マーケティング事例

図書館検索カーリルから見える図書館の実態[後編]――検索の先にあるデータの活用

記事内容の要約

  • 図書館司書向けの横断検索API「カーリル Unitrad API」を公開し、京都府立図書館が採用
  • 全国の図書館蔵書を一括で把握することで、希少な蔵書の発見や除籍・破棄の計画に活用
  • 現在の図書館の役割である「紙資料の検索」の負担を軽くすることで、資料をデジタル化していく図書館を後押し
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全国6,800以上の図書館・図書室にある本の所蔵情報と貸し出し状況を、誰でも簡単に検索できる、図書館検索サイト「カーリル」。岐阜県中津川市にある従業員5名の会社が、いまや図書館とユーザーをつなぐ欠かせない存在になりつつある。後編では、検索サービスの先にある、データの利活用や今後の展開について掘り下げていく。

「使えない横断検索システムの駆逐」から生まれた「カーリル Unitrad API」

株式会社カーリルは2016年4月、高速横断検索API「カーリル Unitrad API」(*1)をリリースした。これは図書館システム向けに提供するAPIで、主に図書館司書の検索業務改善をめざしたものだ。カーリルにとって、図書館検索サイトとともに大きな柱となる可能性を秘めた製品であると代表取締役・エンジニアの吉本 龍司氏は語る。

「各図書館のシステム性能は、ここ数年で大幅に改善され、一般ユーザーの利便性は確実に向上しています。ところが、都道府県立図書館による横断検索システムは処理の遅さがボトルネックとなり、図書館司書の業務効率はまったく向上していませんでした」(吉本氏)

こうして図書館司書側の課題解決をめざし、一から開発されたカーリル Unitrad APIは、すでに京都府立図書館の「京都府図書館総合目録」へ採用されている(*2)。これまでカーリルがサービスを一般ユーザー向けに提供するなかで見えてきた図書館側の考え方やワークフローを、APIの設計やユーザーインターフェースに落とし込むことで、システム処理速度の改善だけでなく、図書館司書にとっての圧倒的な使いやすさを実現できたと吉本氏は自負する。

京都府図書館総合目録は、京都府内にある約60館の図書館が所蔵する資料を一括検索できるシステムで、「分散型総合目録」と「集中型総合目録」というものを併用して総合目録を構築している。

分散型総合目録は、各図書館のWeb-OPAC(*3)と直接連携して取得されており、ほぼリアルタイムに貸し出し状況などが横断検索できるようになっている。集中型総合目録は、直接連携できない各図書館から個別に所蔵情報等のデータ提供を受けて集中型データベースに集めたもので、分散型総合目録に比べると情報の鮮度は落ちるものの、より多くの図書館をカバーできる。また検索結果表示の速度を高めるため、検索結果をキャッシュしておくなど、システム自体にもさまざまな工夫がなされている。

京都府図書館総合目録
京都府立図書館総合目録のウェブサイト

検索の先にあるデータの利活用

カーリル Unitrad APIによって、高速な横断検索が可能になったことで、検索の先にあるデータの利活用がスムーズにできるようになった。

たとえば、東京都の多摩地区で活動しているNPO法人共同保存図書館・多摩は、株式会社カーリルとの共同研究で、多摩地区の公共図書館30館を対象に、「その地域全体の図書館での所蔵冊数が残り2冊以下の本」を把握する蔵書確認システム「TAMALAS」(*4)を開発した。

公共図書館の悩みの1つに、本棚不足がある。多摩地区の公共図書館では、新刊を入れる場所を確保するため、年間で約50万冊が除籍・破棄されているのだという。ところが、除籍すべき本かどうかを判断するために東京都立図書館の横断検索を利用すると、1冊あたり30秒ほどかかる。仮に500冊調べようと思うと、調査完了まで4時間以上かかってしまうことになる。

「TAMALASではバーコードリーダーを使って本のISBNを短時間に連続で読み取り、1冊あたり1秒から10秒程度ですばやく簡単に地域の所蔵が確認できます。ISBNの一覧データを流し込めば、500冊あっても3分程度で調査が終わります。これは図書館司書の業務効率が改善できるほか、その地域に保管されている最後の1冊、2冊の本が把握できることは、“ニーズが少ない本でも所蔵すべき”という図書館の公共の役割を担保することにもつながるのです」(吉本氏)

所蔵自治体数別のタイトル数
多摩地区では11自治体前後に所蔵されているタイトルの冊数がもっとも多いことを示す図

多摩地区では11自治体前後に所蔵されているタイトルの冊数がもっとも多いことがわかる。

こういった図書館の所蔵データを、出版社でマーケティングに利用する試みも開始されている。児童書出版の偕成社は、株式会社カーリルの協力で、現在販売している本を図書館がどれだけ購入しているかの調査を行った。その結果、全国の図書館合計で2万冊も所蔵しているタイトルもあると同時に、どんなタイトルでも最低400冊程度は購入されていることがわかったという。図書館がベストセラーばかりを買っているわけではなく、ロングテール的に満遍なくラインアップしていることが、実際のデータから把握できたわけだ。

図書館の紙に対する思いを軽くしたい

いまの図書館は、「まだ紙の本の所蔵や検索、貸し出しを前提としたルールやシステムで運営されている」と吉本氏はいう。今後、デジタルネイティブな資料が増えていくのは確実なのだが、図書館はまだそこに興味が向いていないのが現状だ。

「私たちが、カーリルをはじめとするサービスによって紙の本を検索する仕組みをいま以上に整えることで、図書館の紙に対する思いを軽くして、「デジタル資料」時代の図書館のあり方を考える後押しになれればいいですね」と吉本氏は語る。


株式会社カーリル 代表取締役・エンジニア 吉本龍司氏

かつては図書館から「いつまで持つことやら」と、カーリルの事業継続性について疑問を投げかけられることもあったそうだ。それに対して吉本氏は、「たとえばカーリルの図書館APIは、リリースから一度も仕様を変えずに提供し続けています。それは、われわれの責任感からです。IT企業は流行や最先端にとびつくイメージを持たれがちですが、私たちがやろうとしているのはその真逆で、長期的に事業やサービスを継続することを念頭に置いています。図書館は100年以上続いていくのですからそれは当然で、その覚悟はあります」と、カーリルが図書館を支える存在であり続けることを強調する。ただ、本当に理想とするのはカーリルがなくてもいい世界だ。

「これから電子書籍などのデジタル資料は、管理や貸し出し方法など運用をどうしていくかが重要になりますが、いまは『どのプラットフォームがよいのか』という議論に焦点が当たっています。でも、紙の本にはそんな概念なかったですし、プラットフォームごとに流通する本が違ってくることはおかしいです。カーリルは、プラットフォームというものがない世界を理想と考えていて、だからAPIもオープンにしていますし、カーリルのクローンだって自由に作ることができます。もっといえば、カーリルがなくてもいい未来を図書館に作っていってほしいです」と吉本氏は熱く語った。

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