データ分析

ユーザーローカル伊藤氏が語る、分析への視点[後編]――分析に必要な2つの要素

記事内容の要約

  • スマートフォンとSNSの登場によってインターネットユーザーの行動が大きく変化
  • データ分析で大切なことは「変わらない基礎知識と変化する技術トレンド」の両方をおさえること
  • AIの活用によってデータの可視化だけでなく、その先の“答え”まで提供
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この記事の前編を読む

スマートフォンの登場やSNSの普及によって、インターネットの利用形態は大きく変わった。長年、データ分析ツールを通してインターネットの利用データを見続けてきた伊藤氏の目には、インターネットの利用動向の変化はどのように映っているのだろうか。さらに、データドリブンなマーケティング戦略がますます重要視されるいま、データ分析をする際におさえておくべきことや、ユーザーローカルとしての今後の展望なども含め、語ってもらった。

スマートフォンとSNSの登場で大きく変わったインターネット

――伊藤さんは、インターネットの利用動向データを長年見てきたと思うのですが、特に印象的な変化はなんでしょうか。

伊藤:やはりスマートフォンとSNSの登場は、非常に大きな転換点だったと思います。PCからのインターネットアクセスが中心だったころは、1つのセッションが比較的長く、ユーザーも1時間連続でコンテンツを見ているようなイメージがあったのですが、スマートフォンの場合はPCに比べてセッションが短く、その代わりに5分のアクセスを1日に何度も繰り返すようになっています。つまり、“1日に何度も細切れにアクセスする”という利用形態へと、ここ数年で変化したというわけです。

――いまでは当たり前の使い方ですが、まさにモバイルならではの特徴ですね。

伊藤:その通りです。SNSについても似たような傾向があって、1日分のコンテンツを一度にまとめて見るのではなく、朝、昼休み、夕方など、時間帯によって見られ方に特徴が出てきました。特に朝の7時台、昼の12時台~1時過ぎにトラフィックが伸びるケースが非常に多く、これは通勤中やランチ中に見るといった行動の結果でしょうね。

どの世代でもモバイルの利用者数が増加傾向にあるが、特に10代、20代では、その傾向が顕著に現れている

総務省情報通信政策研究所「平成27年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」より作成

メディアのコンテンツも即時性が重視される時代

――そのような変化は、分析ツールの開発にも影響を与えたのでしょうか。

伊藤:「リアルタイムでデータを見られるようにしてほしい」という要望をいただくようになりましたね。

PCが主体だったころのアクセス分析ツールは、数時間~1日単位でのデータ更新が一般的で、特に問題はなかったのですが、ユーザーのアクセス動向の変化に合わせて、それをリアルタイムに把握したいというニーズが増えたんです。もちろん、弊社のツールも必死で対応しました(笑)

――なるほど。PC基準のデータ更新サイクルでは、正しくユーザーインサイトを把握できないほど変化のスピードが速くなったということですね。

伊藤:そうです。しかもこの変化はウェブサイトの運営にも影響を与えていて、コンテンツにも、リアルタイム性が求められるようになっています。たとえばニュースサイトは、以前であればそれほどリアルタイム性は求められず、むしろ考察の深さが重視されていましたし、実際にそういった記事のほうがページビューは伸びる傾向にありました。

しかし、スマートフォンとSNSの時代になると、ニュースは速報性が高いほど、ページビューも増えるようになってきたのです。考察などの細かい部分よりも、最初に情報発信することが重要とされ、1秒でも早く公開するほうが読まれやすくシェアもされる。まさに秒単位での競争ですね。

――それに拍車をかけるかのように、新しい話題をいかに早くSNSでシェアできるかを競い合うユーザーもいます。

伊藤:皆が競争に巻き込まれている感じですね。でも私自身は、すべてのメディアが速さだけを競っているような状況が、必ずしもよいとは思っていません。読んでほしいターゲットに向けて、しっかり時間と手間をかけて制作した記事が評価されることもありますから。だからこそ、弊社が提供する「Media Insight」というツールには、メディアを運営する方に、速報性以外の部分でもコンテンツが評価されることをデータから気づいてほしいという思いもこめています。

「Media Insight」の画面
「Media Insight」では、SNSでの記事の拡散状況などがわかる

データ分析でおさえるべきは「不変の基礎知識と変化する技術トレンド」

――ビジネスにおいてデータドリブンであることの重要性が盛んに取り上げられるいま、データ分析をするうえで特におさえておくべきことは何でしょうか。

伊藤:理解しておいたほうがいい要素は2つあると思います。それは「統計的な要素」と「技術的な要素」です。

統計的な要素とは、簡単にいえば「相関係数がXXの場合は、AとBの関係性はどうなるか」というような、分析に関する根本的な理論や方程式のことです。これは5年や10年で変わるものではありません。一度理論を覚えればその先30年間は役立ちます。まず重要なのは、このような、データ処理の基礎となる考え方を理解することや数学的センスだと思います。

――不変の真理をおさえておくということでしょうか。

伊藤:それはちょっと大げさかもしれませんが(笑)、でも、ベースとして基礎を理解しておくことと数学的センスは大切です。

――では、もう1つの「技術的な要素」とは何でしょうか。

伊藤:一言でいえば、技術トレンドの変化です。たとえばデータ分析の技術であれば、5年程度でトレンドが変わります。最初の大きな変化は、MySQLやPostgreSQLなど、オープンソースの無料データベースが登場してきたころでした。そしてその後も着実にハードウエアやソフトウエアは進化を続けています。

いまではHadoop(*1)などのビッグデータ処理技術やデータ分析を高速に処理できるインメモリ技術などが普及して、その結果、データ保持コストや利用コストが低下しました。そうなると、費用対効果を考慮して保存すべきデータを厳選するという必要もなくなるので、いまではそもそもの生データから何かインサイトを発見しようという流れになっているわけです。

――エンジニアとしても、実装する機能やシステム構成についてまったく異なる発想が求められますね。

伊藤:はい。それまで正解とされていたことが、がらりと変わってしまうというのはありますね。最近では、データを人工知能(AI)で分析するのがトレンドになっていますが、これも大きな変化といえます。

このように技術トレンドは5年ぐらいで変わっていくものです。ですから、いまの技術で何ができるかを把握しておく必要があるし、今後大きなブレークスルーが起きる可能性にも注意を払うべきでしょう。分析方法も時代によって変化するということをしっかり認識しておくことが重要です。


株式会社ユーザーローカル 代表取締役社長 伊藤将雄氏

若者がつくる新しいサービスには常に注目

――ところで、ポストTwitterとの呼び声も高い、新しいSNS「マストドン」(*2)が注目を集めています。御社も、マストドンに特化した検索エンジンをいち早く提供しましたが、その理由はどこにあるのでしょうか。

伊藤:理由はいくつかあります。1つは、新しいSNSが登場したら、それがどういうものであれ、「早くからサービスを理解しておきたい」「データを蓄積しておきたい」という知的好奇心です。現段階で、マストドンがさらにはやるかどうか判断できるほどの材料はまだありません。実際、2017年4月中旬まではすごく伸びましたが、その後の1カ月ぐらいは落ち着いていますし、今後のことはまだわかりませんが、知ってはおきたい。

もう1つの理由は、私自身の、若い人がつくるサービスへの思い入れです(笑)。実は流行するサービスやソーシャルメディアは、20代半ばぐらいの若い人によってつくられることが多いのです。Facebookやmixiもそうですし、Yahoo!だってそうでした。マストドンの開発者であるオイゲン・ロッコさんも20代半ばです。私自身も「みんなの就職活動日記」をつくったのは22歳くらいでした。なので、若い人がつくるサービスには注目していますし、個人的に応援したいという思いがあるのです。

AIの活用で可視化の先にある“答え”まで提示

――では最後に、伊藤さん個人として、またユーザーローカルとして、今後のデータ分析動向についてどのような展望をお持ちですか?

伊藤:先ほどお話したAIに関連するのですが、いま取り組んでいるのは、AIを活用した生活者インサイトの発見です。データ分析を可視化するだけではなく、AIを使って、クライアント企業のサービスにもっとダイレクトに貢献できる、“答え”に近い生活者インサイトを見つけ出せるようにしたいと思っています。

もう1つは、画像や動画の分析です。Instagramには毎日膨大な画像や動画がアップされていますがそれらに何が写っているのか、データからどのような特徴や傾向が読み取れるのかを分析したいと考えています。

――そのような画像や動画の分析に対するニーズは大きいのでしょうか。

伊藤:最近では、生活者が投稿した動画や画像のなかに、自社製品がどのように写り込んでいるのかを気にする企業がすごく多いのですね。というのも、その画像や動画をみれば、人々の日常のなかで、自社製品がどのように使われているのか、素の状態でわかるわけですから。たとえば、投稿された写真に写っているビールがどこの銘柄なのか、わかるようにしてほしいといった要望もいただいています。

現在、そのためのディープラーニング技術を研究していて、実際に写真のなかにどういう人が何人写っているのかをトラッキングできるシステムを開発中です。テキスト分析よりもコストは高くなるので、手ごろな価格で提供できるまで時間がかかるとは思いますが、積極的に進めていきたいですね。

注釈:
(*1)「Hadoop」大規模データの分散処理を実現する、オープンソースのミドルウエア。多くの世界的なIT企業が利用している。
(*2)「マストドン」オープンソースによる、分散型SNS。ユーザーが独自にサーバーを立てることができる。

プロフィール

株式会社ユーザーローカル 代表取締役社長 伊藤 将雄氏

新卒で雑誌記者となったのち、楽天で新規事業開発を担当。2002年には「みんなの就職活動日記」を運営する、みんなの就職株式会社代表取締役に就任。その後、早稲田大学大学院でのデータ分析に関する研究をもとに、ユーザーローカルを設立。2008年末からデータ分析事業を行う。

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