組織づくり・人材育成

スポーツアナリスト鼎談――勝つためにはデータがすべてではない、その真意とは

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現代のスポーツにおいて「データ」はなくてはならないものだ。データは選手の課題を克服するための出発点であり、対戦相手の弱点を研究するための材料でもある。日々データを蓄積することによって、選手の好記録・好成績につながっている。そのデータを集め、解析する役割を担っているのが「スポーツアナリスト」だ。彼らスポーツアナリストは、具体的にどのようなデータを集め、どのように選手の強化に生かしているのだろうか。2016年に開催されたリオデジャネイロ・オリンピックで競泳、卓球、柔道それぞれの選手団に帯同して各競技の活躍に貢献した、日本スポーツ振興センターの岩原文彦氏、池袋晴彦氏、鈴木利一氏の3名に話をうかがった。

データは強化の出発点

今回話をうかがった3名は、いずれも個人競技のアナリストで、岩原氏は競泳、池袋氏は卓球、鈴木氏は柔道を担当している。「試合中・練習中の映像を撮影」し、「映像を編集・加工」する。そして「取得した映像や数字を分析して得られた気付きを指導者に伝える」ことが彼らの主な仕事だ。

基本的な仕事内容は似通っているが、当然のことながら取得するデータは各競技で異なる。競泳の場合、レースである一定区間をどれだけのスピードで泳いだか、1回のストロークでどれくらいの距離を進んでいるのかなど、数字を事細かに取得する。卓球の場合は、主にライバル国の選手の映像を撮影し、その選手がどのような戦法を取っているのか、どのような打法で、どのような回転のボールを打ち、何球目に得点になるのかといったデータを収集する。柔道の場合も対戦相手となりうる他国の選手たちの映像を撮影し、どのような技を持っているか、どの時間帯にどのような技をかけ、どう勝負に出る傾向があるかといったことなどを掘り下げ、数値化している。

彼らアナリストは、こうしたデータを取得し、分析することによって日本の選手たちの強化につなげているのだが、各競技の現場で、データはどのような位置づけとなっているのだろうか。鈴木氏は次のように話した。

「データは“事実”を示すもの。事実に基づいてコーチングの方針を定める。課題を選手と共有し、その課題を克服するための手段を考える。つまりデータは、コーチングの指標になります」(鈴木氏)

ハイパフォーマンスサポート事業 パフォーマンス分析(柔道) 鈴木利一氏

ハイパフォーマンスサポート事業 パフォーマンス分析(柔道) 鈴木利一氏

Gold Judo Ippon Revolution Accordance 全日本柔道連盟が独自に開発したデータ解析ツール。頭文字をとり「GOJIRA(ゴジラ)」と呼ばれている

Gold Judo Ippon Revolution Accordance

全日本柔道連盟が独自に開発したデータ解析ツール。頭文字をとり「GOJIRA(ゴジラ)」と呼ばれている

データの取り入れ方こそが鍵

鈴木氏の考えに岩原氏、池袋氏も賛同する。その一方で、3氏は「データがすべてというわけではない」とも口にした。

「競泳では選手とコーチが密接に関わり合うので、データの考え方、扱い方はコーチに一任されていることが多くあります。ただ、コーチが練習の参考にしようとするデータを、選手自身が“必要ない”と判断すれば、選手はあえて聞き流すというか、情報の取捨選択をすることもある。自分に何が必要なのかを選択できるのが賢い選手なのだと思います」(岩原氏)

ハイパフォーマンスサポート事業 パフォーマンス分析(競泳) 博士(体育科学) 岩原文彦 氏

ハイパフォーマンスサポート事業 パフォーマンス分析(競泳) 博士(体育科学) 岩原文彦氏

エクセルシートにデータを入れていく。競泳のデータ活用の歴史は長く、入力する項目はすでにフォーマット化されている

エクセルシートにデータを入れていく。競泳のデータ活用の歴史は長く、入力する項目はすでにフォーマット化されている

「卓球の場合、対戦相手が決まると、選手やコーチたちは自分自身で大まかなゲームプランを考えます。その材料の一つとして、対戦相手の映像を見て対策を練りますが、自分や相手の調子の良し悪しによってそのゲームプランは変わってくる。そのときに“データでは、相手はこういう展開に持って行く可能性が高いからこうすべき”ということにこだわってしまっては、試合の流れをつかみ損ねてしまう可能性があります」(池袋氏)

ハイパフォーマンスサポート事業 パフォーマンス分析(卓球)池袋晴彦氏

ハイパフォーマンスサポート事業 パフォーマンス分析(卓球) 池袋晴彦氏

映像とデータを同時に管理できるデータ解析ツール。世界中のさまざまな競技のトップチームが活用しており、日本卓球界でも使われている

映像とデータを同時に管理できるデータ解析ツール。世界中のさまざまな競技のトップチームが活用しており、日本卓球界でも使われている

「自分の中に“確たる答え”がある選手ならば、その答えを補強するためのものとしてデータを使うため、さらに強くなることができるでしょう。ただ、答えを持っていない状態でデータばかりに捉われてしまうと、『あれをしなければならない』『これもしなければならない』となってしまう。特に柔道は一瞬の判断が勝負を分ける競技ですから、その判断を鈍らせてしまうことにもなりかねません」(鈴木氏)

どのスポーツにおいても、強い選手ほど自分の強みを理解し、スタイルを確立させている。データは、そうした選手の強みをさらに伸ばし、スタイルを補強するためにある。その一方で、自分の強みを理解せず、スタイルがない選手がデータだけに頼るのは、逆に強化の足かせになってしまうということもあるというわけだ。

前述したように、データはあくまでも「事実」であるが、それ以上でも以下でもない。データを活用することは是といえるが、データさえ使いこなせば100%勝てるようになるというわけではないということなのだ。

「指導者の指導者」としてのアナリスト

強くなるためにはデータがすべてではないという3氏だが、その言葉の裏には、「単純にデータを提供すればいいわけではない」という意味も込められている。データを集計し、それを提供するだけならばアナリストでなくてもできることであり、将来的には人工知能が自動的かつスピーディーに提供できるようになるかもしれないからだ。では、アナリストに課された使命とは何か。鈴木氏は「データの裏に隠されているものを見抜くこと」だと話す。

「例えば“ある選手はどのような技を使うのか”というデータを求められたとき、アナリストは “その選手の必殺技は何か”というところまで見なくてはなりません。必殺技は乱発するものではないので、数字的には出す確率が低い。数字の大小だけを見てしまうと“出す確率が低い技には警戒度を下げてもいい”となりかねませんが、本当に気をつけるべきはその技なんです。

だから、ポイントにつながる必殺技は何か、どの時間帯に必殺技を繰り出すことが多いのか、必殺技に至るまでにはどの技を駆使しているのかといったことまで分析しなくては意味がありません」(鈴木氏)

さらに池袋氏と岩原氏は、アナリストにとって重要な能力として、抽出したデータをいかに選手・指導者が理解しやすい形に加工して説明できるか、また、指示系統をどれだけ遵守できるかといった点についても言及した。

「私自身かつて卓球をプレイしていましたが、現役のときに指導者からデータや映像をそのままポンと渡されても、自分だけでは活用のしかたが理解できなかったと思います。そのためスポーツアナリストになってからは、コーチの要望に応じて編集したデータや映像を提供するようにしています。たとえば大会が始まるとホテルとの移動や身体のケア、食事など次の試合に向けて時間がないことがあるため、ボール拾いをカットした映像を提供したりして、30分の試合も10分程度ですべて見られるようにします。基本的には選手やコーチは、一人で映像を見ることが多いようですが、指導者がかみ砕いた上で選手に渡したり、一緒に見たりすることによって技術や戦術に対する共通理解がより深まると思います」(池袋氏)

集合写真

卓球だけではなく、柔道も競泳も、原則的にアナリストから選手に直接データを渡すことはなく、必ず指導者を介して選手にデータが届くようにしているという。また、いくらインパクトのあるデータが取得できたとしても、そのデータを使うか否かは、強化方針と照らし合わせてからでなくてはならない。その方針を定めるのは、アナリストではなく指導者である。

スポーツの現場では、最終的に結果を出すのは選手であり、指導者は選手が最高のパフォーマンスを発揮できるようにマネジメントを行うことが使命だ。その関係性と同様に、アナリストは指導者が最適な指導を行えるように、データをマネージする存在である。つまりアナリストは、情報分野における指導者の指導者、といえる立場なのである。

今の時代、データはなくてはならないものだ。それはスポーツにおいても同様である。ただし、データを扱うプロフェッショナルはまだまだ多いというわけではない。今後、スポーツアナリストの地位が確立され、その数が増えていけば、日本のスポーツのレベルはさらに上がっていくに違いない。

集合写真

プロフィール

岩原 文彦氏

日本体育大学大学院体育科学研究科博士後期課程修了(体育科学博士)。2000年より、競泳日本代表チームへの科学的サポート活動を行う。日本水泳連盟科学委員・競泳委員。日本スポーツ振興センターハイパフォーマンスサポート(旧マルチサポート)事業パフォーマンス分析のスタッフとして、競泳日本代表チームに向けた映像分析サポートを担当。

鈴木 利一氏

2010年3月に東海大学卒業後、同大学院体育学研究科に進学。10年4月~東海大学女子柔道部コーチ、13年7月~全日本柔道連盟強化委員会科学研究部員に就任。14年4月~日本スポーツ振興センターハイパフォーマンスサポート(旧マルチサポート)事業パフォーマンス分析のスタッフとして、柔道日本代表チームに向けた映像分析サポートを担当。

池袋 晴彦氏

2006年筑波大学体育専門学群卒業、2014年筑波大学大学院人間総合科学研究科健康スポーツマネジメント専攻修了。2013年から現在まで、日本スポーツ振興センターハイパフォーマンスサポート(旧マルチサポート)事業パフォーマンス分析のスタッフとして、卓球日本代表チームに向けた映像分析サポートを担当。

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