ビジネス創出

徳島県発のタクシーIT革命――ベンチャー企業「電脳交通」の取り組みに迫る

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いま、日常生活における“交通”と“移動”の環境が変わりつつある。なかでも配車アプリやシェアライドをはじめとするITの進化は、都心部のタクシー業界のサービス形態そのものに大きな影響を与えはじめた。そして、地方でもタクシー業界のあり方を変えようとしている企業がある。徳島県発のベンチャー企業「株式会社電脳交通」だ。インパクトのある社名に負けず劣らず、タクシー業界の新たな可能性を感じさせる同社の代表取締役、近藤洋祐氏に話を聞いた。

祖父の会社を継いで経営者に

株式会社電脳交通(*1)、そして吉野川タクシー有限会社(*2)の代表を務める近藤洋祐氏は、地方と交通の課題をITとデータの力で解決しようと挑むタクシー業界の異端児的存在である。

子どもの頃からスポーツで成功することを夢見ていたという近藤氏は、メジャーリーグを目指すために単身渡米。しかし、けがと故障を経験したことや、現地選手とのレベルの違いを肌で感じたことから、故郷の徳島へUターンすることとなった。帰国後、別の道に情熱を注ごうと考えていたあるとき、転機が訪れた。

「吉野川タクシー」の経営者である祖父が、体調不良から事業の清算を検討しているという。当時、就職活動をしていた近藤氏だったが、「経営者になる機会はめったにない」と、経営の道に進むことを決めた。


株式会社電脳交通、吉野川タクシー有限会社 代表取締役 近藤洋祐氏

ドライバー経験を生かして新サービスを開始

タクシー業界に対する知見もなければ、経営者の経験もない近藤氏は、まずタクシードライバーとして勤務することから始めた。図らずも、タクシー業界独自の文化と人々にカルチャーショックを受けたという。

「待機場所の取り合いでけんかしたり、起き抜けの格好で運転したりするドライバーがいるのは当たり前。その上、業界は固定観念や暗黙のルールでがんじがらめ。僕から見れば不条理なことばかりでした。理由を聞いても『昔からこうなんや!』の一点張り。特殊すぎる世界だと思いました」

現場を経験してタクシー業界の文化に衝撃を受けた近藤氏だったが、同時にタクシーが地方の交通を支えているということも強く感じた。たとえばタクシーがなければ、駅から離れた居酒屋などはアルコールを提供できなくなり、商売が立ちゆかなくなってしまう。地方にとってタクシーは、産業を支える重要なインフラなのだ。

守るべき業界の文化は守る。しかし、当時の吉野川タクシーには多額の借金があり、変わるべきところは変えていく必要があった。近藤氏は会社の経営を立て直すために、さまざまな取り組みを実施。法人営業を強化して売り上げの安定化を図る一方で、それまでは口頭で行っていたドライバーの業務報告をデジタル化し、そのデータを整理・収集・分析して車両の稼働パターンを可視化した。

そして、車両の非稼働時間を減少させるために、学習塾向けに生徒の送迎を行う「キッズタクシー」や、妊産婦向けの送迎サービス「マタニティタクシー」などの新規サービスを開始。またSNSも積極的に活用し、乗務員の仕事に取り組む姿勢や、新サービスを始める背景など、タクシー会社にある“ストーリー”を発信してファンを増やすことにも取り組んだ。こうして、徐々に売り上げは上向きに転じていった。


提供:電脳交通

配車管理代行という新たなニーズ

会社の売り上げ向上とともに近藤氏が着手したのが、ITによるタクシー業務の効率化だった。経営者だけでなく、ドライバーの高齢化も課題とされているタクシー業界は、他業界に比べてITを取り入れた試みが少ない。業務プロセスの合理化やコストの削減、さらにはITによる新たな価値の創造など、タクシーとITの掛け算による可能性に目をつけたのだ。スマートフォンも普及した今、もはや取り組まないという選択肢はなかった。

近年、日本交通社が手がけるアプリ「全国タクシー」をはじめ、「LINE TAXI」「Uber」など、配車やシェアライドに関連するサービスが盛り上がっている。売り上げの50%が配車アプリ経由だといわれている企業もある。このことから、吉野川タクシーでも自社独自の配車アプリを試験的にリリースした。ところが結果としてほとんど利用されず、アプリでの配車依頼は月に数件しかなかったという。

「地方と都市部ではタクシーの使われ方がまったく違います。東京であれば、走っているタクシーを捕まえて乗る『流し』が主流ですが、地方はタクシー会社に“電話”して迎えにきてもらう『送迎』がほとんど。都心でしたら、アプリでタクシーを呼ぶことの便利さを感じてもらえますが、地方は高齢者も多く、スマートフォンで現在地を指定して迎えに来てもらう手順も難しく思われてしまい、配車アプリが電話に取って代わることはできませんでした」(近藤氏)

売り上げ向上や配車の効率化ができると見込んで展開した配車アプリだったが、地方で勝負すべきサービスではないと気づいた。

近藤氏はこの経験を踏まえ、タクシー利用者側ではなく、タクシー会社側の業務効率化を図る方に目を向ける。「1日に1回も来ないかもしれない配車依頼のオペレーションは非常に非効率だ」という配車管理側の課題に気がついたのだ。

配車管理はオペレーターを雇うことで人件費がかかるため、規模の小さなタクシー会社ほど大きな固定費負担を強いられる。しかも、タクシーは原則24時間営業が義務づけられており、夜間の電話対応は社長自らが担っていることも珍しくない。そこで近藤氏は、配車管理のコールセンター業務を代行するサービスがあれば、ビジネスとして成立すると考えた。こうしてタクシー会社を支援する「クラウド型タクシーコールセンターサービス」と、それを提供する株式会社電脳交通が誕生したのである。

クラウド型タクシーコールセンターサービスの仕組み

電脳交通が提供する「クラウド型タクシーコールセンターサービス」の仕組みはこうだ。

電脳交通の仕組み。詳細は下記のテキスト

提供:電脳交通

利用者はこれまでと同じようにタクシー会社に電話して配車を依頼する。しかし、実際に電話を受けるのはそれぞれのタクシー会社ではなく、電脳交通のオペレーターだ。電脳交通のオペレーターは、A社に来た配車依頼であればA社の担当者として電話を受ける。すると、PC画面にそのA社のタクシーの位置情報が表示され、配車が行われる。そして、タクシーに搭載されたタブレットには利用者が待つ場所へのルートが示され、ドライバーは送迎に向かう。

この方法であれば、利用者数減少を心配することなく、導入会社は業務を効率化できる。

電脳交通のオペレーションの風景

徳島にあるオフィスでは24時間体制でオペレーターが対応(左)。オペレーターが確認するPC画面には、利用者の情報、迎車の位置、タクシーの現在地などがひとつの画面で確認できる(右)
提供:電脳交通

顧客データの蓄積が、タクシーの質を高める

配車管理システムのなかで近藤氏が特にこだわったのが、顧客に関するデータの活用だ。同社のシステムには、乗車時間や降車場所といった利用履歴に加えて、“顧客カルテ”ともいえるさまざまなデータが記録されている。例えば、「酔っ払って利用することが多い」「荷物を置き忘れることがある」といったものや、なかには「玄関横の鉢植えの下にあるカギを使って、家の中まで迎えに行く必要あり」など、地域に密着したドライバーだからこそ知り得る情報もデータベース化されている。こうした細やかな情報へのこだわりは、自身のドライバー経験によるものだと近藤氏はいう。

「信頼して利用されるタクシー会社になるためには、滞りなく人を運ぶだけではなく、人に寄り添わなくてはいけません。そのためには、顧客ごとの細かなデータは重要です。地方であればなおさらです」(近藤氏)

地方の場合、目印がない場所や分かりづらい場所が多く、土地勘がないと一見配車手配が難しいように思える。しかし、電脳交通ではサービス開始以来、利用者の場所を特定できなかったことはない。13名いるオペレーターは半数以上が県外出身で、該当エリアの地理に精通していないにもかかわらず、正確に送迎できている。これは細かな部分まで顧客データが整理されているからに他ならない。さらに電脳交通では、地域イベントや電車の遅延などの情報を、こまめにドライバーに一斉発信して、稼働率向上や業務効率化を図っている。

運用の図。詳細は下記テキスト

タクシーに搭載されているタブレット端末(右)と、乗務員が確認するアプリケーション画面(左)。ナビゲーション機能だけでなく、迎車へのルート案内やオペレーターとの会話などが行える
提供:電脳交通

独自ルールに合わせる努力を地道に

いまでこそ、5エリア18社ものタクシー会社に利用されている同社のクラウド型タクシーコールセンターサービスだが、もちろんサービスを広めていく上でハードルもあった。それは、タクシー会社ごとの「配車ルール」だ。

タクシードライバーの給与は、基本給プラス歩合が一般的であるため、ドライバー全員に平等に仕事が行き渡るように配車する必要がある。だが、そのためのルールは業界でも明文化されておらず、会社ごとのオペレーターの感覚で配車が行われている場合がほとんどだ。小規模のタクシー会社であればあるほど、「うちにはうちのやり方がある」と既存の配車管理システムの導入には抵抗があるという。

そこで、電脳交通はコールセンターシステムをできるだけ柔軟な構造にした。会社ごとの独自の配車ルールを入念にヒアリングして、あらゆるルールに対応してカスタマイズできる仕様にしたのだ。とてつもなく骨の折れる作業だったが、タクシードライバーの経験によって業界への理解を深めた近藤氏だからこそできたことだろう。

近藤氏

過渡期にあるタクシー業界に活路を見いだす

ITとデータの力で地方のタクシー業界に大きな変革をもたらした電脳交通。全国的に見れば業界の雄である日本交通が大きな影響力を持っているが、近藤氏はそうした状況もポジティブに捉えているという。

「配車アプリやシェアライドなど、タクシーに関するサービスはすべて競合ですが、ITを利用して交通をよりよいステージに導くという目標は同じです。近い将来、タクシー業界にも自動運転の時代が必ず来ると思いますが、それまでに、地方に根ざした電脳交通がやるべきことは何なのか? それを考えながらあらゆる情報を蓄積・活用して、人々の移動の質を上げていきたいと思います」

将来的には地方だけでなく、発展途上国へサービスを展開するつもりだという。発展途上国のタクシーのほとんどは『流し』で営業しており、『配車』という考え自体が定着していないが、同社のサービスは高価な無線がなくても、ネット環境さえあれば導入できることから、ビジネスの可能性はおおいにあると見込んでいる。

ビジネス規模の縮小が懸念されるタクシー業界に活路を見いだすのは、最先端の技術や安全、そしてデータであることを、電脳交通は教えてくれている。

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