マーケティング戦略

家計データから「旬の食材」がわかる! Zaimのビジュアル・マーケティング戦略

記事内容の要約

Zaim社が2016年にリリースした「おいしい旬の地図」は、レシートの購買データをもとに日本各地の「旬の食材」を分析・可視化するサービス。特定の地域・期間の購買データを活用して「旬の食材」を独自に定義し、その結果を地図上にイラストで図示することで、生活者が見て楽しんで使えるデータ活用サービスを実現。これにより、Zaimの新規ユーザー数やアクティブ率が上昇した。

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600万人以上が利用する日本最大級の家計簿アプリ「Zaim」。スマートフォンのカメラでレシートを撮影するだけで、自動的に購入品目や金額が入力できる手軽さが人気だ。そんなアプリを運営する株式会社Zaim(以下、Zaim社)は、一般ユーザーによって登録された膨大なレシートデータを統計解析することで、日本各地で食べられている“旬の食材”を可視化したサービス、「おいしい旬の地図」を2016年4月にリリース。これはカンヌライオンズ2016のショートリストにノミネートしたほか、ACC CMフェスティバルでもインタラクティブ部門 ニューテクノロジー賞を受けた。

ビッグデータを活用したサービスとしては数少ない、一般コンシューマー向けの「おいしい旬の地図」が目指したものとは? データビジュアライズの先にあるデータ活用の真価について、株式会社Zaim 代表取締役 閑歳 孝子氏に話を聞いた。

消えゆく“旬”の概念を思い起こすきっかけに

「おいしい旬の地図」の企画が生まれたのは、2015年の終わりのことだった。家計簿アプリ「Zaim」(*1)の既存ユーザーに向け、よりアクティブに使ってもらえるように、新たにユニークなサービスを提供したいと考えたのがきっかけだ。そして新しい取り組みに向け、社内で議論を重ねるなかで出てきたのが、“家計と健康”というテーマだった。

Zaim社は、ユーザーのさまざまな購買活動データを大量に持っている。そのなかでも「ユーザーはどのような食材を、いつ購入したのか」に注目することで、旬の食材や健康につながる傾向がつかめるのではないかと考えた。「旬のものを食べることはおいしいだけでなく、健康にもつながり、家計にも優しいはず」と、データで“旬”を捉える意義に気がついた。

「スーパーマーケットで買い物をするのが当たり前になった今、旬という概念が次第に薄れてきていると思うんです。しかし、日常的に使うアプリから『今はこれが旬の食材らしい』と発見できれば、ユーザーの行動に変化を促せるのではないかと考えたのです」(閑歳氏)

Zaim社は家計簿サービスを提供しているが、“節約しよう”とか“貯蓄しよう”といったメッセージは発信しない。むしろ“楽しく、賢く、消費しよう”という思想を持っている。旬を楽しむという「おいしい旬の地図」は、まさにZaimのフィロソフィーを体現したコンテンツとなっているのだ。

データで旬を捉えるということ

ところで、ユーザーがZaimに登録したスーパーやコンビニのレシートデータから、どのように“旬”の食材を判断するのだろうか。

旬とは、もともと「ある特定の食材において、収穫量が増えて、ほかの時期よりも新鮮でおいしく食べられる時期」を指す。旬の食材であれば、市場に出回る量はおのずと増えるため価格は安くなり、購買する人も増える。すると、必然的にその食材の総購買数も大きくなると考えられる。同社はまず、レシートをもとにユーザーの購買データを分析し、総購買数が増えた食材を“旬”の食材と捉えることにした。

しかし、単に総購買数が多いというだけでは事足りないことに気づく。というのも、定番の食材は常に購買されおり、まとめ買いされがちな食材もあるからだ。加えて地域によって消費傾向も異なる。そのため、一定期間を設定し、その期間に急激に伸びている食材が何なのかを地域別につかむ必要に迫られた。

そこで、あらかじめ全国各地の旬の食材を調査して、200以上の食材をピックアップしておき、購入量や金額にかかわらず、一度の購入を1カウントとして、「地域データ×購買データ」の掛け合わせで統計的に算出するしくみをつくり上げた。手間はかかったが、これにより、“旬”の食材をより正確に把握できるようになった。

もちろん、総購買数が増えた食材が、すべて一般的な“旬”に当てはまるとは限らない。たとえばテレビで特集された食材の売り上げが伸びるのはよくある話だ。そういう意味でいえば、Zaim社の掲げる“旬”は、ユーザーが求めているもの、つまり「トレンド」の要素も含んでいるともいえるだろう。

また、レシートの購買データを正確に分析するには事前の処理が必要だ。ふだん意識しないことだが、複数のレシートを見比べてみると、おなじような商品でも店舗によって表記の方法が大きく異なることがわかる。

「生鮮食品のデータは表記揺れが多く、十分なクレンジングがされていません。そのためいろんなルール決めをしたり機械学習を使ったりしながら、細かくチューニングをするようにしました。『“トマト”と“プチトマト”が混ざらないように』とか『全国に流通している果物はブランド別に表示されるように』など、正確な項目の集計をしています」と、閑歳氏は説明する。

データを誰でも触れる形へ

「おいしい旬の地図」の制作にあたり、閑歳氏がもっとも苦心したと話すのが、「地域ごとの旬の食材」の伝え方であり、「多くのユーザーに使ってもらえる面白いサービスするには、どのように表現すれば良いか」という点だった。Zaimのユーザーは一般の主婦も多く、使ってもらうためにはITリテラシーがさほど高くない人でも直感的にわかりやすいインターフェースにする必要があったからである。

そこで、購入された数量が急増した度合いに応じて、日本地図上に並ぶ食材のアイコンサイズを変化させることで、“どこで何が旬なのか”が一目でわかるようにするとともに、スマートフォンの画面をピンチイン/アウトすることで、より細かい地域にフォーカスして見られる工夫を施した。さらに、旬の情報と自分の購買データを照らし合わせ、自分の旬の満喫度を測ってシェアできる診断要素も付加している。こうすることで「もう少し旬の食材を買ってみようかな」とユーザーも気づきを得やすい。

そのほかにも、“さがほのか”という佐賀ブランドのイチゴは、佐賀だけではなく宮崎・鹿児島・兵庫でも多く消費されている事実がみえるなど、「意外な発見があっておもしろい」と、ユーザーからの評価も上々だ。

「ビッグデータやデータの可視化というと、専門家向けの分析画面のようになりがちで、一般の人にはなじみにくくなることが多いですよね。誰もが説明なしに見て楽しめるようにすることが必要じゃないかと考えたんです。ユーザーエクスペリエンスの部分は、デザイナーの意見やテストユーザーの方の声を取り入れながら、何度もやり直してつくり上げました」(閑歳氏)

「おいしい旬の地図」で生まれた効果と今後の展望

当初はZaimの既存ユーザー向けに、楽しんで使ってもらえる新しいサービスとして作られた「おいしい旬の地図」だったが、結果的にはZaimユーザーの獲得・拡大につながった。新規のZaimユーザー数が159%に増加し、アクティブ率も183%に上昇するという数値的な効果が得られたという。

毎日更新される「おいしい旬の地図」を見ていると、九州ブランドの食材が東京で消費されていたり、広島ブランドの食材が神戸で消費されていたりするなど、地産地消が意外と少ないケースや、特定の魚が日本列島を北上していく様など、普段は意識していなかった食品の流通経路が見えてきた。

こうした発見は、Zaim社が「地域情報」と「購買情報」の両方をあわせ持っているからこそできたことだ。

リリースから1年以上がたったので、近いうちに『おいしい旬の地図』から得た統計結果を公表したいと考えている、と話す閑歳氏。将来的には、こうした統計データを用いて、小売店をはじめとするクライアントに役立つデータやアドバイスを提供することも視野に入れているそうだ。

今後は『おいしい旬の地図』で得た知見・データが新たなビジネスチャンスを生み出すだろう。

「今後はスーパーマーケットに行った時に『今これが旬みたいだから買ってみよう』と想起してもらうなど、より日常生活に寄せた展開をしていきたいですね。メニューが代わり映えしないと悩む人に、食卓を旬の食材で彩る後押しができたらと思っています」(閑歳氏)

注釈:
(*1)家計簿アプリ「Zaim」(外部サイト)

プロフィール

株式会社Zaim 代表取締役 閑歳孝子

日経BPにて記者、Web系ベンチャーにてディレクターやエンジニアなどの職を経て、在職中に一人で開発したオンライン家計簿サービス『Zaim』をリリース。2012年9月に株式会社Zaimを設立、代表取締役社長に就任する。公益財団法人日本デザイン振興会主催グッドデザイン賞審査委員。

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