マーケティング戦略

JINS MEMEがつくる新たな健康の文化[前編]――認知症のない世界をめざして

記事内容の要約

  • 株式会社ジンズは、眼や体の動きを取得するメガネ型ウェアラブルデバイス「JINS MEME」を開発
  • 「眼の動きから認知症対策が可能になるのでは」という仮説のもと、健康意識の高いコアユーザー層の拡大に注力
  • オープンイノベーションで、JINS MEMEを活用したアプリ、サービス、ソリューションの拡充に取り組む
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コストパフォーマンスの高い製品を提供することで、日本のメガネ市場のリーディングカンパニーとなった株式会社ジンズ。実は同社はすでにメガネの新たな価値を提案すべく、新しいコンセプトに基づいたウェラブルデバイスの開発・販売も進めている。そのデバイスは、眼や体の動きに関する膨大な人体データを収集し、ユーザーのココロの状態などの可視化を実現する。メガネの小売業のはずのJINSが、なぜそのような取り組みをはじめたのか。その背景を追う。

メガネで眼と体の動きをセンシング

仕事中の集中度がわかったり、ランニング中のフォームを可視化できたりするメガネ――。それが、株式会社ジンズ(*1)が2015年11月に発売した、「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」(*2)である。

メガネ型ウェアラブルデバイスであるJINS MEMEは、特許技術である「3点式眼電位センサー」で眼の動きを取得し、さらに6軸 (加速度・ジャイロ) センサーによって体の動きを捕捉する機能を持つ。

JINS MEME本体
JINS MEMEの本体。つるの部分に「3点式眼電位センサー」が装着されている。

ユーザーは、このデバイスによって自身の「眼の動き」「まばたき」「姿勢」をデータとして収集し、それらのセンシングデータをライフログ系のスマートフォンの専用アプリ(以下、スマホアプリ)で活用できる。現在、JINSが提供しているアプリには、集中度を計測する「JINS MEME OFFICE」(*3)、6軸センサーからのデータをもとにランニングフォームを可視化する「JINS MEME RUN」(*4)、体幹トレーニングのアシストしてくれる「JINS MEME TAIKAN」(*5)、ドライバーのまばたき・視線の変化から眠気の可能性を検知し、スマホで注意を促す「JINS MEME DRIVE」(*6)などがある。

究極のゴールは“認知症”のない世界

それにしても、なぜJINSはこのようなデバイスを開発するに至ったのか。同社のJINS MEMEグループで事業開発を担当する井上一鷹氏はこう語る。

「当社のメガネは、販売本数が国内シェアナンバーワンです。さらなる成長・飛躍のためには、『視力矯正が必要ない人もかけたくなるメガネ』を開発し、新たな市場を切りひらくことが必須だと考えました」

市場開拓の模索を続けるなかで、同社は東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授の知己を得た。川島教授は、世界的にヒットしたゲームソフト『脳を鍛える大人のDSトレーニング(通称:脳トレ)』の開発を手がけたことで広く知られているが、本職は認知症の研究医。認知症治療の研究を進める一方で、認知症の兆候を早期につかみ、発症を未然に防ぐ「先制医療」の重要性をかねて唱えていた。

いうまでもなく日本は高齢化の先進国で、内閣府によれば総人口に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)は、2025年には30%に達するとされており、さらに、そのうちの5人に1人は認知症患者だと予測されている。川島教授は、このままでは医療費負担で日本経済は窮地に陥るのではないかという危機感から認知症予防の研究を進めていたが、その過程で「認知症患者と非認知症患者では、眼の動きのスピードと体の重心バランスが違う」という仮説にたどりついた。この仮説がJINS MEMEの開発に結びついたというわけだ。

日本の認知症患者数と高齢者の占める割合の予想
高齢者のうち、認知症患者の割合は2025年には約20%、2040年には約25%になると予想されている。

厚生労働省「新オレンジプラン」資料より作成

「JINS MEMEのような眼の動きや体のバランスをとらえられるデバイスがあれば、認知症の兆候について有効なデータを取れるかもしれない。そこでわれわれも『認知症予防で社会に貢献する』ことはできないかと、JINS MEMEの開発に至ったのです」(井上氏)

プラスサム系のヘルスケアに力を注ぐ

もちろん、認知症予防への貢献は簡単ではない。身体や症状の変化は長い目でとらえる必要があるため、健康医療データの蓄積には長い年月がかかる。また、医療に活用できるだけのデータ量を確保するためには、多くのユーザーにデバイスを使ってもらう必要もある。そこで、同社は現在、健康に対する意識が強く自分のパフォーマンスをさらに向上させたいと考える30代~40代へ向け、JINS MEMEの普及に力を入れている。実際に、現在のユーザーの8割近くを占めるコア層は、まさに同社がターゲットとした人々だという。

「自分の健康状態を計るという行為を文化にしたいと思っています。そして新しい文化というのは、自己改革・自己向上に貪欲なイノベーターから生まれます。そのような人たちが求めているのは、自分をもっと高めてくれる、あるいはもっと健康にしてくれるような、いわば“プラスサム”系のヘルスケアです。そこでわれわれもJINS MEMEをプラスサム系のヘルスケア・ツールと位置づけ、ユーザー拡大に取り組んでいます。そしてそれが最終的に、健康計測の文化を生んで膨大な健康医療データの蓄積が可能になれば、認知症防止という究極的なゴールにつながっていくのではないかと考えています」(井上氏)

オープンイノベーションで新たな発想を呼び込む

先に紹介したスマホアプリは、こうした考え方に基づいて開発されたものだ。ただ同社では、アプリやサービスをすべて自社で開発していこうとは考えていない。アプリ開発用のSDK(Software Development Kit)を公開し、ハッカソンを定期的に開催するなど、オープンイノベーションに積極的に取り組んでいるほか、人事サービス事業者と組み、サービスやソリューションの共創も進めている。


株式会社ジンズ JINS MEMEグループ 事業開発担当 井上一鷹氏

 「JINS MEMEのセンシングデータ活用の幅は、パーソナルなヘルスケアから、企業向けの大規模なものまで極めて広く、それをわれわれだけでカバーするのは不可能ですし、新たな発想も広がりません。ですから、JINS MEMEに興味を持ったイノベーティブで、先端的なアイデアのあるデベロッパーや組織の力を借りながら、アプリ、サービス、ソリューションを充実させることに注力しています」と、井上氏は話す。

また外部の力を借りることは、先に述べた「文化づくり」にも通じるという。

「JINS MEMEのような先進的デバイスを使って何かやろうとする人たちは、決まってイノベーターであり、まさにわれわれのターゲット層でもあります。彼らを巻き込み、要望に応えていくことが、健康を計測する文化の形成につながると考えています」(井上氏)

では、JINS MEMEのセンシングデータには、具体的にどのような利用価値があるのか。後編で紹介しよう。

この記事の後編を読む

注釈:
(*1)株式会社JINS(外部サイト)
(*2)JINS MEME(外部サイト)
(*3)JINS MEME OFFICE(外部サイト)
(*4)JINS MEME RUN(外部サイト)
(*5)JINS MEME TAIKAN(外部サイト)
(*6)JINS MEME DRIVE(外部サイト)

プロフィール

株式会社ジンズ JINS MEMEグループ 事業開発担当 井上 一鷹氏

慶応義塾大学理工学部卒業後、戦略コンサルティングファームに入社し、大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事。2012年にジェイアイエヌに入社。社長室、商品企画部グループマネジャー、R&D室マネジャーを経て、現在はJINS MEMEグループ事業開発を担当。

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