デジタルマーケティング入門

データを読み取る力[前編]――「市場」「生活」「モノ」「コト」で捉える

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マーケティングは、仮説検証の繰り返しである。そのためにデータの活用は不可欠だ。仮説を立てるにも、新しい着眼点、発想のきっかけが要る。誰でも、毎日の仕事や生活のなかで感じた兆しを、データで確認して、戦略の土台をつくった経験があるだろう。一方、結果検証にもデータは不可欠である。商品の売れ行き、プロモーションや宣伝広告への反響の分析など、マーケティング担当者がデータと向き合う機会は多い。いまや、データ分析の専門家でなくても「データを読み取る力」は必要なスキルになっているのだ。

そこで、いかにデータを読み解くか、情報の活用方法について提言したい。ただし、データ解析やデータマイニングなどの技術的な話ではなく、そもそもの仮説を立案し検証する目線(ものの考え方)についての話だ。堅苦しい話ではないので、アタマの体操ぐらいのつもりでお付き合いいただきたい。

「市場」「生活」「モノ」「コト」――4つの視点で考える

まず、マーケティングでデータを扱う目的として、次のようなものが挙げられるだろう。

(1) 消費者の心理と行動に対する洞察
(2) 自社と競合との差別化・優位性の探査
(3) (1)(2)を取り巻く状況証拠

しかしながら、長年、特定の商材のカテゴリーに従事して仕事をしていると、知らず知らずのうちにプロならではの「思い込み」や「既成概念」に捕らわれてしまうことがある。データを駆使して、自社内の定説や業界の常識を繰り返し、補強してしまうのだ。そこで、アタマのなかをリフレッシュして、冷静に現状分析を行い、素朴な疑問や新しい起点を見いだすための視点を考えてみたい。

はじめに、「市場」と「生活」という2つの視点について述べたい。「市場」とは商品やサービスの売れ行きや価格などについてのデータであり、一方で「生活」とは、消費者の日常生活にかかわるデータである。ここではわかりやすい具体例として、生鮮食品である「野菜」で考えてみよう。

2016年は、天候不順、長雨の影響、野菜の価格が高騰し、食生活に大いに影響をもたらした。この話題において、マーケットに並ぶ葉野菜やトマトの値段や売れ行き、コンビニエンスストア店頭のサラダ関連商品の動向など、企業が提供するモノやサービスが主役の「市場のデータ」だ。

一方で、最近の健康志向を受けて、野菜を食事に取り入れたいという消費者の動向に関するもの、すなわち、食卓にどんな野菜が、どんなレシピで、どの程度の頻度で並ぶのかなど、主役が消費者なのが「生活のデータ」である。

次にデータが指し示すのは「モノ」(商品やサービス単独)の話なのか、「コト」(モノを取り巻く事象、現象)の話なのかを考える必要がある。先ほどの野菜における「天候不順」は、「市場にかかわるコトのデータ」になる。商品やサービスにかかわる幅広い事象と捉えていただくとよい。

一方、ダイエットやメタボ対策などの健康情報は、「生活にかかわるコトのデータ」になる。例を挙げると、――先日、朝の情報番組で、野菜高騰を受けての冷凍野菜活用術という番組が放送され、さまざまな反響を呼んだ―― などという周辺情報も「コト」の情報だ。

以上の4つの視点をわかりやすく、単純に示したのが図1である。

図1 マーケティングにおける物事(モノ・コト)の整理「野菜編」
横軸を「市場」と「生活」、縦軸を「コト」と「モノ」とした2×2の象限に野菜をあてはめると、「市場とモノ」には「生鮮食品、野菜の値段や売れ行き」、「生活とモノ」には「レシピ」、「市場とコト」には「天候不順」、「生活とコト」には「健康トレンド」が入る

4つの視点をあらためて整理すると、次のようになる。

(1) 市場×モノ=野菜そのものの売れ行き(食品について)
(2) 生活×モノ=レシピ(食事について)
(3) 市場×コト=天候(食品にかかわる事象、この場合は生産の話)
(4) 生活×コト=健康トレンド(食事にかかわる事象、この場合は食生活の話)

企業のマーケターにとって、最大の関心事は(1)であるが、それを取り囲むように(2)から(4)があることがわかる。

天候不順は、野菜の値上がりを通じて、生活の現場に影響を与え、また、健康トレンドは消費者のレシピを通じて、売り場に影響を与える。現時点で、2つの流れは関連づけられてはいない。しかしながら、次のように仮説を立ててみるとどうだろう。

たとえばトマトが、天候不順の影響でもっとも価格が変動しやすい品目と仮定する。その一方で、消費者のニーズや実際のレシピのなかで、「取り入れたい」「使いやすい」という点でトマトが上位を占めているとする。この場合、天候の影響を受けにくい「価格安定性」の高いトマトを提供できれば、1年を通じて健康的な食事を支える取り組みとして打ち出すことができるだろう。また、先ほど例に挙げた、情報番組での冷凍野菜活用術への反響などを分析すれば、「天候不順による生鮮食品(特に野菜)の価格変動」について、生活の現場では何が起こっているのか。その際に、流通企業は、売り場でどんな提案を展開できるのか、という仮説立案を考えるきっかけにもなるだろう。

商品そのものではなく「食べ方」で訴求

別の事例からマーケティングにおける「物事(モノ・コト)」を考えてみる。筆者がかかわった過去の事例で、某カップスープ・メーカーが、「つけパン」「ひたパン」というキャンペーンを実施したことがある。当時、原料であるコーンなどへのこだわり、品質を中心に宣伝広告をPRしていた(つまり“モノ”中心の商品提案であった)。

その後、新しいキャンペーンでは、そのブランド自身が「つけパン」「ひたパン」というパンの食べ方を軸に朝食提案(つまり“コト”中心に生活提案)に切り替えた。この戦略の転換のきっかけは、カップスープが実際の生活で、どんな風に食べられているのかを探ったデータだった。そのデータが示したカップスープの利用実態は、「圧倒的に朝食で、パンと一緒に食べている」というものだった。すでにお気づきだと思うが、消費者は、生活のなかの「コト」から行動を起こす。その結果、「モノ」が売れるというのは、昔から指摘されているとおりだ。

生活欲求から購買欲求へ

先ほどのカップスープの事例からも見えてくるが、マーケティングのセオリーとして、「生活欲求」→「購買欲求」という流れがある。「生活欲求」とは、生活のなかで感じる“不足を満たしたい、不便を解消したい”という気持ちである。そこから生まれるのが、不足や不便を解消するために、最適な商品やサービスが欲しい、購入したいという気持ち、つまり「購買欲求」である(*1)。

データの読み解き方でも「市場」での「モノ」の動きばかりを追いかけるのではなく、「生活」の現場でどんな「コト」が起きているのかに注目したい。誤解のないように繰り返すが、「市場」×「モノ」のデータが重要であることはいうまでもない。ただ、そこばかりを掘り返しても、マーケティングの突破口につながるヒントは見つからないということだ。

後編では、ミネラルウオーターを例として、実際に「マーケティングにおける物事(モノ・コト)」の視点を使って仮説立案を実践してみたい。

この記事の後編を読む

注釈:
(*1)「カスタマーセントリック思考」出版記念インタビュー(外部サイト)

著者プロフィール

株式会社インテグレート COO 山田 まさる氏

早稲田大学卒。食物繊維の新コンセプト「ファイバー・デトックス」の仕掛け人で、日本PRアワードグランプリで複数の受賞歴を持つ。2007年5月、IMCを実践する日本初のプランニングブティックとして株式会社インテグレートを設立、COOに就任。株式会社コムデックスの代表取締役社長も務める。著書に『脱広告・超PR』(ダイヤモンド社)など多数。「Business Journal」に寄稿。

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