マーケティング事例

日本初! 第一生命のInsTech戦略[前編]――テクノロジーが保険業界に活路を開く

記事内容の要約

  • 高齢化や人口減少社会の影響を保険独自のテクノロジー活用により克服
  • ビッグデータやAIなどを活用した生命保険事業独自のイノベーションを創出する「InsTech」を戦略課題として推進
  • 「ヘルスケア」「保険の引き受け」「マーケティング」の3つの領域で検討
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「InsTech(インステック)」という言葉をご存じだろうか。「保険(Insurance)」と「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた造語で、提唱したのは第一生命保険株式会社(以下、第一生命)だ。テクノロジーを使って、新たな金融サービスを創出する「FinTech(フィンテック)」を最近耳にすることも多いと思うが、「InsTech」は、その保険業界版といえる。日本初となる同社の取り組みは、どのような経緯ではじまり、何を目指すのか――。第一生命保険のInsTech担当者に話を聞いた。

保険業界のビジネスイノベーションに挑戦

第一生命では、ビッグデータやAIなど最新のテクノロジーを活用して生命保険事業独自のイノベーションを創出する取り組みを「InsTech」と銘打ち、2015年12月に「InsTechイノベーションチーム」を立ち上げた。ビッグデータなどを活用した、新たな保険ビジネスへの取り組みは海外ではすでに例があるが、国内大手生保会社で専門チームまで設けたのは同社が初めてとなる。

InsTechイノベーションチームは、営業部門・商品部門・システム部門・運用部門・海外部門・アンダーライティング(保険の引き受け)部門など、約15の組織の管理職クラス約30名で構成されている。保険会社のような伝統的な、しかも大企業では、新しい取り組みに腰が重くなりがちだが、第一生命では社長からのトップダウンでInsTechへの取り組みや外部への発信が決まり、遅滞なく推進されているという。

保険会社は、被保険者が加入時に提出する健康診断データを保持しているが、それを他社との連携を含むさまざまなデータと組み合わせてテクノロジーを活用することで、生命保険の新しいビジネスモデルを創出することが狙いだと、第一生命保険営業企画部課長の齋藤俊輔氏は語る。

「第一生命グループとしては、保険ビジネスとテクノロジーを融合することによって、他社と差別化するための新しい付加価値をマーケットに投入していきたいと考えています」(齋藤氏)


第一生命保険株式会社 営業企画部 課長 齋藤俊輔氏

InsTech推進の理由は社会情勢とテクノロジーの進歩

InsTechを推進することになった背景には、高齢化や人口減少といった社会的な情勢がある。年齢を重ねればどこかしら健康に支障をきたすことが多くなるが、従来の生命保険は病気だと入れないか、割り増しの保険料を支払うなどの条件が付くことが普通だった。つまり保険が必要な人ほど保険に入りづらかった。このままでは、人口減少ともあいまってビジネスの幅が縮小してしまうことになる。それを食い止めるには、生命保険会社は「保険に入りたいのに入れない」という人を減らす努力が必要になった。そこで新たなビジネスを生み出すチャレンジとしてInsTechに取り組むことになったのだ。

「テクノロジーの進展もInsTechの取り組みをあと押ししています」と語るのは、同社の事務企画部長 拝田恭一氏だ。従来、保険会社が保持していたデータは、被保険者が加入時に提出する健康診断データと、給付金請求があったときの診断書データだけだった。つまり、どのような経過で病気になり、死亡に至るのかという途中経過のデータは、ほとんどもっていなかったのである。しかし現在は、その「途中のデータ」を、医療ビッグデータ活用による予測などで得られるようになった。さらに、コンピューター自体の性能向上によって新たな分析手法を試すことができるようになり、データ活用の環境が整ってきているという。

「従来、いろいろな解析手法モデルを利用してきましたが、自然言語処理や時系列解析の技術がここ数年で大きく進歩しました。データの量や種類、分析技術、処理性能のいずれも大きく向上しています」(拝田氏)


第一生命保険株式会社 事務企画部長 拝田恭一氏

ビジネス領域はヘルスケア、アンダーライティング、マーケティングの3つ

第一生命保険がInsTechのビジネス領域としているのは、ヘルスケア、アンダーライティング、マーケティングの3つだ。これまでの生命保険会社では、加入者を増やすことと保険金や給付金のバランスを維持することに注力してきた。しかし昨今では、健康寿命の延伸や医療費抑制に向けた取り組みなど、社会的要請も強まっている。そこで、テクノロジーを活用して国民のQoL向上(*1)につながるような、新しい付加価値(商品やサービス)を検討するのがヘルスケアの領域だ。

アンダーライティングとは保険業界特有の用語で、保険を引き受けるかどうか、引き受けるならどのような条件で引き受けるかを判断することを指す。従来は、病気であれば保険は引き受けられないという画一的な判断が行われてきた。しかし、たとえ病気であっても、全員が同じリスクというわけではない。

「今は、『病気であってもこういう条件なら引き受け可能』という判断が、医療ビッグデータ分析などによって可能になってきています。さらには、契約や保険金支払いが迅速に過誤なく行われるよう、ロボティクステクノロジーなどを活用して事務を効率化することも考えています」(拝田氏)

また、マーケティングの領域では、健康データ以外にも顧客属性や行動履歴のデータを組み合わせた分析をすることで、最適なタイミングで最適な提案をして契約につなげるという取り組みを行っている。さらには、営業職員の使う営業端末でAI(人工知能)を活用することも検討しているという。

保険ビジネスとテクノロジーの融合で目指す方向性
ヘルスケア領域では、QoL向上につながる付加価値として健康寿命の延伸に資する商品・サービスを提供。アンダーライティング領域では、お手続きの迅速化、お客さまの利便性向上、診査・告知項目の簡素化を実現。マーケティング領域では、お客さま一人ひとりに最適な提案をガイド(コンサルタント手法・提案商品・タイミングなど)。

InsTechへの取り組みを発表して1年が経過したが、すでに3つの領域において成果を出しているという。後編では、保険業界特有の領域であるヘルスケアとアンダーライティングに焦点を当てて、第一生命の具体的な取り組み内容を見ていく。

この記事の後編を読む

注釈:
(*1)QoL(Quality of Life):物理的な豊かさや個々の身辺自立だけでなく、精神面を含めた生活全体の豊かさと自己実現を含めた概念

プロフィール

第一生命保険株式会社 事務企画部長 拝田 恭一氏

1991年4月第一生命保険入社。事務企画部に配属。マーケティング部門、支社勤務を経て、2012年4月契約医務部部長、2014年4月契約医務部長。2015年4月より事務企画部長(現職)。

第一生命保険株式会社 営業企画部 課長 齋藤 俊輔氏

2002年4月第一生命保険入社。2005年4月第一生命経済研究所出向。2010年4月第一生命保険経営企画部。2015年4月同社営業企画部 課長(現職)。2016年10月第一生命ホールディングス国内営業企画ユニット 課長(現職)。

ネオファースト生命保険株式会社 企画総務部 企画・調査・広報グループ 課長補佐 菊田 靖子氏

2000年第一生命保険入社。支社、リテール行政部門を経て、2015年4月からネオファースト生命 企画総務部 企画・調査・広報グループ(現職)。

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