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【解説】データジャーナリズム

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「データジャーナリズム」とは、データを統計学的に分析したり、それらのデータをビジュアライズしたりすることで、これまでにない視点からの取材活動を可能にし、新しい表現で読者に情報を伝える手法である。従来のジャーナリズムでも多くのデータを利用してきたが、データジャーナリズムの特徴は、特にコンピューターを駆使して、身の回りにあふれているデータを活用するという点だ。

現在では、インターネット上に政府や自治体が公開するデータ、一般の人々によって投稿された文章や画像、動画などが膨大に存在し、さまざまなデータを低コストで多量に入手できる。さらに、テクノロジーの進化により、これまでにはなかった多種多様な事象がデータとして記録されている。データジャーナリズムでは、これらのデータを分析することで、異なる事象間の関連性を発見したり、抽象的なテーマを誰もが理解できて興味を持てるものへと変えたりできる。この活動には、複雑で膨大な情報を一目で理解できるように表現するビジュアライゼーションも含まれる。

広い意味でのデータジャーナリズムには、データの分析だけに限らず、ITを駆使した取材活動やコンテンツ表現が含まれる。現在の報道の中心である新聞やテレビでは、紙面や放送時間が限られているため、どうしても記者や編集者が主観的に情報や意見を集約せざるを得なかった。しかし、データジャーナリズムでは、できる限りデータを開示したり(たとえば、現場の写真や映像など)、それらのデータを科学的手法に基づいて整理して示したりすることで、客観性やオープン性を高めるという特徴もある。さらに、プログラミングを活用して、記事を単なる固定化された情報としてではなく、刻々と変化する様子を表現したり、視聴者との相互作用をリアルタイムで実現したりするしくみもデータジャーナリズムといえる。

データ活用のための新たな人材も必要

人や出来事を取材し、そこで得た情報(データ)から何を見いだすかがジャーナリズムの基本プロセスだが、これはデータジャーナリズムでも同様だ。しかし、従来のジャーナリズムと大きく異なるのは、ビジュアライズやプログラミングのプロセスがあることだ。これを実現するには、これまでのような記者や編集者だけでなく、より専門的な視点での分析や表現を可能にするデータサイエンティストやアナリスト、デザイナーといった専門家も制作チームに必要となる。

データジャーナリズム
データジャーナリズムでは「データを見つける」「データの意味を考えて判断・分析する」「データを分析した結果を効果的に見せる(ビジュアライズ)」「静的な記事ではなく動的な機能として見せる(プログラミング)」「意見を集約して次に何が起こるかを見いだす」というプロセスを経る。ビジュアライズやプログラミングは従来のジャーナリズムにはないプロセス

従来のジャーナリズムの基本プロセスに、「ビジュアライズ」と「プログラミング」のプロセスが加わったものがデータジャーナリズム

日本でもさまざまな事例が登場

データジャーナリズムの成功例として挙げられるのが、米国ニューヨーク・タイムズ紙による「Toxic Waters(汚染水)」(*1)の報道だ。水道水が汚染されている事実を報道するとともに、読者自身が居住地域の汚染具合を検索できるようにした。データジャーナリズムとして見た場合、特徴は次の4つになる。

(1)2000万件を超えるデータ分析によって水質汚染の現実を浮き彫りにした
(2)データビジュアライゼーションによって状況をわかりやすく解説した
(3)読者自身の地域の水質汚染状況を検索できるようにした
(4)結果、読者から2000件を超えるコメントが寄せられた

この報道によって、読者は記事を読むだけでなく、「自分にも関係のあること」として意識することができ、飲料水に関する規制強化にもつながった。

日本でもデータジャーナリズムの事例が登場している。NHKの「DATANAVI」(*2)では、報道の新たなウェブ表現の場として、テレビ番組と連動する形でデータやビジュアライズを活用したコンテンツを提供している。東日本大震災を扱った「震災ビッグデータ」では、被災地の震災前後の企業間における取引の変化を伝える。また、同サイトでは、全方位カメラを使ったVR画像・映像のニュースも配信するなど、最先端技術を積極的に取り入れている。

有志でデータジャーナリズムに取り組む「Gg project」による「『失われた20年』は本当なのか。何が失われたのか?」(*3)では、経済の話題でこれまで自明のこととして語られている「日本の失われた20年」という定説に着目して、実際の経済変化をデータに基づいて検証するという試みを行った。結果として、経済指標のなかには改善しているものもあり、特に環境や健康などはほとんどが改善傾向だったという事実を明らかにした。

本ウェブサイトの記事(「らしからぬ先鋭コンテンツ」はこうしてつくられる ── 日経ビジュアルデータのスゴさの理由)でも紹介したが、日本経済新聞 電子版「日経ビジュアルデータ」(*4)では、さまざまなテーマに関する数値データをインフォグラフィックやビジュアライゼーションで表現している。

また、Yahoo! JAPANでは、2012年からYahoo! JAPANの検索データをはじめとするさまざまなデータを分析し、選挙や震災、景気、インフルエンザといった幅広いテーマの「ビッグデータレポート」(*5)を公開している。

Yahoo! JAPANの「ビッグデータレポート」例:「インフルエンザ感染状況マップ」

Yahoo! JAPANでは、リアルタイムのインフルエンザ感染状況を日本地図でビジュアライズした(*6)
出典:Yahoo!検索データ

発展には再利用しやすいデータ公開が必要

データジャーナリズムがこの先さらに発展して社会に根付くためには、その根幹を支えるデータをいかに集められるか、集めやすい環境が構築されるかにかかっている。政府によるデータ公開は「DATA GO JP」(*7)や「Open DATA METI」(*8)などがあるが、より積極的な取り組みはもちろん、再利用しやすいデータ形式とライセンスでの公開が求められる。

一方で、データがあふれ、情報過多にあるというのも現在の状況であり、その点でデータジャーナリズムは情報のフィルタリングという役割も担っている。データジャーナリズムに携わる人間としては、適切なデータを見極める目を養うことが必要になる。

2016年には「ポスト真実(post-truth)」という言葉が英国の流行語になり、「フェイクニュース(デマや偽の情報)」が世界的な問題になるなど、インターネットの発達によって正しい情報だけでなく誤った情報も簡単に広がる世界になっている。また、多くの人々が商業メディアよりもSNSの知人の言葉のほうを信じるという現実もある。そんななかで、データという客観性の高い根拠に基づいて、誰にでもわかりやすく、興味を持ってもらえるように伝えるというデータジャーナリズムは、今後ますます重要になる。

【参考記事】
データビジュアライゼーション最前線[前編]──情報を可視化するメリットとは
データビジュアライゼーション最前線[後編]──ビジネスでの活用法を考える

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