ビジネス創出

LIXILは「快適な住環境」をどのように実現するのか

  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

江東区にある一軒の住宅。この家は、「住生活の未来」を追求するLIXILが運営する研究施設だ。その目的はデータを活用してより快適な住環境を実現すること。安心・安全で快適な環境を作るに際し、住宅内外に設置された約250のセンサーを通じて得た施錠状態や温度、湿度、風向きなどのデータの活用事例を聞いた。

IoTが近づけた「住生活の未来」

江東区にある株式会社LIXILの巨大なビルの裏手にまわると、ひっそりとたたずむ一軒の家。外見は至って普通の一般住宅だが、ここはLIXILの追求する「住生活の未来」を研究する最先端の施設「U2-HomeⅡ(ユースクウェアホームツー)」だ。

LIXILが運営する研究施設「U2-HomeⅡ(ユースクウェアホームツー)」

LIXILが運営する研究施設「U2-HomeⅡ(ユースクウェアホームツー)」

インターホンを鳴らすと、株式会社LIXIL Technology Research本部 システム技術研究所グループリーダーの高田巖氏が出迎えてくれた。

家に入ると、LIXILの研究施設だということを忘れてしまいそうになるほど、“ごく普通の住宅”だと感じる。玄関の靴箱の上にはタブレットが置かれており、リビングにある大型テレビの隣にもタッチパネルディスプレイが設置されているものの、「住生活の未来」を研究しているというには、部屋の中に最新のセンサーや特別なIoT機器などは見当たらない。

「実は250個ものセンサーがありますが、見えないように工夫して設置しています。快適な生活を送るには、コンピューターを意識しないほうがいいですからね」(高田氏)


株式会社LIXIL Technology Research本部 システム技術研究所グループリーダー 高田巖氏

高田氏は、電動雨戸シャッターなどの電動建材の電装品開発・設計責任者を経て、2001年にホームネットワーク・未来住宅の研究・構想に着手。それから15年以上もの間、未来の住生活に関する研究を続けている。

「U2-HomeⅡの研究は、前身のU2-Homeから数えて8年目です。誰にとっても快適で安心な住環境を追求するために、センサーネットワークやデータ分析技術などを取り入れて、研究を通して得た知見や課題と向き合いながら、研究に取り組んでいます」(高田氏)

データでつくる快適な住宅

「快適な住環境」とは何か。よく耳にする言葉ではあるものの、その具体的な定義はあいまいであることが多い。高田氏は「快適」を創り出す要素を特定しようと研究を積み重ねた結果、「温熱」「空気」「光」「音」をコントロールすることにより住環境が向上するという考えに至った。

指標のひとつである「温熱環境の快適性」の例を、高田氏はU2-HomeⅡの間取り図をモニターに映し出して説明を始めた。

室内・室外の状況を把握できるモニター画面

室内・室外の状況を把握できるモニター画面

モニターに映る間取り図には、各部屋に赤や緑の数字が表示されており、この色と数字は、その部屋の“快適度”を表している。世界中の快適に関する知見を取り入れながら、部屋ごとの温度・湿度をベースに、さまざまな要素を加味した独自の指標で快適度を算出しており、緑なら快適の範囲内、赤や青は範囲外を示している。この算出方式はまだ研究途上で、数値が体感と合っているのかなどの体感評価を行い、精度を高めているそうだ。

このほかにも「音」でいえば、従来の住宅は「外部の音を遮断する」ことが基本だったが、U2-HomeⅡでは外の音を、生活シーンに合わせスピーカーを通して室内に取り込むことで、「朝、鳥の声を部屋に流す」ことや「台風が通り過ぎたか音で判断する」こともできるようにしている。住み心地のいい家のあり方はさまざまな角度で研究されているのだ。

あらゆる角度から生活を快適に

U2-HomeⅡでは、居住者が自らの意思でさまざまな情報を取得することが可能だ。たとえば、玄関にあるタブレットでは、家の中と外の温度差を確認できる。冬場に起こりがちな20度近い内外温度差は、高齢者や高血圧の人にとっては命取りにもなりかねないため、意外に重要な情報だといえる。また、紫外線量やPM2.5の量なども確認できるようにしているほか、インターネットを経由して取り込まれたオープンデータをもとに表示される天気予報を見て、玄関を出る直前に傘を持っていくかどうかを決めることも可能だ。

そして各部屋の窓や扉の施錠状況や水道の使用状況も、設置されたセンサーを通じて玄関のタブレットで確認できるようにしている。外出前の「あそこの鍵、閉め忘れていないかな?」「水、出しっぱなしにしていないかな?」という不安を解消できることだろう。いずれも、スマートフォンを取り出してまで調べることはしないが、あらかじめ生活空間に表示されていると生活に役立つ情報である。

玄関に設置されたタブレット

玄関に設置されたタブレット

さらにU2-HomeⅡでは、居住者が自らの意思で情報を取りに行けるだけでなく、家自体が積極的に情報を知らせてくれる機能の実証実験も進んでいる。たとえば、トイレの使用後に扉が開くまでの時間が長過ぎたときには、「トイレの中で誰かが倒れているかもしれない」と家が判断し、同居者が気付くように警告を出してくれる。また階段を上り下りする際に、手すりから手を放していて、上り下りの時間に異常があれば、階段から転げ落ちたと判断して救急連絡する仕組みも研究されている。

そのほかにも、屋根の上に設置されたセンサーによって風を感知して屋内と屋外の温度データなどを比較し、外のコンディションの方が良ければ、自動的に最適な場所の窓が開閉して、エアコンを使わずとも快適を維持してくれる。また、浴室のドアに取り付けられた背丈を判断するセンサーによって、小さな子供が1人でお風呂に入ったとわかれば、浴槽の湯を自動排水して事故を未然に防いでくれるなど、きめ細やかな配慮が施されている。

「これらは、設置されているセンサーを通じて得られる現在のデータや、居住者の蓄積された生活データなどを活用することで可能になります。今は研究段階ですが、いずれ一般家庭に取り入れられる際には、『住生活を快適にするためにはデータが役立つ』ことを実感してもらうことで、家に監視されているようなネガティブな感覚を生まないようにしたいと考えています」(高田氏)

IoTは手段

改めて部屋を見渡してみると、クローゼットの扉の上に、小さなセンサーがあった。

クローゼットに取り付けられたセンサー

クローゼットに取り付けられたセンサー(画面中央の黒いボックス)

センサーは黒く塗られ、クローゼットとなじんで目立たない。データを収集するだけの目的であれば、センサーをわざわざ隠さなくてもいいはずだ。しかし、「U2-HomeⅡ」では、センサーの最適な配置によってデータの誤差を小さくする工夫をすると同時に、人から見てできるだけセンサーを意識しなくて済むような工夫が施されているのである。

実は、U2-HomeⅡは決して昨今のIoTブームに乗って始まった研究ではなく、元となったコンセプトはIoTという言葉が浸透する以前、2005年当時に作られたものだという。家というのは何十年も住むものであることから、コンセプトは普遍的なものでなくてはならない。そのことは、以下にあげる5つの基本的な価値によって示されている。

・環境…………資源を最大に生かす。ずっと価値がある。
・安心・安全…いつでも安心できる。危機に強い。
・健康・快適…健康で長生きできる。生きがいが持てる。
・デザイン……自分でなんでもできる。美しく調和がある。
・ライフ………時間、空間を生み出す。どこでも豊かに暮らせる。

「必ずしもIoTにこだわっているわけではなく、このコンセプトを実現するための大事な技術としてIoTが位置付けられています。人の健康や安心、安全に関わる情報を生活シーンに合わせ居住者に伝えること、住環境を快適に保つことに主眼を置いています」(高田氏)


室内にいながら外気の風向きを確認できるパネル

“快適な住環境”の実現に向けて

高田氏によると、住生活のデータ活用を効果的にするためには、「どんな時に(状況データ)」「何をしたら(行動データ)」「どうなった(結果データ)」という3種のデータをそろえることが大事だという。これらのデータを時系列でひも付けし、データの変化や規則性などから相関関係を見いだし、人の行動パターンを事細かに読み解くことができれば、住生活におけるリスクの判定や設備の故障予知、居住者の行動予測などが将来的に可能となる。つまり、QOL(生活価値)の向上につなげられるのだ。

U2-HomeⅡ内の人の行動を捉えるだけではデータを集積しにくく、「研究所での行動」となると、どうしても自然な行動データとは差がでやすい。そこで、よりリアルな行動データを集めるために、現在、研究メンバーなど4名の自宅にもセンサーを設置してデータの収集を行っているという。

現時点では、取れる範囲でデータを掛け合わせて多変量解析をしながら、新しい気づきを得るために分析を進めているが、快適で安全な住環境を創出するために必要な3種のデータの中には、LIXILだけでは取れないデータも、多分に存在する。そのため、いずれは健康機器メーカーなどと協力してデータを相互利用することも視野に入れている。

高田氏は最後に、この研究への思いを改めて語ってくれた。

「今後、あらゆる住空間で個人識別が容易にできるようになれば、より役立つデータ活用もできると思います。しかし、そのために何かの機器を身につけて生活し続けてもらうというのは今の時点では現実的ではなく、解決すべき課題も多くあります。私たちはこれからも、“技術だけに依存しない快適な住環境の追求”について、常に先の未来を見据えながら、研究と啓発活動を行っていきます」(高田氏)

プロフィール

株式会社LIXIL Technology Research本部 システム技術研究所 グループリーダー 高田 巖氏

電動建材の電装品開発・設計責任者を経て、2001年よりホームネットワーク・未来住宅の研究・構想に着手。2009年より建材や住宅設備機器、生活家電やセンサーを連動させた生活価値(QOL)向上の実現に向け、LIXIL U2-Home、LIXIL U2-HomeⅡなどを手掛ける。

  • はてなブックマーク
  • follow us in feedly

この記事が気に入ったらいいねしよう!

「いいね」してInsight for Dの最新情報をチェック

マルチビッグデータの活用で潜在顧客の発掘から優良顧客の育成まで! Yahoo! JAPANのデータソリューションを詳しく見る

マルチビッグデータの活用で潜在顧客の発掘から優良顧客の育成まで! Yahoo! JAPANのデータソリューションを詳しく見る

Insight for Dの公式Facebookページ、Twitterでも最新情報や取材の様子を発信中。