ビジネス創出

ビッグデータが医療を変える[後編]――変革は何を患者にもたらすか

記事内容の要約

  • 「他院との診療内容を比較したい」という医師のニーズに応え、ベンチマーク機能のついた病院向け経営支援システムを開発
  • 収益の健全化により、よりよい医療サービスに向けた投資が可能になる
  • 医師と患者、その家族がともに最適な医療サービスを選択できるような、「デジタル健康ソリューション」を構築中
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この記事の前編を読む

メディカル・データ・ビジョン株式会社が提供する病院向け経営支援システムは、導入病院同士が他院と自院の診療データや診療内容を比較・検討し、診療内容と収益の改善ポイントを発見することを可能にする。では、これにより、患者の受ける医療価値にはどのような変化が生じるのだろうか。

病院経営と医療の質向上をデータで両立

急性期病院を対象とした1日当たりの報酬額を一定に定めるDPC制度(前編参照)により、医療機関は質が高く効率的な医療の提供が求められることとなった。

DPC制度の下で収益をあげるためには、健全な経営をしている病院がどのような薬剤や医療機器を使い、どのようなプロセスで治療しているか、自院と比較検討して改善していく必要がある。こうして医師の間からも、DPCデータの活用ニーズが高まっていった。

メディカル・データ・ビジョン株式会社が設立されたのは2003年。創業の動機は「病院が持つ医療データを患者のために利活用したい」というものだったが、創業間もないベンチャー企業に対して、重要な個人情報である医療データを提供してくれる医療機関はなかなかなかった。そこで同社は「まず病院の信頼を得ることが必要」と考え、最初の数年間を医療機関との信頼関係を構築する期間と定め、病院の経営を支援するソフトを開発し、保守と点検を通じて徐々に医療機関の顧客を増やしていった。

2006年にDPC制度が本格的に動き始めると、DPCを導入する病院では医療データのフォーマットが厚生労働省の指定するものに統一された。そこで、DPC制度下では利益を得るために病院同士の診療内容を比較したいというニーズが高まると考え、診療内容と収益のベンチマーク比較が可能となるツールの開発に取り組んだ。

メディカル・データ・ビジョン株式会社 専務取締役 浅見修二氏は「DPC以前は、診療データは病院ごとにバラバラでしたが、DPCの規格に統一されたことで、経営支援システムを使って患者別・症例別・診療別・日別・性別の収益構成が容易に可視化できるようになりました」と語る。

ビッグデータ分析の一例
医療機関か提供されたビッグデータを分析すると、たとえば、ある薬を処方されている患者の性や、ある病気に処方されている薬の種類などが可視化される。

当初は「お金で医療を評価するなんて」と考えていた医師も、他の病院で成果のあった効率的な治療法などのエビデンスと、その成果である収益との関係性を提示すると、自らの考えを改めるケースが多いそうだ。

「医師は科学者です。数字で証明されることには、きちんと納得してくれます」(浅見氏)

収益分岐点となる平均入院日数がわかれば、その日までに治療を終えるように奮闘する。自院では平均5日かかる治療を、他院では3日で治療しているのであれば、いつどのタイミングでどのような検査や治療を施したのかを確認する。このように比較・改善することによって、経営の健全化につながり、ひいては医療サービスの質向上につながるのだ。

データによる経営改善が患者にもたらす価値とは

病院経営が健全になれば、経営が破綻する可能性は低下し、収益があがれば、よい人材や医療機器への投資につながる。ただ、その一方で「収益という指標で医療を見ていくと、収益性の低い治療をやらなくなるのではないか」という懸念もある。

こうした疑問に対し浅見氏は、「確かに病院は、一般企業のように『赤字だから撤退する』というわけにはいきません」と述べたうえで、「しかし実際には、そうした懸念を杞憂(きゆう)にするほど医師の倫理観は高く、そのような事態は起こりえないのです」と説明する。

メディカル・データ・ビジョン株式会社 専務取締役 浅見修二氏

メディカル・データ・ビジョン株式会社 専務取締役 浅見修二氏

実は同様の議論はDPC制度が立ち上がる前にも起こったが、いまだに「定額制だから検査や治療に手を抜く」という事例は起きていないという。それだけ医師は倫理観を持ち、自らの仕事としては患者の治療を大切に考えているのだ。

「赤字診療となっている分野があっても、ほかの部分で黒字化していれば、その収益を投資して全体の医療の質を下げないという経営判断ができます。データがなければそのような判断はできませんし、改善しようにも何をすればよいかわかりませんでした。DPCのデータがあるからこそ、健全な病院経営と医療の質が担保されるのです」(浅見氏)

患者データは患者の手に――高齢化社会への取り組み

現在、同社が着手しているのが「デジタル健康ソリューション」と銘打った総合医療ビッグデータの構築・活用のフレームワークづくりだ。

「個人のバイタルデータや医療機関のカルテデータなどを統合し、医療機関同士だけではなく医師と患者、患者とその家族間においてもデータを共有できるようにし、医師や本人が一緒になって最適な医療サービスを選択できるようにしたいと考えています」(浅見氏)

この構想は、スマートフォンやIoT機器など、テクノロジーの成熟により、現実味を帯びてきた。

現段階では、電子カルテの事業者と協業し、カルテデータの収集と規格づくりに取り組んでいるという。こうした医療機関のデータと個人のバイタルデータやカルテデータなどを統合した、新しい医療の未来は案外早くやってくるかもしれない。

プロフィール

メディカル・データ・ビジョン株式会社 専務取締役 浅見 修二氏

1979年慶應義塾大学工学部卒業。1979年日本NCR株式会社入社。その後IT系企業の代表者を歴任し、2003年にメディカル・データ・ビジョン株式会社を代表取締役岩崎博之と起業し、取締役に就任。2004年から現職。趣味はゴルフ、碁。

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