ビジネス創出

IoTが支える次世代サイクルシェア[後編]――自転車の流れを決めるのはデータと現場

記事内容の要約

  • サイクルシェアの利用促進には、駐輪施設における「自転車出入り量」のバランスが重要
  • 運用ノウハウの蓄積には「データだけに頼らない」フィールドワークがカギ
  • 2020年五輪でのインバウンド需要を想定しながら安心安全の啓発にも注力
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この記事の前編を読む

2011年の事業開始以来、独自のサイクルシェアリングシステムの開発により、全国15拠点で「サイクルシェアリング」を展開、東京5区において約200カ所の駐輪施設(以下、サイクルポート)を運用する株式会社ドコモ・バイクシェア。後編では、同社のサイクルシェアリング事業の運用を通じて蓄積されたデータや得られた知見、データ活用の可能性を含めた今後のビジネスの展望について話を聞いた。

マーケティングで重要な自転車出入り量のバランス

「サイクルシェアリング事業には3つの課題がある」と話すのは、株式会社ドコモ・バイクシェア 代表取締役社長の坪谷寿一氏だ。まず、サイクルポートの設置場所が確保できるかどうかという場所の課題、次に道路の使用をはじめとする法規制の課題、そして、使われるかどうかというマーケティング上の課題の3つだ。

このうち、「場所」と「法規制」の課題については、自治体との共同事業という形で解決を図っている。「都市のなかでサイクルシェアリング事業を推進していくためには、都市設計の段階で自転車の活用を考える視点が不可欠です。だからこそ、自治体の協力なくしてサイクルシェアリングの事業化は難しいのです」と坪谷氏は語る。

サイクルポートの検索サービス
サイクルポートの検索サービスをあらわす図

サイクルポートの場所は、コミュニティーサイクルのウェブサイト(*1)で探すことができる。

サイクルポートの設置については、自治体の公有地のほかに、民有地を開発する場合があるが、場所の選定には、「人が集まりそうな場所かどうか」という視点を持つと同時に、土地や道路の使用に関する法規制を勘案しながら、サイクルポートの利用率向上につなげることも考えなくてはならない。これは、3つ目の「マーケティング上の課題」にも関わってくる。サイクルポートの利用率を上げるには、サイクルポートに入ってくる自転車と出ていく自転車の数のバランスを取らなくてはならない。

たとえば、出ていく自転車の数に対して入ってくる数のほうが多いと、サイクルポートに自転車を返却できなくなり、利用者の不満につながってしまう。この場合は、サイクルポートから出ていく数を増やすこと、つまり貸し出しの創出が求められる。具体的な施策として、周辺の店舗にクーポンを発行して貸し出しを促進するなど、日々運用のための知見を蓄積しているという。

「このビジネスを成功させるためには、常に変化し続けるトラフィックデータを見定めながら、サイクルポートから乗り出すべき人は誰なのかを考えることが必要です」(坪谷氏)

データが示す真の意味は「現場」から見出す

では、坪谷氏が語る「トラフィックデータを見定める」とは具体的にはどういうものか。たとえば、2016年12月現在、全国9エリアの市町村で約3,175台の自転車を保有し、サイクルポートは346カ所、15万人以上の会員に利用されている。

サイクルシェアリング事業の運営状況
ドコモバイクシェアのサイクルシェアリング事業は、全国9エリアの市町村で約3,175台の自転車を保有し、サイクルポートは346カ所、15万人以上の会員に利用されている

会員の内訳は、基本料0円で利用時間に応じて課金される「1回会員」と、基本料として月額2,000円を支払って最初の30分は使い放題となる「月額会員」の2つに分かれる。利用回数では「月額会員が明らかに多く、サービスのリピーターになっていると思われる」と坪谷氏は述べる。

一方で、全員が月額会員になってしまうと、物理的に特定のサイクルポートに自転車の返却が集中してしまう問題に直面する。前述した「サイクルポートへの出入りのバランス」をどのように保ち、自転車の流れをマネジメントして、しかるべきサイクルポートに分散させていくというのは、実はデータだけに頼ることができない領域だ。

「やはり、実際に現場に足を運び、どういう人が、どんなふうに利用しているかを確かめることが不可欠」と坪谷氏は述べる。そうしたフィールドワークの蓄積によって、サイクルポートの開発や貸し出し創出のための施策を仮説立てすることできるというわけだ。

仮説とデータの対比から生まれるノウハウ

サイクルポートをどこに設置するか考えることは、さながらコンビニエンスストアの出店計画のような、エリアマーケティングの領域だという。現時点では、コンビニほどの詳細なエリアマーケティングを展開できているわけではない。外部のデータ活用についても、地図のPOI(Point Of Interest)データくらいで、外部データを購入してマッチングすることまではしていないという。それでも、利用者の移動データには、観光客の回遊性向上や来訪地域拡大、滞在時間延長、地域での消費額増といった地域活性化に役立つ可能性が秘められている。

サイクルポート設置計画の担当者も、特定のサイクルポートが利用されている理由は何か、そこで何が起きており周りに何があるのか、そして利用者の移動データから見えるものはなんなのか、現場にも足を運びながらデータ分析スキルを磨いているという。ただし、ここで坪谷氏は「データというものは使い方しだいで変わります。マッチングや重回帰分析などいろいろ手法はありますが、データありきで何か見いだせるはずだという発想ではうまくいきません。仮説を持ったうえで取り組まなければだめですね」と釘を刺す。

坪谷氏が重視しているデータの活用方法は、「違い」の発見だ。たとえば、人がどこに行ったかという結果はもちろん意味のあるデータだが、それだけでは「そこにおいしいパン屋があったから」で終わってしまう。もう一歩踏み込んで、別の場所にパン屋を出店してみたらどういう違いや変化が生まれるのか、そういう観点でデータを見ることが大切だという。データが示すのは結果でしかなく、それをノウハウとして意味あるものにするには、常に仮説との対比で捉えなければならないというわけだ。


ドコモ・バイクシェア 代表取締役社長 坪谷寿一氏

2020年東京五輪での利用を見据えた安全啓発

手軽な移動手段というサイクルシェアリングの性質上、2020年に開催される東京五輪での利用も見据えている。しかし、歴史的規模のイベントを実地検証することは難しい。シミュレーションための十分なデータもまだ集められていない。坪谷氏も「正直なところ、まだ具体的な施策は打てていない」という。それでも、ロンドン五輪でサイクルシェアリングが活用されたことなどを参考に、準備していく構えだ。

「外国人旅行客にどう使ってもらうかというビジネス面も大切ですが、それ以上に重要なことは安全性をしっかり確保することです。自転車の運転感覚や安全意識は、国によって大きく異なります。社会インフラを提供する側として、安心安全の啓発にもしっかり取り組んでいきたいですね」と坪谷氏は展望を語った。

注釈:
(*1)コミュニティーサイクルのウェブサイト(外部サイト)

プロフィール

株式会社ドコモ・バイクシェア 代表取締役社長 坪谷 寿一氏

1992年日本電信電話株式会社に入社。同年7月、分社化した株式会社NTTドコモ一期生。国際ビジネス部担当部長、経営企画部担当部長を経て、ライフサポートビジネス推進部担当部長。2015年2月、設立された株式会社ドコモ・バイクシェアの初代代表取締役社長に就任。

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