組織づくり・人材育成

中川政七商店から学ぶ、ビジョンを体現したマーケティングとは[後編]

記事内容の要約

  • オンライン・オフラインそれぞれの強みを生かしたコンテンツにより顧客のブランド体験を促進
  • 現場までビジョンを浸透させるために「解釈がばらつきやすい用語」を社内で再定義
  • ビジョンにもとづき、業務は「改善7割・革新3割」で
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この記事の前編を読む

中川政七商店のCDOに就任し、同社ならではのオムニチャネルの在るべき姿を模索している緒方恵氏。データドリブンでありながらも“お客さま”を主語にしたマーケティング戦略に向けて、同氏が目下取り組んでいる施策とは? 緒方氏の考えを聞いた。

2017年のテーマは「コンテンツファースト」

オムニチャネルを成功させるための策として、オフラインとオンラインの顧客IDを統合し、データ活用を行うのはよくある話だ。しかし、データ取得に躍起になった結果、マーケティング施策を考えるうえでの主語が“お客さま”ではなくなってしまっては本末転倒だ。その危険を感じた緒方氏は、分析ツールに投資するのではなく、コンテンツの制作に投資し、それを最適なタッチポイントに落とし込んでいくほうが先なのではないかと考えたという。

「リアル店舗とネットストアには、それぞれ強みと弱みがあります。それらを整理して、互いの弱みを補完しあうやり方を考えて、ネットとリアルそれぞれで提供するブランド体験の足並みをそろえたいと思っています。たとえば、鍋を売るときに、リアル店舗では鍋を使って料理をしているシーンは見せられませんが、ネットストアなら動画で見せることができる。その動画を店舗でも活用すれば、接客を拡張できますよね。僕らが売りたいのは、鍋そのものではなく、鍋によって生まれるおいしい料理や家族団欒(だんらん)といった価値です。鍋を使うシーンをよりリアルにイメージしてもらうことは、購入いただくうえでも重要になりますしね」(緒方氏)

そんな緒方氏が手がけたのが中川政七商店のメディアサイト「さんち 〜工芸と探訪〜」(*1)だ。工芸の魅力を伝えるために、全国の工芸産地に行きたくなるようなオリジナルコンテンツを毎日届けている。「さんち 〜工芸と探訪〜」はスマホアプリ版「さんちの手帖」(*2)も用意されており、スマホの可能性を突き詰めたいと考える緒方氏の想いが詰まった秀逸な仕上がりとなっている。


「さんちの手帖」アプリのスクリーンショット

「『スマホはセッションを稼ぐけど、コンバージョンが悪い』とよく言われますが、それはスマホの最適化に向き合っていないからだと思いますね。僕らのようなモノづくりの会社からすると、ウェブのコンテンツは接客そのものです。コンテンツをおろそかにして、表面のデザインや機能だけを追求するのは、ちょっと違うのではないかと思っています」

ビジョンに基づくマーケティングを実践する組織とは

緒方氏が進める社内向けの取り組みとして“ことば化”というものがある。デジタルマーケティングの用語は横文字が多く、マーケティング担当者以外にはピンと来ないことが多い。同様に、日頃何気なく使っていることばでも、立場が異なれば違う意味で使用されているケースも散見される。

そこでリテラシーの差によって生じる解釈のブレやことばの曖昧さを解消するために、ことばの一つ一つを厳格に定義していくことが“ことば化”だ。たとえば、「コンバージョン」ではなく「お買い上げ率」といった店舗の人でもわかることばに置き換える。あるいは「既存店」と一口に言っても、「開店してから1年経った店」を指すのか「オープンしている店はすべて」なのか。人の認識によって議論がかみ合わなくなることばは、意外と多い。


株式会社中川政七商店 執行役員 Chief Digital Officer デジタルコミュニケーション部 部長 緒方 恵氏

「“ことば化”には、ことばに厳格性を持たせると同時に、拡張性を持たせる意味もあります。例えば『接客を大事にしよう』とよく言っているんですが、本当に大事にしたいのは“お客さまと接すること”ではなく、“お客さまの心に触れて好感を得ること”です。だから、接客ということばはやめて、“接心好感をがんばろう”と変換しました。このように一つ一つ丁寧に“ことば化”すれば、ビジョン>ミッション>タスクと現場へと落ちていく間でも、ことばの濃度が薄まらずに済む。一般社員でも自分が何のために働いているかビジョンが腹落ちしやすくなるんです」(緒方氏)

“ことば化”することで、役職や立場によって用語の解釈が変わることはなくなり、「上司はKPI(重要業績評価指標)として捉えていた指標が、部下たちはKGI(重要目標達成指標)だと思っていた」というようなこともなくなり、ビジョンに向かって一丸となって動ける組織になっていくのだ。

すべては日本の工芸を元気にするために

緒方氏は、PDCAを素早く回して業務改善を図ると同時に、目先の改善にとらわれない革新的な取り組みも強く意識しており、組織内にも「改善7割・革新3割」という割合で業務に取り組むように伝えているという。

「PDCAをすばやく回して業務改善を図ることは重要です。でも、革新的な取り組みにもお金と時間を割かないと、とうてい日本の工芸を元気にすることなんてできません」

緒方氏は、コーポレートサイトやネットストア、ブランドサイトなど、現在分散しているドメインを統合したコミュニケーションプラットフォームの構築にも取り組もうとしている。ひとつの場所にコンテンツを集約することができれば、顧客体験を向上させられるほか、全社としていっそう足並みをそろえられるようにもなる。今までにない大きな施策だが、準備は順調に進んでいるという。

「中川政七商店の強さは、みんながビジョンのために仕事をしているところ。ビジョンが浸透しているからこそ、新参者の僕が何か新しいことをやろうとしても、それが『日本の工芸を元気にしそうだ』と感じてもらえれば反対意見は出てきません」


緒方 恵氏

工芸は本来、“生活をより便利にするための技術”だった。しかし、現代的なデザインをまとわないがために、日々の暮らしから切り離され、“伝統工芸”というくくりで追いやられてしまっているのだと緒方氏は嘆く。

「僕らは工芸にデザインを持たせることで、技術を日常使いしてもらおうとしています。デザインは手に取ってもらうための必然性であり、実際に使ってみたら“デザインを上回るくらいの品質の良さにしびれる”というブランドロイヤルティーを提供しているんです。これまでは、商品作りにマーケティングチームが関わることはありませんでしたが、商品の背景にあるストーリーを伝えるためには、デザイナーが商品企画をしている段階から関与していないと、コンテンツを作り損ねてしまう。モノづくりの根幹からコンテンツ化することをミッションにして、ウェブにしかできない価値提供を行っていきたいと思っています」

注釈:
(*1)さんち 〜工芸と探訪〜(外部サイト)
(*2)さんちの手帖(外部サイト)

プロフィール

株式会社中川政七商店 執行役員 Chief Digital Officer デジタルコミュニケーション部 部長 緒方 恵氏

東急ハンズにてバイヤーなどを経てWEBチームに異動。ECサイト運用、デジタルマーケティング、ソーシャルメディア、新規デジタル施策開発を担当。2016年5月に退社。同年8月に株式会社中川政七商店に入社し、現在同社のWEB/デジタル領域を統括。

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