マーケティング戦略

マーケティングにおけるKPIの正解[後編]――KPIはこう設計する

記事内容の要約

  • マーケティングKPIの設定には「顧客」「販売プロセス」「売り上げ」の3つの視点が重要
  • 目標とするKPIが現実とかけ離れてしまうのは、企業目線で物事を捉えているため
  • BtoB、BtoCそれぞれで求められるKPIやマーケティングアプローチは異なる

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この記事の前編を読む

前編ではマーケティングKPIに関して、現場のマーケターの悩みから、本来のKPIはどうあるべきなのかを解説した。後編では、マーケティングKPIに必要な具体的な視点や、業種によるKPIの違いについて、株式会社Nexal 代表取締役上島千鶴氏に話を聞く。

マーケティングKPIに必要な視点

一口に「ゴールから分解してKPIを設定する」といっても、現実にはなかなか難しい。そこで、上島氏が提案するのは、バランススコアカード(BSC:Balanced Score Card) (*1)の考え方を手本にすることである。

BSCでは「顧客」「業務プロセス」「人材の学習と成長」「財務」など、4つの視点でKPIを設定する。一方で、マーケティングのKPI設定ではどのような視点になるのか。上島氏は見落としがちな3つの視点を挙げる。

1. 顧客視点

BtoCにおけるカスタマージャーニー(*2)やBtoBでのバイヤージャーニーを社内の共通認識として整理する企業は増えている。しかし、マーケティングにおけるコミュニケーションの対象とは、誰を指すのか、“Who”が曖昧になっているケースが多い。

たとえば、購買履歴データが取れるECサイトでは、購入回数や購買金額などRFM分析(*3)などで顧客をセグメント化できる。BtoB商材であれば、既存取引企業か新規か、または既存企業でも既存部門(既存商材)か、新規部門(新規商材)かなど、戦略や軸は違えどコミュニケーション対象の“Who” を定義することができ、マーケティング施策の目的も定まる。

しかし、自社で売り上げに直結しないオウンドメディアなどを立ち上げた場合、その活動目的が評価指標(KPI)と紐づかず、その成果をどう評価したらよいのか悩む企業が多い。特にマーケティング活動が短・中期的な事業貢献ではなく、長期的な視点で、「未来の個客を創造するためのコミュニケーションプラットフォーム」という位置付けの場合だ。

一例として、「オウンドメディアで顧客とのエンゲージメントを高める」という目的は明文化されていても、何をもって成果と見なすのか、どうやって評価するのかは曖昧というケースが挙げられる。仮に記事のPVが高いとしても、事業(売り上げ)に貢献しているのか数値で可視化できない場合や、明確な顧客像や読者が定義できず全方位型であれば、CSR(企業の社会的責任)やCSV(顧客共有価値)の取り組みとして位置付けた方が社内での合意は取りやすいだろう。

2. 販売(購買)プロセス全般への視点

まず、マーケティングにおける販売プロセスには、「売り手側」のプロセスと、「買い手側」のプロセスと2つがある。

BtoB商材の場合は、「売り手側」の視点として社内の業務プロセスにおきかえると分かりやすい。仮にマーケティング機能のゴールが、「営業部門に見込みの高いリードを引き渡すこと」であれば、最終的に契約(契約)に至るプロセスにおいて中間的な位置づけとなり、関与する他部門に対してどの程度貢献したのか、という視点で評価できる。

ただし、上記だけを考えると短期的な刈り取り目標になってしまうため、「買い手側」のプロセスにも指標が必要になる。BtoBのバイヤージャーニーで考えた場合、顧客セグメントの中でターゲットにしたい母数があるとする。その対象が今すぐに契約したいタイミングと合致すれば営業にリードを渡せるが、その前段階にいる対象が圧倒的に多いはずだ。顧客は常にジャーニー通りに動くとは限らないため、現時点でジャーニーの各段階に、どの程度の母数が存在するのか、これらの状況を捉える指標が重要である。

顧客のタイミング“When”を知るには、オンラインだけではデータが不足するため、オフラインで収集できるデータも活用するのが良いだろう。

3. 売り上げ視点

売り上げ視点で見れば、当然売上額や売上件数が指標となる。

しかし、一般的にはマーケティング機能自体が事業全体プロセスの一部分(中間点)に位置することが多いため、最終的な金額と直結しないケースがほとんどだ。BtoB商材の場合は、半年後や2年ごしの最終結果(受注)まで追って分析・評価している企業もいるが、一般的には半期・四半期単位で集計し、事業への貢献度という形で間接評価する。件数ではなく予測金額で換算されることが望ましい。

他方、中間プロセスが全く可視化できないBtoC商材の場合は、外部要因だけではなく売り上げと内部要因(各施策)の相関関係、さらには因果関係を前述のの顧客視点やプロセス視点で評価できるような仕組みが必要だ。

また、これらの指標を設定する場合、「1回で正解を出すことにこだわらないことも大切です」と上島氏はいう。日々運用しながら自社に最適なものになるように、改善を重ねていくことが肝要なのだ。

業種や顧客でKPIは変化する

では、BtoB企業とBtoC企業ではKPIが変わるのだろうか。

BtoB商材の場合は、対面での営業組織が提案活動や契約への手続きを行うことが多いため、その前工程であるマーケティング組織は、確度の高いリード(見込み客)を営業に渡せたか、予測受注金額がどの程度かで評価される。リード数か予測受注金額のどちらにするかは会社により異なる。

「最近では金額に換算して評価することが増えているように感じられます」(上島氏)

とはいえ、そこまで単純に評価できないのは、リードの質に問題があるためだ。実際、営業が作るリードの方が、マーケティング部門が営業側へ渡すリードより数が多く、受注につながるケースも多い。そのためマーケティングの貢献度が低く見えてしまうのだ。


株式会社Nexal 代表取締役 上島千鶴氏

そこでBtoBでは、マーケティング部門の一部を非対面折衝(コンタクトセンターまたはインサイドセールス)部隊に置き換え、顧客の状況を「オンライン行動やオフライン履歴などで前後の文脈を読み解いた」上で、確度の高いリードのみを営業に渡すような試みも増えてきた。また、営業組織が顧客セグメントの中で明確にターゲットとしている企業(アカウント)のみに、デジタル施策を含めたマーケティングリソースを集中投下する戦略も、一昨年から盛んに始まっている。後者の場合は、ターゲット企業の接触率や営業に渡すリードの件数だけでなく、そこから最終受注にどこまで結びついたかという成約率や、総合取引額、新規取引企業数が主なKPIになる。

これに対しBtoC企業がもっとも重視するのは消費者とのエンゲージメントだ。気軽にどこでも購入でき、簡単にブランドスイッチされる消費財の場合、BtoB企業に比べ顧客の顔が見えにくいため、常に移り変わる顧客の価値観や生活スタイルを理解することが重要だ。BtoB企業の名刺情報に相当する精度の高い個人のプロファイル情報を獲得するには、非常に高いハードルがある。新規登録キャンペーンなどの機会でもなければ、詳細なプロファイルを獲得することが難しい。

そこで今、BtoC企業が取り組んでいるのがDMP(Data Management Platform)の活用だ。膨大なプロファイルデータを持つ外部DMPを活用し、自社サイトやキャンペーンページにアクセスして来たユーザーの特性を、さまざまなデータでプロファイルし、マーケティングに活用している。

「先進的な企業は、社内に分散する顧客データを統合し、より詳細なプロファイルを生成することの重要性に気づいています。外部DMPと自社データを組み合わせた、独自のDMPの活用を検討する企業も増えています」(上島氏)

まずは自社の顧客像を明らかにし、既存のコア層と、今後ターゲットにしたい層へのアプローチを考え、どこに限られた予算を割くべきか、その優先順位を見極めることも必要だ。

BtoB(toC)企業におけるセールスパイプライン説明図(株式会社Nexal作成)

出典:株式会社Nexal

「最終的な受注や売り上げにつなげたいのは、BtoB/BtoCとも変わりません。ただしそこへ至るまでのアプローチとして、マーケティングプロセスに営業活動の一部を組み込むか、データを活用しながらPDCAを回していくかという違いがあります。その違いに応じてKPIを考える必要があります」(上島氏)

企業の事業貢献のためには何が必要で、その成功を判断する指標は何か――。

KPIとは突き詰めればこの一言に尽きるが、「正しいKPI」の定義もその設定も、試行錯誤の積み上げの中でできるものだ。デジタルでビジネススピードが上がったといわれる昨今、マーケターはすぐに効果や成果を期待しがちだが、まずは腰を据えて「自社のマーケティングKPI」を設定することからスタートする必要があるだろう。

注釈:
(*1)ロバート・S・キャプラン教授、コンサルタントのデビット・P・ノートン氏によって発表された業績評価システムで、「顧客」「業務プロセス」「成長と学習」「財務」という4つの視点で総合的に事業を評価する
(*2)顧客が、ある商品・サービスに興味を持ち、情報を集め、比較検討し、購入し、その後アフターサービスや関連商品の新たな顧客になるまでの一連のプロセスを指す
(*3)顧客を、購買行動の「最終購買日(Recency)」「購買回数(Frequency)」「購買金額(Monetary)」の指標で分析し、顧客を分類・選別すること

プロフィール

株式会社Nexal CEO 上島 千鶴氏

ネットとリアルの特性を生かした、次世代デジタルマーケティング戦略から具体的な実行支援まで、組織や階層間をつなぐ「ファシリテーション型コンサルティング」を提供する。大手企業やグローバル企業を中心に実績は130事業体を超え、業界や業種は多岐にわたる。著書に『マーケティングのKPI』(日経BP社刊)、『Web来訪者を顧客に育てるリードナーチャリング』(日経BPコンサルティング刊)など。

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