ビジネス創出

トイレのタイミングを予測? 排泄検知の超音波データで世界を変える

記事内容の要約

  • 開発のきっかけは創業者の個人的な体験。クラウドファンディングでは想定を上回る反響を獲得
  • 排泄時間の予測には超音波による計測データを活用
  • デバイスを導入した介護施設では、利用者の対応に費やす時間が30%削減し、おむつの使用量も半分に削減したケースも
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高速道路で渋滞にはまってしまったとき、トイレを我慢してつらい思いをした方は多いのではないだろうか。そのようなとき、「あと○分で自分はトイレに行きたくなる」ということが事前にわかれば、休憩も計画的に取りやすくなり、苦しい思いをしなくてすむ。それを実現するのが、超音波データを使って排泄のタイミングを予測するウェアラブルデバイス「DFree(ディーフリー)」(*1)だ。開発元のトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社が2015年2月に会社を設立して以来、世界30カ国以上からひっきりなしに問い合わせが入ってくる状態が続いているという。DFreeがこんなにも注目を集める理由は、いったいどこにあるのだろうか。同社の代表取締役である中西敦士氏に話を聞いた。

自身の体験から生まれた排泄予知ウェアラブル「DFree」

「もうすぐ出るとわかっていれば、漏らさずにすんだはずなんですけどね」。排泄予知ウェアラブルデバイス「DFree(ディーフリー)」の開発元である、トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社代表取締役の中西敦士氏は、そういって笑った。実はDFree開発のきっかけは、3年半前、米国UC Berkeleyに留学中の中西氏自身が、路上で便失禁した経験にあるという。

「もうとにかく恥ずかしくて。それで、いつトイレに行きたくなるのかがわかるような機器が絶対にほしくなって開発を思い立ったのです。出発点は、自分自身のニーズですね(笑)」(中西氏)

中西氏は、さっそくクラウドファンディングサービスで開発資金の支援を募った。当初、自分以外の誰がほしがるのか正直わからなかったそうだが、結果として、目標金額を上回る約1270万円もの支援金が集まった。


トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 代表取締役 中西敦士氏

そのほかベンチャーキャピタルなどからの資金調達にも成功し、開発資金は集まったが、実際の開発には苦労を要した。排泄予測というのは、どうすれば可能になるのか――排泄に関するデータはほとんどなく、またどんなデータが必要なのかもよくわからないまま手探り状態で開発を進めていたという。
 
「排泄に失敗したからといって命にかかわらないですから、排泄に関する論文や研究調査というものがほとんどないんです。何もない状態からスタートしたので、仲間とともにとにかく地道にデータを蓄積しました。たとえば、『水を何ミリ飲んだ』、『何を食べた』、トイレに行くたびに『何ミリ排泄した』と、逐一データをとって、介護施設にも3カ月間泊まり込みで検証を繰り返して、2年半ほどの期間をデバイスの開発に費やしました」(中西氏)

介護業界からの想定以上のニーズ

中西氏の「自分がほしいから」がきっかけで生まれたDFreeだが、資金調達や開発の過程でわかったことは、DFreeは介護業界から大きなニーズがあるということだった。

「日本が超高齢社会に入り、大人用のおむつの売り上げが子供用のそれを上回ったというニュースは耳にしていましたが、介護分野からのニーズの大きさは想定以上でした」(中西氏)

中西氏は介護の現場が抱えていた課題を次のように語った。

「介護施設では2~3時間に1回、決まった時間にトイレに連れて行って排泄を促しますが、本来トイレに行きたくなるタイミングは、体調や状況によってバラバラなのが普通です。そのため、トイレに誘導しても排尿できない、ということが日々繰り返されています。しっかり尿がたまったタイミングで排泄しないと、要介護者は、次第に自分の尿意がわからなくなってきます。すると、漏らすのが怖くて頻繁にナースコールを押してしまい、飛んできた職員に『さっき行ったところじゃないですか』とたしなめられてしまう。この状態では、介護する方もされる方もお互いに不幸でしかありません」

では、DFreeを導入した介護施設では実際にどのような成果があったのだろうか。

まず、職員の介護の対応にかかる時間が30%削減されたことにより、排泄介護の負担が軽減された事例があったという。また、もらしてしまうおそれも少なくなるため、おむつの使用量が半分に減ったケースもあった。そしてなによりも、介護施設の利用者がトイレの悩みから解放されることで自信を取り戻し、イキイキしはじめるところに大きな価値があると中西氏はいう。

Dfreeの導入によって、介護にかかる時間が30%減、おむつの使用量が50%減となったケースもある

DFreeの仕組みと超音波データの価値

ところで、DFreeとは実際にはどのようなデバイスなのか。

DFreeは、超音波センサー部(下図、左側の楕円)と、Bluetoothの通信機能やバッテリー、回路基板が入った本体部(同右側)の、2つのパーツからできており、超音波センサーで取得したデータは、本体部によってサーバーにアップされる。

重さは約70g、大きさは手のひらサイズで、医療用のシリコンテープで下腹部に装着して使用する。そして超音波によって膀胱の大きさが計測され、膀胱が通常よりも大きくなっていれば尿がたまってきているということになり、そこから排泄のタイミングを計るという仕組みだ。

DFreeは、超音波センサー部と本体部の、2つのパーツからできている。

提供:トリプル・ダブリュー・ジャパン

超音波で計測した膀胱の状態は、Bluetoothを通じてDFreeのサーバーにデータとして蓄積・分析され、排泄のタイミングになると、DFreeと連携した各ユーザーのスマートデバイスのアプリにプッシュ通知が届くようになっている。

DFree使用の流れ

排泄のタイミングには個人差があるため、膀胱にたまった尿量のデータと排泄までの時間を関連づけるために最初に2〜7日ほどシステム側の学習期間が必要となるが、その間も利用者は基本的にはDFreeをつけておくだけでいいのだという。

予測の精度を高めるために、要介護度1〜5(*2)の200人の男女を対象とした実証実験も行った。「健常者ならほぼ正常にデータを取ることができますが、高齢者になると尿がたまらなくなる人もいるし、おなかの筋力がなくなってデバイスがすぐにずれてしまう人もいる。そうなると正確なデータが取れなくなってしまうのですが、全体的に見ると高齢者施設の約7割の人のデータは取ることができています。これであれば、精度を高めることは十分に可能です。現在の商品は排尿の予測だけなのですが、同様の原理で、来年には排便の予測にも対応していく予定です」(中西氏)

中西氏いわく、超音波というのは、体内の変化や異常を安価に検知できる唯一のものであり、そこから取得できるデータにはさまざまな可能性があるという。膀胱以外の内臓や、筋肉や脂肪の状態なども超音波データとして取得可能であり、このデータを活用すれば、たとえば「摂取したサプリメントはどの程度効いているのか」などもわかるかもしれない。今後の超音波データ活用の可能性に、中西氏は自信をのぞかせた。

排泄の超音波データで世界を変えたい

現状のDFreeは、期待する効果を得るためには身体に装着する際に正確性が求められるなど、一般的なユーザーが使いこなすにはやや難しい点がある。そのため、現在はまずBtoBのビジネスモデルとして、基本的な販売先を介護施設のような法人に限定しているという。

「今は、川崎市の介護施設で積極的に利用してもらっています。というのも、川崎市独自の、最適な福祉製品のあり方を示した『かわさき基準(KIS)』に認証されているので、川崎市の介護施設であれば、DFreeの導入に際して補助金が支給されるからです」(中西氏)

こうした自治体の支援制度が各地に広まれば、よりDFreeの普及はさらに広がっていくだろう。

中西氏はこう話す。「ゆくゆくはDFreeを改良し、一般向けにも販売していきたいと思っています。超音波データの活用は複雑なものではなく汎用性が高いので、要介護者だけでなく、リハビリ中の患者や、おむつの取れていない子供までを対象者に含めるのも、それほど難しいことではないと考えています」

ただ、課題がまったくないわけではない。

「現実問題として“スマートデバイスやWi-Fi環境がないと使えない”という制約があります。それを考えると、『田舎のおじいちゃんに送ってあげたい』という希望に応えるには、まだ少し時間がかかるかもしれません。そのためにも、訪問介護事業者やインフラ会社、地方自治体も含めて、きっちりとスクラムを組みながら、生活の質(QOL)を担保できる環境をつくりあげていく必要があると感じています」(中西氏)

DFreeは海外にも目を向けており、近々フランスでの販売もスタートする見通しだ。
すでに世界最大手の介護施設での実証実験も現地ではじまっており、サービス開始以降、海外からの引き合いも増えている。今後は、日本だけではなく欧州、米国、中国などの海外展開を加速させることで、排泄ケアのグローバルスタンダードを握りたいと中西氏は語る。

「介護者の負担を減らし、それを通じて、社会保障費全体を大きく削減していくことができたらと考えています。少し大げさな表現になってしまうかもしれませんが、DFree、そして超音波データには、それだけの可能性があると思っています」(中西氏)

注釈:
(*1)DFree(外部サイト)
(*2)介護保険制度のもとで、寝たきりや認知症などで介護が必要になった場合、どの程度の介護サービスを提供するか判断するために、厚生労働省令によって定められた区分。「要介護1」から「要介護5」まで5段階がある。

プロフィール

トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 代表取締役 中西 敦士氏

慶應義塾大学卒業後、コンサルティングファームでの新規事業開発支援を経て、JICAにてフィリピンへ派遣。フィリピン政府や大企業と連携し、村落開発プロジェクトを遂行。その後、留学のため渡米し、シリコンバレーのベンチャーキャピタルでのインターンを経て、当社を創業。

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