マーケティング戦略

顧客の“モーメント”をつかむ資生堂の戦略とは[前編]

記事内容の要約

  • 把握が難しい顧客インサイトを捉えるためにプライベートDMPを導入
  • ウェブとリアルの顧客データ統合を進めていたため、DMP導入は2カ月で実現
  • キャンペーンのコンバージョン率を維持しながらコンバージョン数を10倍に
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チャネルを横断したマーケティング戦略のための手段として定着しつつあるDMPの活用。すでに導入している企業も、これから導入を検討しはじめる企業も、他社の動向は気になるところだろう。

2016年4月、化粧品をはじめ、さまざまな事業をグローバルに展開している資生堂がプライベートDMPを導入した。同社は以前からウェブとリアルのデータ統合はできており、パブリックDMPも導入していたという。にもかかわらず、なぜ新たにDMPを導入することにしたのか。そして、これまで蓄積してきた膨大なデータ資産をマーケティングに活用するために、同社はどのようなしくみを整備したのか。資生堂ジャパン EC事業推進部 EC戦略グループの吉本健二氏と小林篤史氏に話を聞いた。

進化するデータ活用

資生堂が扱う商品は、美容のための化粧品から健康食品まで、カテゴリーは多岐にわたり、ブランドの種類も多数ある。そんな多数の商品情報を顧客それぞれのライフスタイルに合わせてワンストップで発信していくために、2012年4月、ブランド横断型の総合美容サイト「ワタシプラス」(*1)を立ち上げた。

資生堂総合美容「ワタシプラス」のトップページ

資生堂総合美容「ワタシプラス」のトップページ
提供:資生堂

顧客にきめ細かくアプローチすることを考えていた資生堂は、「ワタシプラス」の公開当初から、オフラインとオンラインを横断したデータ活用を行えるようにしていた。具体的には、ウェブ会員の顧客データと実店舗会員の顧客データ、購買履歴データなどのデータウェアハウスへの統合だ。また2014年にはパブリックDMPを導入して広告配信の最適化を図るなど、同社は継続的にデータ活用環境のアップデートを行ってきた。

資生堂のデータ活用環境の道のり

資生堂のデータ活用環境の道のり

「なぜ顧客は行動したのか?」を把握したい

そして2016年4月、同社はプライベートDMPを導入した。

2014年に導入した「パブリックDMP」は、第三者の持つウェブサイトの閲覧データやユーザーデータを活用できるため、自社だけではリーチが難しい新規顧客の開拓などに役立てることができた。他方、「プライベートDMP」は、自社が管理する顧客データなどを活用するための基盤として位置づけられる。

それを踏まえて、吉本氏はプライベートDMP導入の背景について、次のように語った。

「CRM戦略を進めるうえで非常に重要な、『顧客インサイト』に迫ることに注力するべきと判断しました」


資生堂ジャパン EC事業推進部 EC戦略グループ 吉本健二氏

先に述べたように、当初からデータウェアハウスを導入していたため、オフラインとオンラインの顧客データを横断的に分析できていた。しかし実は、そこから得られるデータは、「サンプルを請求した」「商品を購入した」「会員登録を行った」のような顧客行動の“結果”に限られていたという。

パブリックDMPを導入することで、新規顧客の獲得に向けた一般生活者へのアプローチは可能になったものの、次のステップとして既存顧客のインサイトの捕捉をどうするかが課題として浮上した。

既存顧客に対して、より喜ばれるアプローチをするためには、「なぜサンプルを請求したのか」「なぜその商品を購入したのか」といった、“顧客インサイト”を捉えなければならない。

そこで目をつけたのが、自社メディアの閲覧データだった。顧客のサイト内行動が分かると、顧客インサイトは捉えやすくなる。たとえば、「美白」に関連する記事を読んだ人は、美白関連商品を購入する可能性は高いと推測できる、といった具合だ。それまでもサイト閲覧データは管理していたが、他データと統合できておらず独立した存在だった。

「顧客インサイトをちゃんと捉えるには、サイト内行動データも含めた、あらゆるデータを横断的にトラッキングできる仕組みが必要だと気づきました。既存のシステムで実現しようとするとコストやデータ負荷の問題から難しく、新たにプライベートDMPを導入することにしたのです」(小林)

2カ月でDMPを導入できた理由

こうしてプライベートDMPは導入されたわけだが、具体的に検討を開始してからわずか2カ月で運用開始に至ったという。

今回、データ統合の対象となったワタシプラスは、いまや月間PV数約5000万以上、会員登録者数300万人の巨大メディアであり、その閲覧データ量も膨大であることは想像に難くない。また、データ処理スピードへの要求レベルも高く、導入後も目的に合わせて適宜拡張できる柔軟性も必要だ。そうなると、選定や社内調整に時間がかかりそうなものだが、なぜ短期間で導入できたのか。

「2012年にウェブ会員とリアル顧客のデータをすでに統合していたことが功を奏しました」(小林氏)


資生堂ジャパン EC事業推進部 EC戦略グループ 小林篤史氏

資生堂のように、ナショナルブランドで多くの顧客を抱えている企業では、ウェブと店舗の顧客データを別々に管理しているケースは少なくない。通常であれば、ウェブとリアルのデータを統合するだけでも年単位の時間が必要だ。先を見越して、メディア公開当初からウェブとリアルの顧客データを融合していたため、短期間での導入が可能だったという。

顧客インサイトにもとづいたアプローチを実現

こうしてデータ活用の環境がさらに整い、顧客アプローチのシナリオに幅が広がった。

同社は「ワタシプラス」のほかに「Beauty & Co.」というメディアも運営している。「ワタシプラス」がEC機能を兼ね備えた資生堂のブランドを束ねるサイトであるのに対して、「Beauty & Co.」は、資生堂や化粧品の文脈に限らずに、美容と健康の情報を幅広く届ける情報発信サイトだ。

このように役割が異なる2つのウェブメディアだが、閲覧データなどを活用できるようになったことで、横断的にシームレスなシナリオ作成が可能になったのだ。

「ある人が『Beauty & Co.』で『カバーしたように見えないベース作りテクニック』という記事を読んだなら、おそらく美白関連化粧品に興味がある人だろうと推測できます。であれば、その人が『ワタシプラス』に訪問した際には、美白ラインの商品をお勧めするというシナリオでアプローチできます」(小林氏)


「Beauty & Co.」トップページ
提供:資生堂

加えて、上述の例のような「美白に関心=美白関連コンテンツや商品情報を提示」といったわかりやすいアプローチだけでなく、一見関連性がなさそうなテーマの記事と商品との関係性も分析している。そのため、これまで見えてなかった潜在的な顧客ニーズにも応えられるようになった。

従来のシナリオでは実現できなかったこととは

ところで、プライベートDMP導入前まではどのようなコミュニケーションを行っていたのか。

吉本氏は「先ほど申し上げたとおり、これまでのデータ活用は、顧客行動の“結果”部分に限っていました。そのため、『買い替えサイクル』のような、コンバージョンベースのシナリオが中心でした」と振り返る。

コンバージョンベースのシナリオとは、化粧水の使い終わる頃を見計らって顧客に再購入メールを送る施策や、シャンプーの購入者に対して同じブランドのコンディショナーをお勧めするなどの、リピート購入やクロスセル/アップセルを促進する取り組みだ。

「シンプルで分かりやすいこのようなシナリオは効果がみえやすいのです。しかし、施策の対象となる顧客の母数が少なく、売り上げへの効果は期待するほど大きくありません」(吉本氏)

プライベートDMPを活用してコンバージョンに至るまでのシナリオを細かく設計できるようになった結果、「コンバージョン率は維持したまま、コンバージョン数を従来の約10倍にまで拡大できたキャンペーンもあります」と吉本氏は成果を話す。


成果について説明する吉本氏(左)と小林氏(右)

チャネルを越えたデータ連携のあるべき姿をうまく描けないという企業は多い。資生堂の場合、2012年に会員データと購買データの統合を完了しており、その後も段階に応じてデータ活用基盤の整備を進めてきた。だからこそ、今回のデータ連携においても迅速に成果を出せたといえる。データ連携のどこから手をつけていいか分からずに悩んでいる企業にとって、資生堂の事例は自社データ統合の重要性を示唆しているといえるだろう。

後編では、大規模データ基盤を活用した資生堂の顧客コミュニケーションを解説する。

この記事の後編を読む

注釈:
(*1)ワタシプラス(外部サイト)

プロフィール

資生堂ジャパン EC事業推進部 EC戦略グループ 小林篤史氏

システム開発会社を経て、大手ポータルサイト運営会社に入社し、レコメンドやデータ可視化システムの企画、データ活用推進業務に従事した後、2015年資生堂ジャパン株式会社入社。DMPを活用した分析や広告配信などに従事。

資生堂ジャパン EC事業推進部 EC戦略グループ 吉本健二氏

英ランカスター大学大学院卒。調査会社、Webコンサルティング会社を経て、2012年株式会社資生堂入社。ワタシプラスのデータ分析、CRM戦略立案/実行、分析環境整備などに従事。

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