データ分析

アナリスト×アナウンサー対談――勝たせるデータ、感動させるデータ

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 2012年ロンドン五輪――女子バレーボール日本代表は、準々決勝で中国を破り24年ぶりにベスト4へ進出。最終的に3位決定戦で韓国に勝利し、オリンピックでは28年ぶりのメダルを獲得した。この躍進の影には、チームの戦略づくりや選手強化・育成に貢献するために膨大なプレーデータを収集・分析するデータアナリストの存在がある。

 一方で、同じく膨大なスポーツのデータを、アナリストとは異なるアプローチで活用する者がいる。放送を通して視聴者にプレーの面白さや迫力を伝えるスポーツアナウンサーだ。

 今回は、長年全日本シニア女子チームのチーフアナリストとして活躍し、日本スポーツアナリスト協会代表理事を務める渡辺啓太氏と、スポーツアナウンサーとしてバレーボール実況の機会が多く、ロンドン五輪の試合も実況したフジテレビジョン 編成局アナウンス室 副部長 竹下陽平氏の対談から、スポーツデータ活用に対するそれぞれの着眼点に迫りたい。


左:渡辺啓太氏 右:竹下陽平氏

 スポーツアナリストの渡辺氏と、スポーツアナウンサーの竹下氏。これまで解説者と実況担当という立場で会うことはあったが、お互いの仕事についてじっくり話をしたことはないそうだ。それぞれ、バレーボールにおけるデータ活用をどのような感覚でとらえているのだろうか。

渡辺:データで試合の流れを予測して戦略を立てるのですが、想定した通りの試合の流れになることもあれば、そうならないこともあります。データから『こういう戦略で勝負したほうがいい』と導き出したひとつの結論が、必ずしも試合でそのままうまく機能するとは限りません。筋書きも台本もないものに対してデータでアプローチするのは、だからこそ面白いという見方もできます。

竹下:データに向き合うと何かしら発見がある。そこに面白みがありますね。たとえば、強烈なスパイクで知られる海外の選手でも、データによると、得点数だけでなくミスの数も多いということがわかる。それを知っていると、実況するときに『(その時点で日本が負けていても)試合の行く末はまだ分かりません』と自信を持って言えますし、その選手がミスし始めたら『これから日本が波に乗ってきます』とチャンスの機運をきちんと捉えられる。こうした発言が実際の試合展開にきれいにはまったときは、気持ちいいですね。


渡辺啓太氏

 渡辺氏が率いるスポーツアナリストの役割は、「選手の評価や戦略づくりに生かせるデータ」を収集・分析することだ。試合では、サーブから得点まで、ボールが動いている間の選手のプレーを全て記録。それらをデータ化して分析する。また、試合中の各局面で相手の出方を分析し、どんな戦略を選んできたのか、想定していない展開になったら何が原因であるかなど、常にデータに目を光らせている。さらに試合中の記録だけでなく、監督の記者会見や選手のインタビューといったテキストの情報も収集・分析しているという。


竹下陽平氏

 一方、スポーツアナウンサーは、実況を担当する大会が決まると、対戦国チームについて国際バレーボール連盟(FIVB)の公式サイトから、過去の大会におけるそのチームの試合結果や選手個々のサーブ/スパイク決定率といった戦力データを収集し、整理する。なかでもミスの少なさを表すのに近年よく用いられる評価指標「効果率」は、収集したデータをもとに計算する必要がある。竹下氏は自らFIVBのデータから必要な数値を抜粋し、算出しているそうだ。

 実況におけるデータ活用の特徴は、「人物像を描き出す」ことにある。たとえば1人の選手について、公式戦初出場から現在までの履歴を調べて変化を追うこと。他国との試合であまり活躍していなくても対日本戦だけチーム最多得点を挙げる選手がいれば、「日本キラー」と名付けることもできる。つまり、細かなデータによって選手の個性や特徴を立体的にとらえ、そして、実況に生かすのだ。

 竹下氏は、他の実況や通常の業務をこなしながら、日本代表チームの練習や合宿にも足しげく通い、監督やコーチの心境、選手の大会にかける決意や思いなど、選手や関係者の内面に迫る取材も重ねる。試合の前日、こうして集めた膨大な情報の中から本当に必要だと思うものをピックアップし、各チームに関するデータは、それぞれA4サイズ1枚の資料にまとめるそうだ。


竹下氏が中継のために用意した資料。A4サイズに6ポイントの文字でびっしり書き込まれているが、その土台には削られた膨大な情報がある

データ活用における意外な共通点

 両者ともに、データが仕事の足元を固める重要な要素となっているが、その集め方やまとめ方、アウトプットの方法について、どのように取り組んでいるのか。話を聞くといくつか共通点がみえてきた。

渡辺:アナウンサーさんは、試合で何かが起きた時に、そのプレーに合う表現・言葉をすぐに引き出せるところがすごいですよね。念入りに情報収集した賜物でしょうか。

竹下:資料を作って持ち込んではいますが、取材やデータ収集の段階で既にほとんどの内容が頭に入っています。そのため、試合中に資料に目を落とすこともあまりなく、細かい数字を忘れたときにたまに確認するくらいですね。他人が作った資料を渡されても使えません。インプットとアウトプットを自分自身ですることが大事です。

渡辺:インプットは自分で、というのは私も同じ考えです。たとえば海外チームから情報を提供されても怖くて使えないですから。自分たちで1からビデオチェックしてデータを収集するようにします。あと、選手の成長のためにも『インプットは自分でしよう』と常に伝えています。そのため、チームミーティングなどで対戦チームの情報を紙1枚にまとめて選手に渡すのですが、あえて空欄を用意しておき、選手自身が必要だと思ったことを記入してもらうようにしています。

 目的は違えど、両者ともに「情報をインプットする」ことを重視している。また、プレーの記録から得られる数値のみでなく、選手・監督の発言やプロフィールから得られるテキストベースのデータに重きを置いている点も共通している。

 スポーツは客観的なデータだけでなく、情緒面の情報も重要である。アナリストであれば選手の心理を尊重したうえでデータを活用することもあり、アナウンサーであれば『選手がどんな思いで日の丸を背負って戦っているのか』という気持ちの面も視聴者に伝える。数値データだけでは見えてこない、選手の考え方やバックグラウンドも、スポーツを形作る要素として軽視できない。

 もう一つ、共通するキーワードに挙がったのが「信頼関係」だ。

渡辺:先ほどお話ししたように、データのインプットは自ら行うようにしていますが、それは選手や監督の信頼を得るためでもあるのです。“発見”の出発点であるデータ自体の信頼性が崩れてしまうと、その後のプロセスは全て意味がなくなってしまいますから。それは、間違った情報を渡して選手を裏切ることを意味してしまいます。

竹下:ビジネスでいえば、渡辺さんは監督や選手たちというクライアントに信頼される、マーケティング会社のような存在ですね。

渡辺:そうかもしれません。クライアントとの信頼関係が大事だから、練習の場にも積極的に出て行き、ボール拾いもします。

竹下:私も、バレーボールだけでなく柔道でも野球でも、足しげく現場に通って信頼関係を築くのはとても重要だと考えています。信頼関係がないと取材をしても通り一遍の話しかしてもらえません。アナウンサーの技量の半分くらいはそこにあるかもしれません。


「勝つため」と「伝えるため」――データ活用における違い

 両者の間で、データの使い方に明確な違いが現れるのが、試合の現場だ。

 渡辺氏の場合、データ活用の目的は「勝つ」ことだ。試合でセットを取られればその原因をデータに求めて立て直しの道筋を探る。試合に勝てばその理由をデータから検証し、次の戦略に生かす。

渡辺:数値で試合傾向の全てを把握しています。相手チームがどういう戦略でくるのか、複数のパターンを予想したのなら、ローテーションの1周目、もしくはファーストテクニカルタイムアウト(どちらかのチームが8点先取した時)までを見て、どの戦略パターンできたのか判断します。戦略を判断する分岐ポイントのようなものをチェック項目として用意しておいて、そのチェック項目と実際の試合内容を見比べる。今日の動向はどうなのか、何か違うことが起きていないか、と危機管理を行います。

 一方、竹下氏は「試合の面白さを伝える」ためにデータを生かす。「日本キラー」とキャッチフレーズをつけた選手が、いま実際に何ポイント取ったのか? セットごとに調子を上げてきたエースのスパイク効果率に変化は起きているのか? 数値を根拠に実況することで、一つひとつのプレーの意味を分かりやすく伝え、1点の重さや感動を視聴者に届けるのだ。

竹下:ロンドン五輪の前にオリンピックの過去の結果を調べたら、日本は中国と5回対戦して全てストレート負け。1セットも取ったことがなかったんです。アナウンサーとして伝えるのは、『日本がこの準々決勝を乗り越えるには、歴史的な勝利が必要になる』ということでした。そのコメントが試合に勝った時の価値を格段に上げることができる、といった物語をイメージしているのです。

“戦略”と“感動”を裏付ける「慎重さ」

 データ活用の仕方は異なれど、データを介してバレーと向き合う両者の姿勢には、どこか似通った部分が感じられる。竹下氏はそれを「臆病」という言葉で表現した。

竹下:渡辺さん、怖がりですか? 私はそうなんです。知らないことがあるのが怖いからこそ、できるだけ情報を自分のなかに持っておきたいんです。

渡辺:その通りかも(笑)。今は必要ないデータでも、タイミングによっては『取っておいて良かった!』と思うこともあります。明確な目的がなくても、その情報がいつ必要になるか分からない、だからこそ、私は基本的に可能な限りデータを蓄積しています。

 この場合の臆病さはむしろ「慎重さ」と言いかえられるだろう。勝利につながる戦略づくりとプレーの感動を伝える実況という形で、バレーボールにおける立場や役割は違うが、両者の姿勢はそれぞれのプロフェッショナリズムを強固に裏付けている。

プロフィール

日本スポーツアナリスト協会代表理事 渡辺 啓太氏

株式会社フジテレビジョン 編成局アナウンス室 副部長 竹下 陽平氏

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