マーケティング戦略

マーケティングにおけるKPIの正解[前編]――適切な設定プロセスとは

記事内容の要約

  • マーケティングKPIはデジタル(オンライン)とリアル(オフライン)で分けて設定するものではない
  • 何をKPIにして良いのかわからないのは、数字に埋もれ「木を見て森を見ず」状態になっている
  • 本来KPIは、達成したい“Why”と、それを実現する“How”からKPIを考えるべきである

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KPI(Key Performance Indicator)というと、デジタルマーケティングにおいて真っ先に連想されるのは、PVやUU、CPA(顧客獲得単価)などの指標だ。ウェブ担当者にはなじみがあるが、マーケティング活動を検証するためのデータとして、その使いどころに悩む企業も多い。こうした課題に対してマーケターはどう取り組むべきか、数多くのコンサルティング経験を通して、さまざまな企業のマーケティング部門の実情をよく知る株式会社Nexal 代表取締役 上島千鶴氏に話を聞いた。

デジタルマーケティングのKPIはどうあるべきか?

マーケティングを進める際に、マーケターが必ず突き当たる課題がある。それは「KPIをどう設定するか」というものだ。近年は特に、デジタルマーケティングの隆盛もあり、ウェブやモバイルを意識したオンライン接点を考慮したデジタルマーケティング施策と、イベントや展示会などリアルな環境で展開するオフラインマーケティング施策が複雑に絡むなかで、どのように成果を測ればよいのか悩むマーケターも多い。

この課題に対し、上島氏は「KPIを設計する際には、デジタルとリアルを区別してはいけない」という。


Nexal株式会社 代表取締役 上島千鶴氏

「各社の状況を見ていると、デジタルマーケティングという言葉に含まれる意味合いは、大きく分けて2つあります。1つは『ネット広告やウェブサイトなどオンライン上の接点における最適化』、もう1つは『デジタルを活用してリアルも含めたマーケティング活動全体の最適化』です。いいかえると、前者の意味合いで使う場合はUX(ユーザーエクスペリエンス)、後者ではCX(カスタマーエクスペリエンス)の取り組みの一環として考える傾向もみられ、特に後者はデジタルを活用した『新たな仕組み』や『組織改革』につなげるケースが増えています。『市場を開拓する』という、マーケティングのそもそもの成り立ちを考えると、デジタルやリアルにおける個々の施策は手段でしかありません。そのため、KPIはマーケティング全体の中で考える必要があります」(上島氏)

数字は取れているのにKPIが設定できない理由

「従来は間接部門に位置づけられていたマーケティング部門は、数字に責任を持つ事業部から見るとはっきりとした目標数値を持っていないために、ともすれば“遊んでいる部門”といわれることもありました」(上島氏)

こうした認識を変えたのが、ウェブなどのデジタルテクノロジーだ。デジタルのメリットのひとつに、数値を取りやすいということがある。たとえば、マーケティング用のキャンペーンサイトを制作すれば、IPアドレスやアクセスログから、接触してきた企業名や個別訪問者数(UU)、閲覧履歴などの足あとがわかる。従来、その成果があまり数値化されてこなかった歴史から考えると、これはマーケティングにおける大きな変化である。

その一方、デメリットもある。それはデジタル領域において、ウェブサイトやネット広告で使う指標ばかりがKPIとして取り沙汰されることだ。PVやUUといった部分的な目標数値ばかりに目が向くと、本来、マーケティング全体の中で設定すべき、「売上額に対する貢献」や「顧客開拓に対する貢献」などゴールを示すような指標は見落とされてしまう。そればかりか、「現場は大量のデータに翻弄(ほんろう)され、その数値を使う本来の目的を見失っている状態です」と上島氏はいう。

一般的にウェブサイトのアクセス解析ツールで得られる指標は、PVやUUなどの「量を測る指標」のほか、初回訪問やリピート訪問など全体の中での「傾向指標」、前月比や前年同月比のように時間軸で経過を見る「比較指標」なども含めると、全部で600種類以上あるといわれている。さらにネット広告の効果測定に使われるCVR(コンバージョン率) やCPA(顧客獲得単価)も加わる。

マーケターの間では、これらの指標を最終的なマーケティングの目的達成にどう貢献しているかを見るのではなく、これらの指標をそのままKPIと認識する傾向がある。特にデジタルマーケティングという言葉が使われるようになって以来、あたかもデジタルがマーケティングの中心であるかのように、ウェブ用の指標をそのまま使い続けていることが混乱の源になっている。しかし、ウェブサイトの位置付けは、従来のような「企業や商品紹介サイト」から「顧客獲得の仕組み」、さらには「潜在顧客まで含めたコミュニケーションプラットフォーム」に大きくシフトしようとしている。そうなると、これらをそのままKPIとしてマネジメントへの報告に使うのは問題になる。

実際、日々何百もの指標をチェックして、翌日のアクションにつなげることには限界がある。上島氏は「事業評価で重要な指標は限られるため、各マネジメント層で見るべき指標は3〜5つに絞ることです」と勧める。

そもそもKPIとは何かを考える

上島氏は、マーケティングのKPIを考える前に、KPIそのものについてのきちんとした理解が必要だと述べる。

Nexal株式会社 代表取締役 上島千鶴氏

KPIとは事業評価指標のことである。事業とは企業が社会に提供する価値であって、具体的には「商品やサービスの形で提供され、対価を得る活動」を指す。その活動の中には、商品開発もあれば営業もあり、そしてマーケティングも含まれる。

こうした前提を踏まえ、上島氏はKPIの設計手順として「まず事業全体で何を達成したいのか“Why”を追求して最終的なゴールを明確にすることから始めます」と説明する。

問題になるケースは、「前期はこの施策で量を稼げたから、今期は20%増しでいこう」と先に数字を考えてしまうことだ。はじめに数字から入ってしまうと「最終的な成果を見ずに、数字さえ達成さえすればよい」という活動になり、本来の目的を見失ってしまう。KPIを設定するには、「最終的な目的やゴールは何か」、さらには「中間ゴールは最終目的と文脈がつながっているか」、その要因を明文化することに注力した方がよい。

最終ゴールが定義できれば、次にそれを達成するために必要な要因を “How”で分解して整理する。達成したい目的に対して、「どのようなプロセスを経るか」を洗い出すフェーズだ。 これについては、[後編]で紹介する各視点が必要になるが、ここまで整理してから初めて、「どのように評価するのか」、「どのような数字を見ておく必要があるのか」という検討に入ることができる。

指標を洗い出すときの注意点は、ツールやシステムで数値が抽出できるかどうかはいったん無視し、本来何が重要な指標かを徹底的に議論・整理することだという。実装や運用はその次に考えるべきものなのだ。

KPIを設定する際のフローを説明した図版

「KPIを整理すると、ゴール、要因、評価指標がすべてツリー構造で関連付けられます」(上島氏)

このとき、最終的に目指すべきゴールをKGI(Key Goal Indicators:重要目標達成指標)、要因の中でも特に重要なものをKFS(Key Factor for Success:重要成功要因)と呼ぶ。このKFSを評価する指標の中において非常に大切なものがKPIだ。

たとえば経営層が見たいのは「事業がうまくいっているか」を示す指標である。リソース配分の権限を持つ事業部マネジャーは活動単位の指標が必要になり、現場のマーケターが見るべき日々の指標はまた異なるものとなる。ただし、中には共通の指標が含まれることもある。そのため、マーケティングの前後を受け持つカスタマーサポートや営業を始め、事業部横断的なKPIの共有も意識した方が良い。

前述したように、これらの指標がすべてうまくつながるのが理想だが、現実にはなかなか難しい。現場のマーケターからすると、「そもそも、マーケティングのゴールや要因、評価指標は明確にしづらい」というのが本音ではないだろうか。たとえば営業なら「売り上げ」というわかりやすい数値があるが、マーケティング活動は数値で捉えにくいからである。ただ、「数値で取れないから曖昧なままでいい」という逆説的な思想は、そろそろ時代遅れになるだろう。数字で測れないものはマネジメントできないからだ。

「そもそも何のために、この施策や活動を行っているのか」という原点に立ち戻り、全社で俯瞰(ふかん)的な視点によるマーケティングの戦略マップを作成することが必要なのかもしれない。

後編では、実際にマーケティングのKPIを設定するために必要な視点について、またBtoB企業とBtoC企業におけるKPIの違いについて紹介する。

この記事の後編を読む

プロフィール

株式会社Nexal CEO 上島 千鶴氏

ネットとリアルの特性を生かした、次世代デジタルマーケティング戦略から具体的な実行支援まで、組織や階層間をつなぐ「ファシリテーション型コンサルティング」を提供する。大手企業やグローバル企業を中心に実績は130事業体を超え、業界や業種は多岐にわたる。著書に『マーケティングのKPI』(日経BP社刊)、『Web来訪者を顧客に育てるリードナーチャリング』(日経BPコンサルティング刊)など。

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