マーケティング事例

横浜DeNAベイスターズはどうファンを増やしたか[後編]――データの使いかた

記事内容の要約

  • 顧客ごとに、グッズやチケットの購入数を把握し、効率的なマーケティングに反映
  • 驚異的な成果を残しているのは、横浜という土地が持つ潜在的なポテンシャルと顧客のニーズをデータ分析でつなげた点が大きな要因
  • 今後の主な舞台は、スタジアムの来場者数からECなどでのグッズ販売へ展開
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この記事の前編を読む

2016年のシーズンに、球団史上最高の観客動員数と球場座席稼働率93%を達成した横浜DeNAベイスターズ。その背景には、データ分析の結果としてもたらされた、的確なターゲットの絞り込みがあった。順調に集客数を伸ばしてきたベイスターズは、さらなる成長のために、次にどのような手を打とうとしているのか。横浜DeNAベイスターズのデータ活用について、今までの施策とこれからの取り組みを追う。

当たり前のことを教科書どおりに

データを参考に物事を決めていく──。

このデータドリブンな考え方は、横浜DeNAベイスターズが主催試合の観客動員を急伸させた大きな要因だ。実際、前編でも触れたとおり、同社がメインターゲットを30代中心のアクティブなサラリーマンに絞り込んだ背景にも、顧客データの分析があった。

そうした顧客データを収集するために、同社は2012年に直営チケットサイトを立ち上げたが、このサイトは現在、グッズ販売のECサイトとつながり、顧客IDの統合が実現されている。

「これにより、どういった顧客がどれだけのグッズやチケットを購入しているかという購入実績が見えるようになりました。その結果、こういったお客さまを1人獲得するためにいくらくらいまでならコストをかけられるかということもわかってきた。このようにデータの精度があがったことで、データをもとにプロモーション予算の配分を判断できるようになっています」と、横浜DeNAベイスターズ 経営・IT戦略部 部長の木村洋太氏は話す。


株式会社横浜DeNAベイスターズ 経営・IT戦略部 部長 木村洋太氏

もっとも、こうしたデータ収集・活用の取り組みは、普通の会社なら“やっていて当たり前”のことと木村氏は指摘し、次のように付け加える。

「顧客理解のためにデータを集め、分析し、それに基づいてマーケティング施策を決めていくというのは、これまでのプロ野球球団の中ではめずらしい取り組みかもしれませんが、一般の企業にとっては当然の施策です。つまりわれわれは、当たり前のことを教科書どおりに進めることで、成果をあげてきました」

では、当たり前のことをしただけで、なぜ観客動員数が驚異的な伸びを示したのか──。この問いに木村氏はこう答える。

「横浜という土地の持つポテンシャルの高さが、まず前提にあります。横浜の街自体にブランド力があり、しかも横浜スタジアムの立地のよさは国内屈指です。そして横浜市には約370万人、神奈川県には約915万人もの人が住んでいて、地元の球団はベイスターズただ1つ。そう考えると好条件に恵まれているのは確かです。ただ、漫然と待っていれば観客が来てくれるかといえば、そんなはずはありません。横浜の持つポテンシャルと、ターゲットを的確に絞り込み、そこに向けた効果的な施策を打ち、PDCAサイクルをしっかりと回していくというわれわれのマーケティング施策がうまくかみ合ったというのが、大きな要因だと思っています」

データドリブンなアプローチでチームも強化

データに基づいて物事を決めていくというスタイルは、マーケティングだけでなく、横浜DeNAベイスターズのチームにも浸透しつつある。

たとえば、スカウティングの現場ではレポートデータの共有化が進んでおり、このデータは入団後の選手の育成・起用法にも活用されている。また、一軍と二軍との間の申し送りもデータ化され、コーチ/編成スタッフがすべて同じデータを参照しながら物事の判断が下せる環境が築かれている。

また、試合の動画は1球ごとにクリッピングされ、選手たちは手持ちのタブレットなどを通じて、前回対戦時の内容を確認することができる。さらに、2016年には、対戦投手の対策を練るためのしくみとして、球筋(ボールの軌道)やボールの回転軸をトラッキング/分析するシステムも導入された。

「このように、チーム内でもデータに基づいて分析ができるようなシステムが構築されています」(木村氏)。

課題はグッズ販売のさらなる向上

チームの強化には上限はないが、球場のキャパシティーには限界がある。その意味で、横浜DeNAベイスターズはすでに球場のキャパシティーの上限に近いところまで観客動員を伸ばしている。そこで気になるのが同社のマーケティング施策の今後だ。この点について、木村氏はこう話す。

「球場シート稼働率が93%に達している以上、いくら集客施策を強化しても来場者収入の大幅増は見込めません。ですから今後は、グッズ販売の推進、さらには、球場に来なくともECサイトでグッズを買う層を広げていくなど、お客さまに楽しんでいただける商品を開発・提供していくことに注力したいと考えています」

また木村氏は、観客動員数のキープに向けた分析を今後も進めていきたいとの意向も示す。

「現状では、球場に人を誘う側、つまりアクティブサラリーマンのデータはかなり蓄積されましたが、彼らに誘われて球場に来る方のデータはほとんどわかっていません。市場でのアンケートなどを通じて、そういった方々の特性もある程度はつかめていますが、さらなる分析は進めていかなければなりません」(木村氏)。

この課題を解決するツールとして木村氏が期待を寄せるのが2015年に公開したスマートフォン向けのチケットアプリ(*1)だ。先日スタートしたプロバスケットのB.LEAGUEでも、同様の取り組み(*2)が進められているが、このアプリには、チケット購入者が同行者にLINEでチケットを送る機能があり、同行者がチケットをダウンロードする際には最低限の個人属性の入力が求められる。

「BAYSTARSアプリ」の画面

「チケットアプリのさらなる浸透を図ることで、誘われる側のお客さまがどのような人なのか、わかるはずです。また今後は、スマートフォンを通じて、初めて球場に訪れた人に楽しんでいただけるような演出やサービスを提供できればとも考えています」(木村氏)。

横浜DeNAベイスターズのデータ&デジタル戦略は、新たなフェーズに進みつつあるようだ。どのような方法で顧客満足度を高めていくのか、 ベイスターズのファンならずとも目がはなせない。

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