マーケティング戦略

アウディが進める消費者視点の顧客体験[後編]――メディアミックスの限界を超える

記事内容の要約

  • カスタマージャーニーマップだけでは不十分。しかし必要
  • CxDは「タッチポイント」から「経験」への視座の転換を促す
  • ブランドトラッキングの便利な中間指標:ソーシャルリスニングと検索数
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この記事の前編を読む

消費者の1日の生活において、いつどういう場面で強いブランド体験が生まれるのかをおおよそ可視化できる「カスタマーエクスペリエンスダイアリー(CxD)」。前編では、その目的と描き方について話を聞いたが、カスタマーエクスペリエンスダイアリーは、消費者の行動プロセスを可視化するカスタマージャーニーマップと具体的に何が違うのか。カスタマーエクスペリエンスダイアリーを提唱するアウディ ジャパン株式会社 マーケティング本部 デジタル&CRMマネージャーの井上大輔氏に、エクスペリエンス視点に立った実際の手法について話を聞いた。

CxDは、カスタマージャーニーマップと何が違う?

――「カスタマーエクスペリエンスダイアリー(以下CxD)」の描き方と描くメリットをここまで伺いましたが、「カスタマージャーニーマップ」との違いについてもう少しお聞きします。カスタマージャーニーマップはタッチポイント視点、CxDはエクスペリエンス視点だ、とのことですが。

井上:はい。この2つは似ているように見えますが、考え方が異なります。カスタマージャーニーマップの描き方は、タッチポイント視点であり、企業が勝手にデザインしたものなんです。つまり消費者を起点にしていないので、恣意(しい)的になりがちです。

もちろんマーケティングのコミュニケーション戦略を立てるうえでは、カスタマージャーニーマップも「1. どのタイミングに」「2. 誰に」「3. 何をしてもらうか」というコンテクストを管理するためのツールとして必要不可欠です。しかしこれまでは、どういう態度変容と行動を起こしてもらうにはどのような強さのブランド体験がどのくらい必要なのかが見えませんでした。つまり、「3. 何をしてもらうか」に向けたアクションがはっきりしなかったのです。ここに光を当てるのがCxDです。

たとえば、カスタマージャーニーマップで、「1. ティーザー期に」「2. 周辺層を含めたあるターゲット層に」「3. 必要なレベルの認知を獲得する」、といったコンテクストを設計したなら、この3の部分を実現するためのメディアプランなどを、CxDで得たインサイトを元に構築すればいいのです。

従来は、CxDなどによるインサイトがなかったので、最後のプロセスは考えられずに、メディアプランナーの経験則に頼って大量のテレビCMを投下するというアクションになりがちでした。カスタマージャーニーマップでは、そのアクション内容だけが記載されることも多いと思います。

カスタマージャーニーマップとCxDの違いを説明する図。前者は、企業視点での発想となり、アウトプットは既存メディアを使ったメディアプランであり、キャンペーン単体で行うもの。後者は、顧客視点が起点となり、新規メディアの想像がアウトプット、そして長期のブランドアセット構築として行う。

――カスタマージャーニーマップは施策ごとに描くことが多いですよね。CxDはどういうときに描くのでしょうか。

井上:CxDは「タッチポイント視点からエクスペリエンス視点へ」と発想を転換して、新たなマインドセットを手に入れるためのフレームワークですから、カスタマージャーニーマップと違って、施策のたびに頻繁に描くものではありません。あとから振り返るようなものでもないし、これをやれば具体的なアクションがすぐさま見えてくるといったものとも違います。

実際にCxDを描いてみると、既存のメディアだけで提供できるブランド体験の限界を痛感することになります。しかし同時に、強いブランド体験をどういう場面でいつ生み出せるのかについて、非常に柔軟に考えられるようになるのです。つまり、消費者の心を動かすブランド体験を創出するために、本質的な取り組みを行えるようになっていくのです。

メディアの捉え方が変わったからこそ生まれた企画

――CxDのフレームワークを実際に使った成果などお聞かせいただけますか。

井上:まさにCxDによって、メディアの捉え方が変わった、という例があります。

私は今年発売される新車「Audi Q2」(*1)のマーケティングコミュニケーション全般を担当しているのですが、このAudi Q2には「全く新しい、既存のカテゴリーでは分類できない」クルマというコンセプトがあります。そこで従来のメディアに執着せずに型破りな体験を生み出すことを重視し、その結果生まれたのがラーメンで有名な一風堂さんとのコラボレーションフード「IPPUDO Q2」です。

New Food Challenge と称し、2017年4月5日~14日にかけて1日限定20食で提供したのですが、特別に開発した全粒粉の平打ち麺を使い、イチゴやブルーベリーなどのフルーツだけでなく、パクチー、チーズ、バルサミコ、チョコレートなどがトッピングされている、どう見てもラーメンではない新ジャンルのフードになっています。

一風堂とのコラボレーションフード「IPPUDO Q2」

食べるという行為には、誰かに話したくなるような強い体感がありますよね。イチゴがあしらわれたラーメン(のようなもの)、というのはビジュアルとしても強烈なので注意をひきますし、国民食であるラーメンをいじっているので、賛否両論ともに意見が生まれやすい。この食体験を通じて、このフードについて誰かが話をしたら、この新しいフードはメディアとなり、メッセージになる。CxDで得たインサイトを通じて、「分類できない」というコンセプトを認知してもらうための施策としては、単純なメディア投下よりこちらのほうが効果が高いと考えました。

カスタマーエクスペリエンス向上の評価指標は

――カスタマーエクスペリエンスを高めるための施策では、どういった評価指標を持つべきなのでしょうか。

井上:結局のところ、ブランド体験というものはどこまでいっても定量化はできません。成果はBTS(brand tracking survey)で答え合わせするしかないのですが、それでは施策効果がすぐには見えないため、途中で軌道修正もできません。

このようなときに役立つのが、日々追うことができる検索エンジンでの検索クエリー数とソーシャルメディアでの特定ワードの言及数です。たとえば純粋想起などと有意な相関性を持つワードをうまく設定してデータ取得すれば、中間指標として活用できます。

――最後に、カスタマーエクスペリエンス向上のため日々まい進しているデジタルマーケターに向けてアドバイスをお願いします。

井上:いまや、消費者の滞在している時間という観点で考えると、カスタマーエクスペリエンスが生まれる場の大半がデジタルです。しかし現場ではまだ、戦略をマス中心に考えることも多々あります。比喩的ではありますが、全マーケターが「与党はマスからデジタルになった」というマインドセットを持つべきだと伝えたいですね。そのうえでデジタルに強いマーケターは、与党としての責任を自覚して、率先してかじを切る覚悟と振る舞いを身につけるべきときが来ているのだと感じています。

注釈:
(*1)「Audi Q2」(外部サイト)

プロフィール

アウディ ジャパン株式会社 マーケティング本部 デジタル&CRMマネージャー 井上 大輔氏

Yahoo! JAPANプロデューサー、ニュージーランド航空オンラインセールス部長、LUX/Dove/Liptonなどを手がけるグローバルFMCG企業ユニリーバでのEC&デジタルマーケティングマネージャーを経て現職。業種や業界、企業の国籍をまたいだマーケティングの実務経験をもとに、IMC・ブランディング・ダイレクトレスポンスと幅広い領域を守備範囲とする。

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