マーケティング戦略

女子スポーツの挑戦[前編]――2025年15兆円のスポーツ市場を目指して

記事内容の要約

  • 2025年の日本経済成長戦略の柱として掲げられたスポーツ市場
  • 日米のスポーツ政策の違いはビジネスの視点
  • スポーツマーケティングの鍵を握るのはスマートフォン
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サッカーやアメリカンフットボールなど世界のスポーツ市場は、選手や観客、スポンサー、地域などさまざまなステークホルダーを巻き込みながら、巨額のマネーが動く一大産業として発展を遂げてきた。そして日本でも、2020年の東京オリンピックに向けて盛り上がりつつあるスポーツ市場への期待が高まっている。

ユーザー体験を重視する、昨今のマーケティングの潮流を肌で感じている人々にとって、ファンを核にスポーツ文化や産業を生み出してきた世界のスポーツマーケティングから学ぶべきことは多いはずだ。国内外のスポーツビジネスをリサーチし、現在は一般社団法人日本女子プロ野球機構 事業戦略担当理事を務める石井宏司氏に話を聞いた。

スポーツの持つ“熱”で地域経済をまわす

安倍政権の成長戦略の中核として位置づけられているのがスポーツ市場だ。スポーツ産業の活性化を目的として経済産業省とスポーツ庁が共同で開催するスポーツ未来開拓会議の中間報告では、2012年の5.5兆円から2025年には15.2兆円と、現状の約3倍の市場規模を目指すことが記されている(*1)。この会議にスポーツビジネスの有識者として参加し、中間報告書の作成に貢献したのが石井氏だ。

石井氏が、スポーツの世界に入ったのは2010年のことだ。インターネット黎明(れいめい)期に東京大学大学院で教育分野におけるインターネット導入の実証実験に携わった後、リクルートに入社し、ITを活用した新規事業の立ち上げに参画する。その後、企業経営支援のより中枢に関わりたいとの思いから野村総合研究所に移った。経営コンサルタントとして企業のサポートをはじめたが、そのころはちょうどリーマンショック後で消費が冷え込んでいた時期だったという。

経営コンサルタントのミッションは、端的にいえば企業の売り上げや利益を向上させることにある。だが当時は世界的な不況下にあり、思うようにモノやサービスが売れない時代だった。そして、どうすれば売れるのか悩んでいた時に目に飛び込んできたのが、最寄り駅のスタジアムで開催されていたプロ野球ゲームと音楽フェスに興じるファンの姿だった。「ロッテファンの熱狂的な応援や、音楽フェスに若者が押し寄せる様を目の当たりにして、売るためには消費者を“熱く”する必要がある、と思いました」と石井氏は語る。


一般社団法人日本女子プロ野球機構 事業戦略担当理事 石井宏司氏

スポーツや音楽によって地域経済が盛り上がる経済モデルの確立が、今後のトレンドになると直感した石井氏は、自分の好きなスポーツという領域で地域経済の活性化につながる仕事をするため、スポーツの勉強を開始した。

日米比較で見えたスポーツビジネスとスポーツ習慣の格差

日本のスポーツビジネスで活躍している人物は、欧米をルーツに学んでいるケースが多いと知った石井氏は、自費で2年をかけて、米国のビジネスカンファレンスに何度も参加した。

その中で学んだのは、日本と欧米のスポーツマーケティングは「何もかも違う」ということだった。

米国の場合、「プロスポーツを使って戦略的に街を再開発する」という思考が当たり前に根付いている。何もない土地に巨大なアメフトのスタジアム建設の話がもちあがると、その周りに高級住宅街を整備する話が同時にあがり、何もなかった土地にリッチな住民が移住してくる流れが生まれる。それによって街の税収がどんどん上がり、ショッピングモールができて新たな経済圏が発展していくという、スポーツを機軸としたビジネス構造がある。

一方日本では、都市開発の中心にいるのはあくまでもデベロッパーで、スポーツを中心に据えるという発想はない。石井氏はその理由を、「もともと国民体育大会(国体)が文部科学省管轄下で教育の一環として行われており、競技場も地域経済的なメリットとは切り離されたところで建設されてきた歴史があります。その結果、稼働率が上がらず負のレガシーとなっている競技場が少なくありません」と分析する。

加えて、人々のスポーツ習慣にも大きな開きがあるという。

日本でも高校・大学までは体育の授業があるため運動習慣は100%であるが、社会人になった途端に、6割の人は運動習慣がなくなる。

海外でもスポーツ習慣のある人口は減少傾向にあるというが、シリコンバレーではオフィス内にバスケットコートやジム、テニスコートやランニングコースが整備されているなど、積極的にスポーツをビジネスに取り入れるなど、スポーツ習慣を促進するための取り組みを行っている国は数多く見られる。

「本来、学生時代にスポーツを必修科目にしているのですから、社会人になっても環境や制度が整っていれば、そのまま自然に継続するでしょう。そう考えると、スポーツというのは国が公教育の中で下地を作ってくれる優良市場であるはずなのに、現実は6割の潜在顧客が消えてしまいます。本当に構造改革が必要だと感じています」(石井氏)

こうした状況下にありながらも、現在国が打ち出している経済政策の中ではスポーツ産業を次世代の柱とするべく、市場拡大が目標として掲げられている。先述したスポーツ未来開拓会議は、この経済目標を達成するため、スポーツ業界と経済産業省が初めて共同展開している取り組みなのだ。

スポーツを取り巻くこうした現状をふまえ、2025年の市場拡大を目指すには、国や業界をあげて本格的にスポーツマーケティングに注力する必要がある。

日本がスポーツマーケティングで進むべき道とは

石井氏は、今後のスポーツマーケティングの切り札としてスマートフォンの重要性を指摘する。

「最も考えるべきは、『われわれの意識は日ごろどこにあるのか』ということです。高校生や大学生になると、1日の大半はスマートフォンに意識を向けています。たとえ体が電車のなかにあっても、心はInstagramやLINEの中にいるんです。スポーツマーケティングを進める上でターゲティングすべきファンや顧客は、スマートフォンで常につながれる状態にあるということです。その空間の中で、ファンにいかに楽しんでもらい、選手や試合を身近なものとしてリアリティーを感じてもらうかという戦略を真剣に考えなければなりません」(石井氏)

デジタルツールとSNS画面

たとえば、選手のSNSアカウントは大きな価値を生み出す資産だ。人気選手が「このシャンパンがおいしい」とつぶやけば、「今度そのシャンパンを飲んでみようかな」と思ったり、「このブランドが好きだ」といえば「どんな商品なんだろう」とチェックしたりする。かつて以上に選手の一挙手一投足がダイレクトにファンの購買意欲を刺激する可能性を秘めているのだ。

そのような中で、日本がスポーツ先進国になるには、女子スポーツの隆盛が不可欠であると話す石井氏。後編では、その真意を問いながら、日本女子プロ野球の取り組みを深掘りしていく。

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