マーケティング戦略

VRとARの新たな局面――仮想と現実をつなぐデータ活用とは

  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

VR(バーチャルリアリティー)やAR(拡張現実)は、テクノロジーが切り開いた新たな表現のプラットフォームとして注目されている。しかしマーケティング活用という切り口で語られることはあまり多くない。

いま、インターネット上におけるユーザーの行動データは、ウェブ広告などの戦略に活用されているが、街中で展開されているリアルな場の広告は、ユーザーの行動データが取得しにくいため、マーケティングが難しいとされている。その状況を打破するために株式会社オプトが取り組んでいるのが、VRやARを活用したマーケティングプロジェクトだ。プロジェクト発足の背景や仕組みについて、同プロジェクトを立ち上げた中川太氏、栗山慎氏に話を聞いた。

“フィジタル”なマーケティングを目指す

VRやARは、迫力のある映像や没入感のあるコンテンツなど、これまでにクリエイティブの面からさまざまな試みがなされ、評価もされてきた。しかし、日々データに基づいた分析を軸に「売り上げに直結するeマーケティング」を行ってきたオプトの中川氏は、VRやARが表現面でしか語られないことに違和感を抱いていたという。

「これまでモニターやブラウザーの中だけで完結していたデジタルコンテンツが、拡張するようになり、2015年頃からプロジェクションマッピングの商用利用も増えてきました。VRやARをはじめ、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といったテクノロジーも着目されはじめたのもこの頃です。しかし、いずれも一過性のコンテンツとして、『その場で体験させて終わり』になってしまうことを非常に残念に思いました。これらのテクノロジーをマーケティングに活用できる環境を用意すれば、さまざまなニーズが生まれるに違いないと考えたのです」(中川氏)

そこで中川氏は、もともとデザイナーであり、ダイレクトマーケティングのクリエイティブ部門責任者だった栗山氏とともに、VRやARをマーケティングに活用するプロジェクトを立ち上げた。

「ダイレクトマーケティング領域のクリエイティブ責任者としてインフィード広告などを手がけながらも、新たなユーザー体験を作り出す表現や情報伝達の可能性を探していました。社内でも『VRやARは特別なテクノロジーではなく、あらゆる事業において関係してくるだろう』という空気は流れていたため、みんなが進む次の道をつくるための仕事に取り組むことにしたのです」(栗山氏)


株式会社オプト ビジネスデベロップメント部 フィジタルマーケティングラボ クリエイティブディレクター
栗山慎氏

このプロジェクトは、VRやARなどのデジタルコンテンツを利用して、リアルな場所におけるユーザーの行動データを取得し、ターゲティングやリターゲティングなどに活用しよう、というものだ。中川氏と栗山氏はそのコンセプトを、『フィジタル』という言葉で表現している。フィジタルとは、フィジカル(Physical)とデジタル(Digital)を組み合わせた造語で、現実にあるものと仮想のものの融合を表している。

「私たちは、VRやARをエンターテインメントの側面だけでなく、現実世界とデジタルをシームレスにつなげていくためのものだと捉えています。『フィジタル』は、その状態を的確に表現していると思います。提供するコンテンツや体験自体は異なりますが、O2Oの考え方に近いともいえるでしょう」(栗山氏)

VRやARを活用して収集したユーザーの行動データは、マーケティングプラットフォームで収集・分析し、SNSやウェブ広告などでユーザーに応じてターゲティング、リターゲティング、オーディエンス拡張などを行っていく。

たとえば、一度VR、ARを体験しに訪れたユーザーをセグメントし、次回のキャンペーン時には実施告知や関連コンテンツを表示させる。まだ来場していなくても、来場ユーザーとネット上での行動が似ているユーザー(類似者)は興味を持つ可能性が高いと仮説を立て、広告を表示するようにする。逆に来場履歴がなく、オンライン上の行動データから現時点では興味関心がなさそうなユーザーに対しては、まずは認知を上げるためのアプローチをすることが考えられる。

フィジタルマーケティングの流れ
フィジタルマーケティングの流れをあらわした図

ユーザーがVRやARといったデジタルコンテンツへ接触した際に、行動データを取得。それをマーケティングプラットフォームで収集・分析することでマーケティング活用が可能となる

このようなマーケティングへの応用は、従来、ウェブの世界で行われてきたこととなんら変わらないと思われるかもしれない。

「VR、ARを活用したマーケティング、というと必要以上に難しく思われてしまいがちですが、ARやVRはユーザー接触のきっかけです。しかし、単なる集客の仕掛けとして存在するわけではありません。VRやARを通すことによって、マーケティングに役立つ行動データを取得できればと考えています」(中川氏)

リアルとバーチャルがつながった先にある好循環

VRやARを媒介にしてどのように現実世界の行動データを取得していくのかについては、決して難しいことではないという。

「そもそもVRもARも、コンテンツの体験にはスマートフォンや専用デバイス、アプリなどを利用する場合がほとんどです。デバイスを利用してもらう時点で、デバイスを通じたユーザー行動がトラッキングできますので、リアルでの行動データは取得可能なのです」(中川氏)


株式会社オプト ビジネスデベロップメント部 フィジタルマーケティングラボ 総合プロデューサー 中川太氏 

たとえば、デジタル体験イベントに来場したユーザーの行動データを取得するには、いくつもの方法が考えられる。まず、ウェブ上で事前予約をしてもらい、その手続きの際にデータを取得する方法。次に、会場にGPSやWi-Fiでジオフェンス(仮想空間の境界線)を設定しておき、ジオフェンス内にユーザーが入ったことを判別し、データ化する方法。そして、ユーザーがデジタルコンテンツを体験する際に、ユーザー自身のスマートフォンでコンテンツを操作できるようにすると、ここでもデータ取得が可能になる。データの取得については、会場設備や規模などによって適切な方法も変わってくるが、いずれも既存の技術でできることだ。

こうしてリアルな場所におけるユーザーの行動データが取得できると、具体的にどのような効果を得られるのだろうか。

「たとえば水族館が集客プロモーションを行うには、交通広告やテレビCM、新聞広告などを利用するのが一般的ですが、これらの広告をきっかけに来場した顧客を特定することはなかなかできません。一方、ARで水槽に演出を施すなどしてユーザーにスマートフォンでアクションを起こしてもらうようにすれば、データを取得できるようになります。すると次回以降、来場履歴のあるユーザーに絞ったターゲティング告知や、インセンティブの付与が可能になり、優良顧客の育成施策が考えやすくなるでしょう」(中川氏)

つまり、集客したユーザーのデータを取得することで、これまで集客のためだけに投資されていたコスト(広告費など)は、顧客データという資産を得る投資にもなり得る。

水族館における顧客育成イメージ
水族館でのARを活用したデジタルマーケティング体系図

館内でユーザーにARなどのデジタルコンテンツを体験してもらうことで、その行動データを取得する。以降、一度来場した、ロイヤルティーの高いユーザーをターゲティングしたデジタルマーケティングが可能となる

より効率的な広告配信を行うことができれば、その分コンテンツや設備・人員などに投資することができ、より楽しめる水族館になるという好循環も生まれるだろう。他にも、行動データの取得には、こんなメリットがある。

「水族館内にいくつもVRやAR体験できる場所を作れば、ユーザーがどういう導線でどのコンテンツの前に滞在していたかという行動データも取得できるので、それを展示の改善やスタッフの配置見直しなどに利用することもできます」(中川氏)

特にVRのコンテンツは、ユーザーの位置情報データを取得するのに相性が良いという。

「VRのコンテンツは、一つのファイルで構成されているのではありません。仮に不動産物件見学にVRを活用した場合、物件内にはいくつも部屋があり、部屋はそれぞれ別々のファイルで作られています。ユーザーが見学しながら移動するときには、ドアを開けるなどの動作を行います。つまり、ユーザーが部屋を移動するとウェブページを遷移するような行動をすることになります。そのため、どの場所にどれくらい滞在したかという情報が取得しやすいのです」(中川氏)

具体的なサービス内容と活用シーン

中川氏と栗山氏は、VRやARを活用したマーケティングプロジェクトを大きく二つの軸で進めている。一つは、企業やブランドの目的に応じてゼロからプロダクトを作っていくハイコンテクストなものだ。

「フィジカルな体験をともなうモノやサービスのプロトタイプ開発を得意とする1→10drive(ワン・トゥー・テン・ドライブ)社と協業し、『drop: Phygital Marketing Lab(ドロップ:フィジタルマーケティングラボ)』(*1)というプロジェクトを発足しました。ストーリーやブランド文脈などをもとに、リアルとデジタルが連動するソリューションの提供を1から目指します」(中川氏)

ハイコンテクストなサービス
ドロップ:フィジタルマーケティングラボ説明図

提供:株式会社オプト
マーケティング戦略やデータ活用を担うオプトと、ブランド戦略やプロダクト開発を担う1→10drive社との協業で、両者の強みを生かした独自のプロダクトを提供する

そしてもう一つの軸は、汎用(はんよう)性が高く手軽に導入しやすい、シンプルにパッケージ化されたプラットフォームの提供だ。

「プラットフォームに必要な要素は三つです。まずはコンテンツ制作、次に作成したコンテンツを格納して呼び出せる状態にするサーバー、そしてコンテンツを再生できるプレーヤーなどの再生環境も必要です。この三つの環境を整えたプラットフォームに、さらにユーザーデータの取得まで行える機能を準備しています。このプラットフォームを広く企業が利用できるようにすることで、VRやARをマーケティングに活用する環境や可能性がより広がると考えています」(中川氏)

パッケージプラットフォーム
パッケージプラットフォーム図

外部ベンダーとの協業により、コンテンツ自体の制作、格納、再生環境までを提供する他、VRやAR等のデジタルコンテンツにユーザーが接触する経路づくりや、データ収集・分析などのマーケティング機能まで、パッケージを作り、提供する

汎用的なパッケージを使ったARの活用としては、雑誌や実店舗と相性が良いという。

「雑誌の記事や店頭の商品にスマートフォンをかざすと詳細説明が動画で再生されたりするイメージです。一見地味な使い方でも、利便性や必然性の高いサービスになっている、というのが理想です」(中川氏)

まだARの活用事例が少なく、口頭で説明しても伝わりづらいため、実際に使用感を体験できるよう、オプトでは、今後ショートムービーやデモを公開するほか、オフィスでデモの体験もできるように目指していくという。

「ウェブサイトのデータ解析と同じように、リアルな場のユーザー動向を解析できるようにするのが、まずは目指す第一ステージ。それが実現したら、次のステージとして、感情のデータ化を考えています。端末のセンサーで取得できる音声や体温、血流や目の動きなどから感情を識別できれば、ウェブサイトの解析以上のことを実現できます。実際に、某社のコールセンターでは電話をかけてきた人の音声から、AIが感情を判断して、オペレーターが適切な対応をするという実例もでてきています。長年、私たちがクライアントのウェブサイトを見て解析してきたことを、新たなユーザー体験とともに広げていきたいと思っています」(中川氏)

VRやARを介した新たなデータ取得方法によってブラウザーの外と中はシームレスにつながり、マーケティングにおけるその境界線はなくなりつつあるといえるだろう。

ツーショット写真

注釈:
(*1)drop: Phygital Marketing Lab(外部サイト)

プロフィール

株式会社オプト ビジネスデベロップメント部 フィジタルマーケティングラボ 総合プロデューサー 中川 太氏

株式会社オプト ビジネスデベロップメント部 フィジタルマーケティングラボ クリエイティブディレクター 栗山 慎氏

  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

Insight for Dの
ページにいいねしよう!

「いいね!」してInsight for Dの最新情報をチェック

Q. Yahoo! JAPANのデータソリューションは何がスゴイんですか? 答えはこちら

Q. Yahoo! JAPANのデータソリューションは何がスゴイんですか? 答えはこちら

Insight for Dの公式Facebookページ、Twitterでも最新情報や取材の様子を発信中。