マーケティング戦略

パ・リーグを盛り上げるデジタル戦術[前編]――ライブ動画とアプリで人気拡大

記事内容の要約

  • 年々パ・リーグのファンは着実に増加しており、セ・リーグとの人気格差も縮まっている
  • パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM)は、パ・リーグ全体をとりまとめたマーケティング施策を実施し、パ・リーグのファン層拡大に寄与
  • PLMが運営する動画配信メディア「パ・リーグTV」の会員数は5年間で3.5倍に増加するなど、デジタル施策が奏功
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プロ野球のパシフィック・リーグには、所属6球団のマーケティングを包括的に支援する組織が存在する。パシフィックリーグマーケティング株式会社がそれだ。同社の役割は、デジタルテクノロジーを活用したマーケティング施策によってパ・リーグ人気に拍車をかけ、リーグ主催試合の観客動員を伸ばすこと。では、同社が展開しているマーケティング施策とは、どのようなものなのか。2人のキーパーソンに話を聞く。

パ・リーグファンの拡大をバックアップ

「人気のセ、実力のパ」──。かつて、プロ野球のセントラル・リーグ(以下セ・リーグ)とパシフィック・リーグ(以下パ・リーグ)の違いを表現するのに、そんな言葉が使われていた。

確かに以前は、テレビのゴールデンタイムで巨人戦をはじめとするセ・リーグの試合中継が高視聴率を記録する一方で、パ・リーグはテレビ中継も少なく、球場では閑古鳥が鳴くといった状況が常態化していた。

だが、そうした時代はすでに終わりを告げつつある。

2004年の球界再編後(*1)のパ・リーグでは、ソフトバンク、楽天といった新規参入組を含む各球団の地域密着型マーケティングが奏功し、パ・リーグ公式試合の観客数は上昇を続けているのだ。その間、セ・リーグの公式試合も集客を伸ばしたが、パ・リーグはそれにピタリとつけながら、セ・リーグとの集客数の差をジリジリと詰めている。

パ・リーグとセ・リーグの入場者数の推移
2005年と2016年を比べると、セ・リーグの入場者数は約218万人、パ・リーグでは約288万人増加しており、両リーグの差は縮まってきている

一般社団法人日本野球機構(NPB)の統計データを基に作成

実際、セ・パ両リーグの公式試合における集客数の差は、2005年の時点で約340万人だったものが2016年には約270万人にまで縮小。しかも、2016年のパ・リーグ公式試合(全429試合)の総来場者数は1113万人を突破し、1試合当たりの動員数は約2万6000人とリーグ新記録を樹立した。

そんな人気上昇中のパ・リーグのマーケティングを包括的にバックアップしているのが、パシフィックリーグマーケティング株式会社(以下PLM)だ。

デジタル施策で「人気のパ」を加速

PLMは、パ・リーグ6球団の共同出資で2007年5月に創設されたが、その設立の理由は至ってシンプルだったと、同社のマーケティング室で室長を務める荒井勇気氏はいう。

「当時はすでにインターネットが人々の生活に不可欠なものになっており、プロ野球界でもデジタルを活用したマーケティングに対する機運が高まっていました。また、米国の大リーグはもちろんのこと、日本でもJリーグなどのプロスポーツリーグには、リーグ全体を取り仕切る何かしらのマーケティング組織が存在していました。にもかかわらず、日本の代表的なスポーツコンテンツであるプロ野球にはそれがなかった。そこで、パ・リーグ6球団が共同出資でPLMを立ち上げ、リーグ全体のマーケティング力、デジタル対応力の強化に乗り出したわけです」(荒井氏)

ここで不思議なのは、なぜ、プロ野球全体ではなく、パ・リーグだけのマーケティング組織が創設されたのかということだ。

「本来は、セ・パ両リーグ統一のマーケティング組織が創設され、マーケティングやデジタル施策にプロ野球全体で取り組むのが望ましい姿です。しかしながら、結果的には、まとまることができるパ・リーグだけでPLMの創設へといたったわけです。ですから、当社の究極のゴールは、PLMの発展的な解散──つまり、セ・パ両リーグのマーケティングを取り仕切る組織が生まれることです」と荒井氏は話す。


パシフィックリーグマーケティング株式会社 マーケティング室室長 荒井勇気氏

コアファンにアプローチする「パ・リーグTV」

PLMの最大のミッションは、各球団の垣根を越えて、「パ・リーグの新しいファンを増やすこと」だ。パ・リーグ6球団それぞれにもマーケティング部隊は存在しており、それぞれで集客活動などは行われている。しかし、効率性や実現性の面で球団単体では実施しづらい施策もあり、リーグ全体として取り組むべきことも多い。そういった領域をカバーするのがPLMである。

このミッションのもと、パ・リーグ6球団に向けたITサービスやマーケティングサービスの提供のほか、共同権利の協賛やライセンスの企画販売・管理などを事業として展開している。

「PLMの主たる役割は、6球団へのデジタルマーケティング支援です。これにより、パ・リーグ全体の収益の向上、マーケティングコストの最適化、メディアなどへの露出の拡大、そして新規ファンの獲得に力を注いでいます」と、荒井氏は説明を加える。

収益拡大策の柱と位置づけられているのは、パ・リーグ公式の動画配信メディア「パ・リーグTV」だ。

これは、パ・リーグ球団の主催全試合(巨人・阪神主催の交流戦やクライマックスシリーズも含む)をライブ配信するサービスで、試合のダイジェスト映像のオンデマンド配信もしている。同サービスは、パ・リーグの主催試合について、インターネット上での放映権を持つPLMならではのサービスだ。

パ・リーグTV の画面

基本的に、インターネット放映も含めてプロ野球の放映権は、試合を主催する球団にすべて帰属している。そのため、ファンは自分のひいき球団の全試合をインターネットで視聴しようと思ったら、全球団の動画配信サービスに個々に加入しなければならない。

たとえば、A球団の動画配信サービスに加入しているファンが、B球団主催の“B対A戦”をインターネットでライブ視聴しようとした場合、B球団側が展開する動画配信サービスにも加入しなければならない。なぜなら、この試合はA球団の主催試合ではないからだ。しかも、もしB球団が動画配信サービスを展開していなかったら、インターネットでの視聴はあきらめるしかない。そのような問題を解決したのが、パ・リーグ公式のサービスであるパ・リーグTVだ。球団単体では難しい施策にPLMが取り組んだ好例といえる。

パ・リーグTVの前身は、2011年まで他社が運営していた「パ・リーグLive TV」で、2012年にPLMが運営を引き継いだ時点での会員数は約2万人だったが、2017年7月現在、約7万人へと増加している。

「パ・リーグファンの総数からいえば、7万人は決して十分な数ではありません。ただ会員はパ・リーグ各球団の熱心なファンで、20~30代の若い世代が中心。その意味で、パ・リーグTVは若い世代をコアファン層へと取り込むことに貢献しているといえますし、今後も年率5%増のペースで会員を増やしていくつもりです」と、同社マーケティング室 プロデューサーである上野友輔氏は語った。


パシフィックリーグマーケティング株式会社マーケティング室プロデューサー 上野友輔氏

スマホアプリで新規ファンの開拓へ

さらにPLMは、新規ファンの開拓に向けて、「パ・リーグウォーク」というPLMならではの工夫を凝らしたスマートフォン・アプリを提供している。基本的な機能は歩数計アプリだが、アプリ上でパ・リーグ6球団のなかから好きなチームを選ぶと、チームのファン全員の歩数が合算して表示される仕組みになっていて、その歩数をチーム間で競い合えるのだ。そのため、実際のリーグ戦では成績の振るわないチームであっても、ファンが歩数を稼げば、パ・リーグウォーク内では首位を獲得できたりするなど、試合観戦とは違った野球の楽しみ方を提供している。

パ・リーグウォークの画面

提供:パシフィックリーグマーケティング

 「パ・リーグウォークは、野球観戦に、“健康増進”という新しい価値を付与する取り組みです。1日あたりの人の平均歩数は約7000前後と言われていますが、野球観戦をした日は駅から球場までの距離もあり、1万5000歩以上に増えるということもあります。そうした数字に着目し、健康意識の高い方に、“健康”の切り口から、野球観戦に興味を持ってもらえないかと考えました。このように、アプリを使った新しいアプローチで、新たなプロ野球ファンを開拓することは、われわれの大切なテーマです」(荒井氏)

健康面についていえば、PLMはハーバード公衆衛生大学院ソサエティアンドヘルスラボと連携し、パ・リーグウォークで収集した歩数データを同学院に分析してもらい、野球観戦と健康との関係を論文化するなどの試みも行っているそうだ。

さらにPLMは、パ・リーグ6球団の公式ホームページを一括して管理している。これは6球団のウェブマーケティングコストを下げ、かつページレイアウトやイメージに一貫性を保ち、ユーザーの利便性を向上させるための施策だ。実際、6球団のサイトフォーマットが共通しているため、利用者はどの球団のサイトを訪れても、戸惑うことなくチケット購入などの操作が行える。

「現在、パ・リーグ6球団共同の集客施策として、ホーム球場に対するビジターファンを優遇する“ビジター応援デー”などもあり、ひいき球団以外のサイトでチケットを買う方も多いです。そのため、各球団サイトのデザイン、レイアウトに一貫性があるほうが、ファンが迷うことなくチケットを購入しやすくなるメリットもあります」(荒井氏)

このようにPLMは、球団単位よりもリーグ全体で取り組むべき施策を手がけ、「人気のパ」にするためにさまざまなデジタルマーケティングに取り組んでいる。後編ではデータ活用の現状とその先について、掘り下げてみたい。

この記事の後編を読む

注釈:
(*1)「プロ野球再編」:当時のオリックス ブルーウェーブと近鉄バファローズの合併を契機としたプロ野球界再編の動き。合併後、東北楽天イーグルスとオリックス バファローズの2球団が誕生し、2005年シーズンを迎える。また、同じ年に福岡ソフトバンク ホークスも誕生。

プロフィール

パシフィックリーグマーケティング株式会社マーケティング室室長 荒井 勇気氏

大手インターネットサービス会社企画営業職を経て、2015年にパシフィックリーグマーケティング入社。同社がパ・リーグ6球団と行うマーケティング活動全般を、デジタル/オフライン、国内/海外にかかわらず現場責任者として遂行している。

パシフィックリーグマーケティング株式会社マーケティング室プロデューサー 上野 友輔氏

銀行勤務を経て、ウェブ制作会社にて球団公式サイトの試合コンテンツ制作に従事。2015年にパシフィックリーグマーケティングに加入し、コンテンツ領域を統括しつつ、海外向けプロモーションも担当。

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