デジタルマーケティング入門

そのマーケティングリサーチ、本当に必要ですか?(2)~実施時の3つのポイント

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第1回では、アンケートやインタビューによるマーケティングリサーチ(以下、リサーチ)の有用性について説明しました。もちろん、やみくもにリサーチを行えばよいというわけではなく、良質な結果を得るには相応の準備やノウハウが必要です。

マーケティング活動を成功させるためには、リサーチを通して客観的な評価を集めることが重要です。客観的な評価や数値があることで判断材料が増え、正しい意志決定の確率を高めることができます。つまり、リサーチは「マーケティング課題の解決に向けた具体的アクションを決定するために、必要な情報を収集・分析する、すべての方法」と定義できます。代表的なリサーチ手法は以下の3つです。

代表的なリサーチ手法
デスクリサーチとは、新たにリサーチを行わず、既存の統計データやリサーチ結果、各種文献、ウェブ上の情報などを収集・分析する手法。有識者リサーチとは、デスクリサーチでは得られない深さの情報(業界構造、法規制、商習慣など)を、有識者ネットワークを活用して、主にインタビュー等で収集・分析する手法。消費者リサーチとは、一般消費者に対するアンケートやインタビューを通して、商品の選定理由や満足度などを収集・分析する手法

これらのリサーチ手法のなかでも、マーケティング施策の策定(4P[*1]など)においてもっとも有効な「消費者リサーチ」を例に、リサーチ実施時のポイントを解説します。消費者の声をダイレクトに意思決定に反映する機会が多いのが消費者リサーチで、実施の際には以下の3つの準備が重要です。この準備がそろわない状態で消費者リサーチを実施するのは時期尚早といえますので、注意してください。

(1)マーケティングの課題を整理する
(2)リサーチの仮説を立てる
(3)リサーチ結果に応じたアクションプランを立てる

それぞれのポイントについて解説します。

(1)マーケティングの課題を整理する

通常マーケティングプランを考える際には、自社をとりまく業界や市場を「5F分析」(*2)や「3C分析」(*3)などのフレームワークを活用して分析したり、既存の文献やリサーチ結果をもとに市場規模を把握したりと、独自リサーチによる競合分析を行うことが多くあります。その上で、さらに顧客ニーズの把握も必要な場合は、消費者リサーチが有効です。

消費者リサーチの代表例としては、ある商品の市場浸透率を把握するために認知率や購入経験率を聴取する・需要を予測するために満足度や購入意向率などを聴取するといったケースが挙げられます。ただし、これらの場合、市場規模や競合状況の把握まではできません。それは、消費者リサーチでは「消費者が答えられること」がベースとなるため、「把握できる内容が限定される」からです。

ところが、これらが混同され、まるで消費者がすべてに回答できるという想定のもとに質問が組み込まれた調査票が散見されます。消費者自身はすべての購買や意思決定を論理的かつ体系的に判断しているわけではないので、リサーチ結果はあくまでも傾向把握や判断材料の一つとして活用されるべきです。

また、リサーチ結果に正解を求め過ぎて、絶対的な根拠として活用する志向が強いために、「調査票の矛盾を一切許さない」という前提の設計も多々見受けられます。これは、消費者リサーチの誤った使い方といえます。本当に大切なのは、その「回答の矛盾やゆらぎをどう解釈するか」です。消費者リサーチですべてを把握することは難しいと理解したうえで、マーケティングの課題を整理することが大事です。

(2)リサーチの仮説を立てる

消費者リサーチで何を把握できるか理解していたとしても、仮説なきリサーチはうまくいきません。消費者リサーチでもっとも重要なのは、リサーチを実施する前に良質な仮説を構築しておくことです。

たとえば、ある企業の商品の売り上げが伸び悩んでいるとします。この企業がその理由を知りたいと思ったときに、「直近の売り上げが不振な理由を把握したい」「商品自体への消費者の不満を把握したい」と、漠然とした理由でリサーチをしようとした場合、あらゆる情報を広く浅く収集するしかありません。このようなリサーチは、概して質問数や選択肢が非常に多くなります。そのため、リサーチ結果から必要なものが読み取り切れなくなります。また、結果の因果関係、重要度や緊急度もわかりづらく、「多くの問題が把握できたもののアクションにつながらない」という結末になりがちです。

一方、事前に「性別やライフステージによって缶チューハイを飲むシーンや目的は異なるのではないか?」「搭載した新機能の価値が、ターゲットであるシニア層には十分に理解されていないのではないか?」「該当カテゴリーへの関与度が高いほど、広告の認知度や評価は高いのではないか?」など、商品の売り上げが不振に陥っている課題の仮説が具体的かつ明確に立てられていれば、リサーチ対象やリサーチ項目への落とし込みが的確になり、結果の解釈も容易になります。

(3)リサーチ結果に応じたアクションプランを立てる

マーケティングの課題を整理し、仮説を構築してリサーチに落とし込んだら、最後はアクションプランの検討です。「アクションプランはリサーチ結果が出てから考えるもの」と思われるかもしれませんが、リサーチ実施前に考えておくことをおすすめします。というのも、リサーチ結果は水物なので、どんなに質のよい仮説を立てられたとしても、予想どおりになるかどうかは結果が出るまでわかりません。仮に仮説と真逆、あるいは思いもしない結果が出たとして、そこから議論をはじめてアクションプランの方向性を決めていては、非常に時間がかかります。

そもそもリサーチは意思決定のためにするのであり、その結果をもとにできるだけ早く判断したいというのが意思決定者の心情です。リサーチ自体が目的になってしまっては本末転倒になってしまいます。仮説どおりかそうでないかに関わらず、結果に応じたアクションプランを複数考えておいて、結果が出たら即意思決定をし、実行に移してこそ、リサーチが生きてくるのです。

みなさんがリサーチを実施する場合はいかがでしょうか。「仮説なきリサーチ」や「リサーチ自体が目的」になってしまってはいないでしょうか。リサーチをする前に一度立ち止まって3つのポイントを意識し直すことで、より課題解決に即したリサーチ結果を導き出すことができます。

次回は、良質な仮説を生み出すために、マーケターやリサーチャーに心掛けてほしいことについてお話しします。

【参考記事】
そのマーケティングリサーチ、本当に必要ですか?(1)~データ分析とリサーチ
そのマーケティングリサーチ、本当に必要ですか?(3)〜良質な仮説の生み出し方

注釈:
(*1)マーケティングにおける「製品(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」「コミュニケーション(Promotion)」のこと
(*2)競争要因を網羅的に把握するためのフレームワーク。業界内の競争に影響を与える要因を「新規参入の脅威」「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」「代替品の脅威」「競合との敵対関係」と5つに分類し競争要因を分析することで、業界内の競争などを測ることができる。世界的な経済学者のマイケル・E・ポーター氏が著書『競争の戦略(英題:Competitive Strategy)』(1982年、ダイヤモンド社刊)で提唱した
(*3)マーケティング環境を網羅的に把握するための基本フレームワーク。3Cとは、「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」のことで、自社をとりまく市場環境を正確に把握できる

プロフィール

株式会社マクロミル マーケティング・プロダクト本部 本部長 中野 崇氏

早稲田大学卒業後、株式会社良品計画を経て、2005年に株式会社マクロミル入社。営業・営業企画、海外支社の立ち上げや経営再建を担当。現在はマーケティング&プロダクト本部の責任者として、社内外向けマーケティングコミュニケーション活動とリサーチ事業の商品戦略を担当。

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