マーケティング事例

無料の公開情報で価値を生む[前編]――入札情報速報サービス(NJSS)の裏側

記事内容の要約

  • クラウドソーシング事業がきっかけではじめた入札案件の情報収集を事業化
  • クラウドソーシング事業を活用して全国の入札案件を正確かつ安価に収集
  • 過去8年間分、約700万件の入札・落札情報を持つことにアドバンテージ
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国や地方自治体などの公共機関が物を購入したり、工事を発注したりすることを官公需というが、その際に行われる入札(官公需入札)の数は、年間100万件にものぼる。「入札」と聞くと、ダム建設や道路工事をイメージしがちだが、実際はパンフレット製作や町おこしイベントの運営委託、ホームページの製作にいたるまで、その規模や予算はさまざまだ。

入札に参加したい企業にとって、その中から自社に適した案件を見つけるのは容易ではない。そんな課題を解決すべく膨大な量の入札情報を一元化して整理し、情報収集できるようにしたのが株式会社うるるの入札情報速報サービス、NJSS(エヌジェス)だ。同社代表取締役社長の星知也氏と執行役員の渡邉貴彦氏に、同サービス開発のきっかけやしくみについて聞いた。

きっかけはクラウドワーカーへの受託案件探し

株式会社うるるが提供する入札情報速報サービス(以下、NJSS)(*1)は、官公庁が公表する入札案件の情報を収集し、提供するサービスだ。入札情報そのものは、募集元のウェブサイトなどで一般公開されており、誰でも入手できる「無料の情報」だ。しかし、官公庁や外郭団体などは全国に少なくとも6500以上が存在し、公告される入札案件は年間100万件ほどもある(数字はNJSS調べ)。そのすべてを網羅するのは、多くの手間と時間がかかり容易ではない。NJSSは、散在しているこれらの情報を人の手で集め、探しやすいように整理して提供しているのだ。

入札情報速報サービス(NJSS)
入札情報速報サービス(NJSS)

NJSSは同社を支える事業の1つになっているが、最初から入札情報の提供がビジネスになると思っていたわけではないと星氏は明かす。サービス誕生のきっかけは、「人力で情報収集する」というNJSSの特徴にも大きく関係していた。

「弊社では、もともとインターネットを利用して、全国のクラウドワーカーたちの労働力を活用することを事業の柱としています。きっかけは、2003年ごろに、団塊世代の定年退職によって日本の労働力が不足するという懸念が広がったことです。ちょうど同じころ、ネットの常時接続とブロードバンドが普及しはじめたことで、ネットでやりとりできる仕事なら、場所や時間にとらわれず作業できるようになりました。たとえば、全国各地にいる主婦の方々に仕事をしてもらえれば、労働力不足解消につながるのではないか。そう思って2007年にはじめたのが、『シュフティ』(*2)というクラウドワーカー向けのサービスです」(星氏)


株式会社うるる 代表取締役社長 星知也氏

シュフティは、主婦層をメインとした全国の会員に対して企業が仕事を依頼できる、いわゆるクラウドソーシングサービスだ。フルタイムは無理だがちょっとした空き時間でこなせる仕事ならできる、通勤は無理だが自宅作業なら受けられる――そんな労働力を全国規模で企業の依頼とマッチングさせることで、企業にとって利便性の高いBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービスを実現している。そしてクラウドワーカーのために企業からの受託案件を獲得していったことがNJSSの開発につながった。

シュフティ

「どんな仕事を受けたいか会員にアンケートをとったところ、データ入力作業の人気が高いことがわかったので、はじめは名刺情報の入力作業などを企業から請け負っていました。そして受注案件を探すなかで、官公庁からも仕事の募集があり、入札という制度があるということを知ったのです」(星氏)

さっそく入札に参加しようと星氏は情報収集をはじめたそうだが、簡単ではなかったという。

「膨大な入札案件のなかから、自分たちに合ったものを探すのがとても大変でした。いろいろな入札情報サービスも利用しましたが、網羅性や情報量の面で満足いくものではなかった。そこで、シュフティ会員を使って情報収集をはじめたのです。つまり当初は、自分たちのための案件を探す目的で入札情報収集をはじめたのです。しかしそれ自体に市場ニーズが高いこともわかり、シュフティ会員への仕事も生み出せると考え、事業化に踏み切りました」(星氏)

人の手によって全国の入札情報を低コストで網羅

NJSSの入札情報は、シュフティの会員であるクラウドワーカーによって更新されている。まず、入札情報の収集を依頼されたクラウドワーカーは、官公庁などのウェブサイトで入札情報が更新されているかどうか確認する。そして新規情報があれば、フォーマットにしたがって入力する。こうして集められた情報は1つにまとめられてデータベース化される。

NJSSのしくみ
官公庁サイトに掲載されている入札情報を、クラウドワーカーであるNJSSスタッフが目視・手作業で収集。それをNJSSのデータベースへと入力することで、ユーザーに入札情報が提供される

「入札案件情報の収集、整理はとにかく手間がかかります。企業が自社だけで人材と場所を用意して同じことをやろうとしたら、コストが合いません。クラウドワーカーによる現在の体制を用意できた当社だからこそ実現できたサービスです」と星氏は語る。

膨大な情報の処理なら、コンピューターによる自動化が有効のように思える。単純作業の機械化とそれによるコストダウンこそ、IT業界やデータ活用シーンにおける定石だからだ。実はNJSSでも、入札情報の一部はウェブページを機械的にクローリングして集めている。星氏は機械的なクローリングを「非効率でコスト高」と表現する。

「全て自動化できるなら、もちろんそれが一番楽です。ところが入札情報というのは、HTMLやPDF、画像など、実にさまざまな形で公開されていて、その形が突然変わる可能性もあり、自動化するのは簡単ではありません。人力なら、URLが変わったり、PDF化されたりしても、必要な情報を探して読み取ることができます。さらに、更新頻度が1年に1回程度の情報も多く、それだと自動化する手間のほうがかかるのです。人の手でやるほうが、結果的に漏れが少なく、コストも時間もかかりません」(星氏)

蓄積された過去データが競争力を高める

入札情報に関するデータ項目は、公共機関ごとにおおよそ統一されており、NJSSで参照できる情報も同様だ。NJSS独自のデータがあるわけではない。しかし、散在していた情報を1カ所に集めて整理したことで、さまざまな条件での検索が可能になった。これは、自社の条件に合った案件だけをすばやく探したいユーザーにとってなくてはならない機能だ。さらに、ユーザーにとって価値が高く、類似サービスに対するアドバンテージにもなっているのが、落札結果も含めた過去の入札情報である。

実は、入札というのは毎年、同じ機関から同じような案件がだされる傾向がある。たとえば清掃や整備のような1年更新の案件は、同じ時期に同じようなタイトルで発注されることが多い。そうなると入札を狙っている企業にとっては「昨年のこの案件は、どんな会社がいくらで落札したのか」という情報は非常に有益なものになる。NJSSの強みは、まさにそのニーズを満たせるところにある。

「NJSSは入札情報や落札結果といった情報を、過去8年間分で約700万件も蓄積しています。人力で漏れなく情報収集している当社だからこそ成せる技であると考えています。われわれが目指すのは、入札情報を探すだけのサービスではなく、それを攻略して落札できる、つまり、企業の売り上げにつながるサービスなのです。NJSSは、月額4万8000円から利用できますが、数千万円の入札案件を落札できる可能性が高まるなら、決して高くはないと考えています」(星氏)

入札に参加するには、資格が必要であったり、説明会への出席が必須であったり、さまざまな条件が課せられている場合が多い。過去の結果から、落札できそうかどうか判断できれば、無駄な労力を払わずに済む。また、入札情報のなかには、1週間くらいしか掲載されないものもあるという。そういった“レアな情報”まで網羅されていることは、データベースの信頼性を高めている。

入札は、その膨大さや多様性、手間ゆえに、参加したくても手が出しづらいという課題があった。NJSSはそれを解決することで、無料で手に入るオープンデータから価値を生み出した好例といえるだろう。

後編では、入札情報の一元化やNJSSの提供を通じて得られた気づき、クラウドソーシングのしくみを応用した将来展望について伺う。

この記事の後編を読む

注釈:
(*1)入札情報速報サービス(NJSS)(外部サイト)
(*2)シュフティ(外部サイト)

プロフィール

株式会社うるる 代表取締役社長 星 知也 氏

1976年生、北海道札幌市出身。高校卒業後に入社した会社でトップセールスの成績を残し、支店立ち上げなどを担当。その後渡豪し、社名の由来となるエアーズロック(現地語で「うるる」)に感動。帰国後に入社した会社で株式会社うるるを社内創業。2006年、MBOで独立し現職。

株式会社うるる 執行役員 渡邉 貴彦 氏

1984年生、静岡県富士市出身。大学卒業後に新卒で求人営業として前職に就職し、3年後の2010年1月にNJSS営業としてうるるに参画。その後、2012年にNJSS事業部 部長に就任。現在は執行役員。

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