ビジネス創出

IoTが支える次世代サイクルシェア[前編]――ドコモが提案する社会インフラ

記事内容の要約

  • 通信という社会インフラを担うNTTドコモとして、エコ、地域活性化、健康促進といった社会課題の解決を目的に、サイクルシェアリング事業を着想
  • ITを活用した独自システムの開発により、従来にはない管理方法や柔軟な駐輪拠点の設置を実現
  • 得られた走行データを顧客動向の把握といったマーケティングに活用することを想定
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温室効果ガスの低減問題や都市部の渋滞問題などを背景に、自転車を共同利用できる新たな交通サービス「サイクルシェアリング」に注目が集まっている。なかでも、東京5区(千代田区、中央区、港区、江東区、新宿区)を含む、全国9エリアでサイクルシェアリング事業を展開するのが、NTTドコモの子会社である株式会社ドコモ・バイクシェアだ。なぜ、通信事業者のイメージが強いNTTドコモがサイクルシェアリングに取り組むのか。実証実験や実運用を通じて得られたデータ、知見とはなにか。その取り組みに迫った。

「社会課題の解決」を目的に、NTTドコモ社内の新規事業からスタート

一定のエリア内のコミュニティーにおいて、レンタル自転車を分散配置し、「乗り捨て(ワンウェイ)型」を基本として運用されるサイクルシェアリング事業は、全国の自治体に広がっている。同事業に取り組む都市は、導入予定や社会実験実施済みの都市をあわせると93都市にものぼる。

サイクルシェアリングの先進国であるヨーロッパをはじめとする諸外国では、自転車の貸し借りの拠点(サイクルポート)が、道路を中心に網羅的・連続的に設置されている。「ヨーロッパでは都市計画のなかに、サイクルシェアの考え方が戦略的に組み込まれてきた」と語るのは、ドコモ・バイクシェア 代表取締役社長の坪谷寿一氏だ。


ドコモ・バイクシェア 代表取締役社長 坪谷寿一氏

ヨーロッパはサイクルシェアリング事業が盛んで、サイクルシェアリングで運用される自転車のエリア密度は、1平方キロメートルあたり約200台といわれるほどだ。たとえばフランスのパリでは、都市部の交通渋滞によりバスが定時運行されず、それがさらなる渋滞を招いているという課題に対し、バスレーンを自転車レーンに転用し、さらにバス停にサイクルポートを設置する取り組みによって渋滞解消を図っている。

翻って日本では、2000年代以降、慢性的な渋滞の解消や環境負荷の少ない交通手段に対する社会的要請が高まってきた。そして国土交通省や各自治体などによって、既存の駐輪場機材を活用する形でサイクルシェアリングの導入が検討されはじめた。

NTTドコモがサイクルシェアリング事業に取り組んだ経緯について、坪谷氏は、同社の「新規事業創出の取り組みが出発点」と振り返る。

NTTドコモといえば携帯通信事業者のイメージが強く、サイクルシェアリングからは遠い存在に思える。しかし、坪谷氏は「NTTドコモには、通信という社会インフラやライフラインの担い手としての責任があります。その観点から見れば、温室効果ガス排出抑制や渋滞緩和の問題など、社会課題の解決に取り組むことは自然なことなのです。サイクルシェアリング事業の根底にも同じ思いがありますね」と語る。

独自のサイクルシェアリングシステムを開発

同社は、2008年よりサイクルシェアリング事業に取り組み、2013年には独自のサイクルシェアリングシステムを開発した。通常、このようなシステムは、駐輪場スペースに専用機器を設置し、貸し借りの管理を有人で行うことが多い。これに対して同社のシステムは、自転車本体に通信やGPS、遠隔制御の機能を搭載することで、貸し出し管理のクラウド化を実現した。これにより、駐輪施設は従来と比べて簡易化され、初期導入コストは大幅に削減できる。

また、ITの活用による管理のしやすさや利便性の高さも特長だ。利用者は会員情報サイトから会員登録、空き状況の確認や予約を行い、貸出・返却などの手続きも携帯電話・スマートフォンからできる。

サイクルシェアリングシステムの自転車
サイクルシェアリングシステムの自転車

サドルの後部に、施錠機構と一体化した操作パネルや通信機能を備えている。

さらに、駐輪施設であるサイクルポートの設置が簡単にできるという特徴は、イベントや災害時などに自転車が必要となる場合にも生かされる。地方においては、市街地の移動手段としてだけでなく、渋滞が起きやすい観光地における繁忙期の移動手段として、このシステムを転用する取り組みがなされている。

ビッグデータの蓄積と解析により顧客動向を把握

坪谷氏は、サイクルシェアリング事業の運用を通じて、「都市部では、自転車を短いサイクルで利用して返却するという傾向がある」という気づきを得た。つまり、都市部ユーザーのニーズに応えるには、自転車が分散配置され、緊密な貸出場所が確保され、限られた台数を大人数でシェアできる必要があるのだ。

しかし、NTTドコモのこれまでの経験に基づくと、国内のサイクルシェアリングで運用される自転車のエリア密度は、多くの場合、サービス開始当初では1平方キロメートルあたり約30台。上述したヨーロッパの約200台と比べると、短いサイクルでの利用を可能にできるほどの台数が確保されているとはいえない。

坪谷氏は、この問題を解決するためには土地の確保という観点からも、自治体との共同事業であることが不可欠だと語る。坪谷氏自身、各エリアでの運用を続けるなかで、どの程度の間隔で、どこにサイクルポートを設置していくべきかというノウハウを模索しているという。

一方、運用を通じて得られたデータで興味深いのは「中速の走行データ」だ。これは車より遅く、歩行より速い走行データのことで、「従来の流量調査では情報があまり蓄積されておらず、本格的な分析や活用がなされてこなかった未知の分野なのです」と坪谷氏は語る。

こうした中速の走行データには、自転車の盗難防止という用途だけでなく、GPSによる位置情報などと組み合わせたビッグデータを解析することで、顧客動向のリアルタイムな把握や、さらに将来的にはマーケティングデータにも活用を可能にするという展望がある。

走行・移動データの活用
走行・移動データの活用の図

走行データをリアルタイムで収集・蓄積し、歩行環境とは異なる傾向として、利用者の移動分析やマーケティングに応用できる。

現在はまだ活用に足りるだけのデータ量を収集している段階だが、坪谷氏によると、東京都内における同社のサイクルシェアリングの利用回数は、2015年度は66万回と対前年比で倍増しているという。区をまたいだ相互乗り入れにより、自転車の台数は約2,000台、サイクルポートは約200カ所を確保できている。それでも、「都内で2,000台といっても、携帯電話の数千万台規模のレベルと比べたらはるかに小さい」(坪谷氏)とし、データの蓄積を続けながら、どのように活用し、マネタイズへつなげていくか思案しているという。

後編 では、蓄積されたデータにはどんなものがあるか、さらに実運用を通じてどんな知見が蓄積されているのかを詳しく紹介する。

この記事の後編を読む

プロフィール

株式会社ドコモ・バイクシェア 代表取締役社長 坪谷 寿一氏

1992年日本電信電話株式会社に入社。同年7月、分社化した株式会社NTTドコモ一期生。国際ビジネス部担当部長、経営企画部担当部長を経て、ライフサポートビジネス推進部担当部長。2015年2月、設立された株式会社ドコモ・バイクシェアの初代代表取締役社長に就任。

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