マーケティング戦略

sansanは、なぜ今オフラインマーケティングに注力するのか?

記事内容の要約

  • テレビCMが反響を呼び、問い合わせが増加。1対Nの営業機会をつくるためにオフライン施策を開始
  • ニーズが顕在化していない見込み客に出会うためにオフライン施策を強化
  • 自由な発想でセミナーを企画し、見込み客のリアルな課題を知ることによって、受注率の向上につなげている
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「誰か知り合いはいないのか!?」――営業先との人脈について部下をにらみつける強面の管理職が、あれこれとやりとりの末、すねるように「それさぁ、早く言ってよー」とボヤくテレビCMを見たことはあるだろうか。これは、法人向けにクラウド型の名刺管理・共有サービスを展開するsansan株式会社(*1)のCMだ。名刺という、人と人とのつながりの証しを企業の資産に変えるためのクラウドサービスを提供する同社は、自社のマーケティングについては、オンラインだけでなくオフラインでの施策を非常に大切にしているという。クラウドサービスを提供する企業が、あえてオンラインにしぼらず、オフラインによる営業アプローチにも注力することには、どのような狙いがあるのか。同社の担当者に話を聞いた。

名刺を企業の資産に変える

「名刺を企業の資産に変える」。この発想は、sansan株式会社の創業者であり、代表取締役を務める寺田親弘氏が、商社に勤めていたときに何度も味わった苦い経験から生まれたという。まさに冒頭に紹介したCMの「それさぁ、早く言ってよー」という状況が頻発していたわけだ。

「それさぁ、早く言ってよー」というセリフが話題となったCM

話題となったsansanのCM

もし社内の人間が持っているそれぞれの人脈が可視化・共有されたら、このような問題は発生しないはず――そう考えた寺田氏が手がけたのが、名刺情報をデジタル化して社内で共有するサービスだった。1枚の紙である名刺をデジタルデータへ変換して社内で共有し、組織内でその人脈を活用できるようにする。名刺を企業の資産として管理するのだ。

自分が実際の名刺を持っていなくても、名刺データは更新されていくので、新しい情報を確認できる

sansanの画面

使い方はこうだ。まず名刺を専用端末でスキャンするか、もしくはスマホアプリで読み取ると、名刺画像がsansanのサーバーに送られる。その情報を独自のオペレーションシステムで正確にデータ化する。人物IDによって同一人物の名刺が管理されるため、昇進や転職といった経歴を時系列で管理できる。

また、APIによって営業支援ツールやマーケティングオートメーション(MA)(*2)ツールなどと連携すれば、網羅的で正確な名刺情報を貴重なリードとして役立てられるようになるのだ。

sansan流オフラインマーケティング

デジタル化された名刺情報を活用するためのクラウドサービスを提供する企業sansanはアナログのオフラインマーケティングも重視している。

その理由を、同社のsansan事業部マーケティング部企画グループマネジャーの渥美裕之氏はこう語る。

「3年間、責任者としてオンライン・オフラインともにマーケティングに取り組んできましたが、そこから見えてきたものとして、オンラインにおける情報取得のイニシアチブは、サイトを訪れたお客さまが握っているということがあります。そのため、私たちが届けたいメッセージを100%届けることは不可能で、サービス内容への理解が不十分だったり、誤解したりした状態でサイトを離脱してしまう人も少なからずいます。離脱原因はさまざまですが、ここにオンラインの情報メディアの限界があると思います。その点、オフラインの施策、特にイベント施策であれば、私たちの伝えたいサービスの価値を余すことなく伝えられます。また当然ですが、オンラインではアプローチできない層も多く存在します。BtoB市場、特に大企業のキーマン(決裁者)に接触する場合は、オフラインでアプローチしたほうがよいケースも多々あります」


sansan株式会社 sansan事業部 マーケティング部 企画グループマネジャー  渥美裕之氏

オフライン施策のなかでも特に注力しているのがセミナーだという。集客の目的や対象となる見込み客に応じて以下の3種類のセミナーを用意している。

  1. 自社のサービスを紹介する自社主催セミナー
  2. ほかのBtoB企業と組んで、トレンドにあったテーマを一気通貫のストーリーで展開する共催セミナー
  3. 各業界の著名人をゲストに招き、最先端の情報を発信するゲストセミナー

セミナーに注力するようになったのは、3~4年前からのことだ。冒頭に紹介したテレビCMによる反響が大きく、1対1で商談を行う営業リソースが足りなくなったことがきっかけだったという。1対Nの構図をつくり、効率よく営業活動につなげるのが狙いだった。

「セミナーの成果として最も重視しているのは、来場者の満足度です。次いで、結果的に受注につながるパスを営業に渡せているかどうか。そのため、受注につながるダイレクトパスにならないケースもあるのですが、基本は受注というゴールから逆算してセミナーを設計しています」(渥美氏)

sansanは、市場すらなかった状態から『クラウド名刺管理』というサービスを開始して成長を続けてきた。今では導入社数が6000社を越えるそうだが、今後もさらなる成長を目指すためには、ニーズが顕在化していない見込み客に向けて、自社サービスの価値を知ってもらえる機会をいかに創出できるかが重要だと語った。

「マーケターの予測する見込み客の課題は、実際の課題とはギャップがあります。オフラインで実際に会って話を交わすことで、彼らが課題に感じていること、もしくは、本来は課題であるはずなのに、課題として気づけていないものを知ることができます。この『生の声を聞けること』にオフラインマーケティングの価値を感じています」(渥美氏)

名刺データを生かしたセミナー集客法

イベント・セミナー施策は、常に集客問題がつきまとう。見込み客に、物理的に会場まで足を運んでもらうという高いハードルが存在するからだ。同社は、ニーズが顕在化していない見込み客に出会うため、多種多様なセミナーテーマを用意している。

その点について、渥美氏はこう語る。

「自社サービスとテーマの関係が遠いほど、潜在層にアプローチしやすいですが、逆に受注に結びつける難易度は高くなり時間がかかります。時間もリソースも有限なのでバランスが難しいのですが、丁寧に計画してから実行に移し100点を狙うより、即実行して改善しながら100点に近づけるスタイルにしています。そもそも、実行してみて初めて“100点”自体が何かに気づくことも多々あります」

そして、次のように続けた。

「これまで開催したセミナーのテーマは、BtoBを前提としながら、働き方改革、イノベーション、人工知能(AI)、Fintech、デジタルトランスフォーメーションなど多岐にわたります。一見、名刺管理サービスとは関係ないテーマだと思われるかもしれませんが、弊社のようなプラットフォームサービスはどのような企業にとっても価値を提供できるため、自然にサービスの価値とつながります。

見込み客の興味・関心の態度変容を見ながら、どのタイミングでサービスの価値を交差させると、営業が心地のよいコミュニケーションがとれるのかを見ています。従って、見込み客とこれまでどのようなやりとりをしてきたのか、マーケターのみならず関わる全員が全体像を俯瞰(ふかん)して見られるように情報共有しています」(渥美氏)

幅広いテーマに加え、同社は、sansanと連携したMAツールを利用し、セミナーテーマに沿うように集客対象をセグメントしたうえでメールを配信して集客を行っているという。

「過去に、当社のセミナーやイベント、展示会に参加したことがあるか否か、あるとすればどのようなものに参加したのかが一覧でわかるようにしています。受注確度が高いと見込まれるお客さまであれば自動でインサイドセールスに割り振られるようにしたり、お客さまそれぞれの行動や登録情報に合わせて、事前・事後でアクションを起こしてもらうためのメールが飛ぶように設定したりして、やみくもではない、効率的な受注につながるようにしています」と語るのは、マーケティング部兼コンテンツ企画グループの北口理人氏だ。


sansan株式会社 sansan事業部 マーケティング部兼コンテンツ企画グループ 北口理人氏

クレンジングされた情報で一人ひとりを丁寧にナーチャリングしているからこそ、同一人物に同じメールが複数回届いてしまったり、あるいは見込み客が関心のないイベントの案内を送ってしまい、その結果エンゲージメントを下げたりするといったミスも起きにくい。

とはいえ、見込み客の母数が名刺データである以上、頭打ちになることはないのだろうか。

「イベント・セミナー施策の集客対象には、オフライン施策で名刺を獲得できた見込み客だけではなく、何年も前にオンラインからメールアドレスなどを取得した見込み客も含まれています。当時は受注につながらなかったとしても、適切なタイミングで適切なアプローチをすれば、再度サービスに興味を持ってくれる可能性は十分あります。実際に、数年前に一度だけ商談した見込み客がセミナーに参加し、その後の受注につながったケースもあります。定期的に出展する展示会を含め、社内のすべての名刺がデータベース化され、MAツールと連携しているので、集客に困ることはないと思います」(北口氏)

実験して学習する“テスト・アンド・ラーン”こそがイベントの成功を生む

1回のセミナーにおける来場者との接触機会は、来場前、当日、来場後と、大きく3つあるが、sansanは常にそれらの改善を欠かさない。

来場前に実施するリマインドコールでは、常にコール時刻やトークスクリプトを改善している。来場前に本人と話している場合とそうでない場合とでは圧倒的に当日のコミュニケーションの質が変わるからだ。

セミナー当日は、最後まで来場者に受講してもらうために、どのような内容と状況を用意すればよいかを考える。最近では、受講中にアンケート集計が行えるツールを導入し、数百人にリモコンを配布した参加型セミナーも実施している。ちなみに15分ごとに質問をはさむことで満足度は変わる、などの新しい傾向も見えはじめているそうだ。

セミナー終了後に実施するアンケートの集計結果は、インサイドセールスに渡され、その後の電話フォローに生かされる。そのため、セミナー後のことまで意識してアンケートを実施しているという。


多くの来場者でにぎわうセミナー

「セミナーは、来場者の態度変容につながる“見るべき指標”が多く存在します。テーマや、コンテンツ、プログラムの進行はもちろんのこと、アクセスのよい会場、来場者と接触しやすい会場導線、来場しやすい曜日・時間帯など、準備段階から見るべき指標の改善を繰り返しています。地道な取り組みですが、来場者の喜びの声と会社の売り上げ、ブランドにも大きく貢献できていることが私たちチームのモチベーションになっています。

sansanのミッションでもある“ビジネスの出会いを企業の資産に変え、働き方を革新する”ために、日本企業で働く方々がもっとオープンにいろいろな方と交流を楽しめる機会をつくりたいと考えています」(渥美氏)

今後はさらにビアガーデンや屋形船など会場形態にとらわれないセミナーや、1000名以上の集客を見込む大型セミナーを多数開催していくそうだ。名刺を企業の資産に変えるため、sansanのオフラインマーケティングへの取り組みは進化を続けていく。

注釈:
(*1)sansan株式会社(外部サイト)
(*2)「MA」Marketing Automationの略語。メール配信など、マーケティングの各プロセスで実施するアクションを自動化するツール

プロフィール

sansan株式会社 sansan事業部 マーケティング部 企画グループマネジャー 渥美 裕之氏

大学卒業後、Webコンサルタントとして中小・大企業のWeb戦略を支援。2013年sansan株式会社へ入社。以来、マーケティング部オンライン/オフラインチームの責任者として名刺管理市場の価値創造に従事し会社の成長に大きく貢献。現在は次世代マーケティング戦略を実行中。

sansan株式会社 sansan事業部 マーケティング部兼コンテンツ企画グループ 北口 理人氏

2016年新卒入社。インターン時代から地方のオフラインマーケティングやスマホアプリのプロモーションチームを立ち上げたのち、オンライン施策全体の戦略を担当。現在はsansanをビジネスインフラにすべく、マス・オンライン・オフラインを横断した顧客接点の向上に従事。

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