではないかと感じます。

高田:マーケティングに関しては、日本が遅れているというよりは、日米の間にギャップがあるという感じがしますね。例えば、日本のマーケターはIABについて知らないことが多いでしょうし、やはり「グローバル」がキーワードになって、関係性をもっと良くしていけるのではないでしょうか。


アランナ・ゴンベール氏(写真左)と高田徹(写真右)

たとえば、「Insight for D」に出ている事例も、一つ一つの事例は海外でも通用するものだと思います。でも、それを出そうという方向ではないのだと思います。少なくとも、日本のマーケターは一つのプログラムなり、キャンペーンなりにかけている熱量や計画、厳密に見ることに関しては、むしろアメリカより優れている部分があると思います。

ゴンベール:現実的には、それぞれの市場でいろいろなことをやっており、マーケターやエージェンシーがデジタルなものに着手するのは簡単ではないので、「日本はこういうことをやっている」というストーリーをもっと伝えてほしいですね。それだけのストーリーがあるわけですし、素晴らしいことをたくさんやっているので、やはりベストプラクティスとして発信していくべきだと思います。

今回こうしてIAB Tech Labについてお話しすることで、私たちが公開している広告の技術仕様のポートフォリオに触れる人、それを日本で使えるかどうかと考えたりする人が増えるかもしれません。でもコメントする人はそう多くないのではないでしょうか。しかし、そういったフィードバックこそが重要なのです。

―デジタルマーケティングの領域においては、日本は常に米国を意識して情報を入手しており、インプット重視の傾向があるようですが。

ゴンベール:特にクリエイティブやコンテンツ側で感じるのは、コンテストやオープンソースのプロジェクトなどの場で、日本のアウトプットの部分、つまりイノベーションをもう少しうまく見せられると良いと思っています。来日してからIAB MIXX Awards (*2)の話をする機会もありましたが、グローバルアワードのようなコンテストやオープンソースのプロジェクト、その中間に位置するような機会はたくさんあるのですから、やはり、そういう場に参加して自分たちが何をやっていることをもっと見せるべきだと思います。

高田:クリエイティブについては、日本が活躍してきた分野もありますよね。たとえば30年ぐらい前、カンヌライオンズは日本のエージェンシーがリードしていました。バブルの時代から、テレビの世界は日本のエージェンシーが積極的にカンヌに行っています。テレビは50年ぐらいの歴史があって、クリエイターは海外でのイベントなどに参加する文化があるのですが、デジタルの方はまだそういう文化が確立されていないように思います。

サロモン:カンヌでもデジタルの賞などをやり始めていて、アメリカも少しそういうことをやろうとしています。クリエイティブ領域でも、テレビがデジタルに融合しにいっています。日本も受賞していましたよね。

デジタル広告の課題への対処

―さて、米国で今、アドテクに関する話題といえば、アドブロッキングやアドフラウド(広告詐欺)に関心が集まっています。今後、広告主にとっては、どのように影響していくのでしょうか。

ゴンベール:まず、アドブロッキングについては、文字通り広告がブロックされるわけで、そうなると広告主のストーリーが伝わらないということになってしまいます。また、アドフラウドについては、タイプがいろいろあるのですが、ウェブサイトによっては合法ではないサイトで、ノンヒューマントラフィックでインプレッションが偽造され、ロボットが繰り返しどこかに売ってしまうようなことをするので、在庫がプレミアムなものでなくなってしまいます。

―アドブロッキングやネイティブ広告の議論において、“広告は消費者に嫌われつつある”という見方もあると思います。改めて、広告とはどうあるべきものでしょうか。

ゴンベール:そもそも、広告というもの自体はずっと変わっていません。あるブランドについてストーリーを伝えて、カスタマーに対して期待する何かしらのインパクトをもたらすということが目的です。基本的に広告というのは、テレビであろうが今までどおりの出版物であろうが、ブランドについてのストーリーを伝えることで存在しています。ネイティブ広告などは、一種のデジタルの進化の一過程だと思っています。広告は、媒体に合わせて正しくそれが伝わるようにしなければいけない、作り込まなければいけないというところがあるのです。

―そういった状況で、IAB Tech Labのサイトで説明されている“LEAN”と“DEAL”という考え方が重要になるのですね。

ゴンベール:アドブロッキングに対抗するというよりも、ブロックされない広告のあり方を考えるというのは重要です。LEAN (*3)とは、見る人のウェブ体験を損なわないための広告の指針で、Light(軽い)、Encrypted(暗号化されている)、Ad Choices(選択可能)、Non-invasive/Non-disruptive(見る人の邪魔にならない)ということです。

また、DEAL (*4)については、アドブロッキングへの対処についてまとめたもので、Detect(アドブロッキングを見つける)、Explain(相互にやりとりするバリューについて説明する)、Ask(公平なバリュー交換につながるよう態度変容を求める)、Lift/Limit(対象によってアクセスを制限する)、の頭文字を合わせたものです。

―DEALの“E(Expalin: 説明する)”の部分でいう、相互にやりとりする“バリュー”とは、具体的にはどういうことでしょうか。

ゴンベール:多くの場合、コンテンツはカスタマーが無償で見られるようになっています。でも実際には、パブリッシャーがジャーナリストやいろいろなところにお金を払った結果、その無料のコンテンツが成り立っているわけです。“value of exchange(バリューの交換)”といっているのは、エンドユーザーやカスタマーに対して、「こういうメディアを作ってこういう形で運営しているので、何かしら収入が必要です」というメッセージを伝えて、広告をきちんと機能させるようにすることを指しています。バリューの交換については、何かしらのより良い広告体験と引き換えであったり、サブスクリプションモデルであったりしますね。そういったモデルを説明する必要があるということです。

高田:かなり真正面から説明するというスタンスですね。パブリッシャーのビジネスは広告によって成り立っていて、「あなたが無料でコンテンツを見られるのは、広告があるからだ」と。勇気を持って言うことと、広告主もそれを理解することが大事だということですね。

サロモン:日本は、テレビが無料で見られるのが当たり前のように思われているので、無料で情報を入手できないことに対して慣れていないのかもしれません。ヨーロッパでもBBC放送の番組制作などは受信料が使われていたりします。


アレクサンドラ・サロモン氏(写真左)とアランナ・ゴンベール氏(写真右)

―最後に、IAB Tech Labとして、Yahoo! JAPANには特にどのような役割を期待されますか。

ゴンベール:まず、日本の市場について、あるいは日本で開発されているいろいろな技術について、私たちに教えてほしいです。私たちが学べるように助けていただきたいと思います。当然、Yahoo! JAPANで開発されている技術もそうです。それと、日本でこういう話題を扱うコミュニティのようなものが始まるきっかけになる役割も果たしてもらえればと思っています。あとは、IAB Tech Labのコードのリポジトリやオープンソースがあるので、そこにぜひ、Yahoo! JAPANのエンジニア方たちも広告向けのツールなどを作って貢献していただきたいと思っています。

高田:日本の技術をもっとグローバルな場にフィードバックしていくところから活動を始めています。トヨタがカンバン方式を確立したように、日本のテクノロジーやイノベーションについて発信をどんどん強化していきたいですね。

注釈:
(*1)機械などを使って、無効なインプレッションやクリックを行い、広告費用に対する成約件数や広告効果などを不正に水増しする不正広告
(*2)IABが主催する、毎年優れたインタラクティブ広告を顕彰するアワード(外部サイト)
(*3)LEAN(外部サイト)
(*4)DEAL(外部サイト)

プロフィール

Alanna Gombert(アランナ・ゴンベール)

シニアバイスプレジデント, Technology & Ad Operations, IAB ゼネラルマネージャー, IAB Tech Lab

Alexandra Salomon(アレクサンドラ・サロモン)

シニアディレクター, International IAB

高田 徹

Yahoo! JAPANメディア・マーケティングソリューションズグループ マーケティングソリューションズカンパニー 経営戦略本部長。IAB Tech Labのエグゼクティブ・コミッティーのボードメンバー兼ファウンディングメンバー。

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