ビジネス創出

人々の不満からインサイトを抽出する! 不満買取センターのビジネスとは

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「あなたの不満、買い取ります」というキャッチコピーで会員数を伸ばしているサービスがある。生活者の不満を買い取り、企業の課題解決に貢献する「不満買取センター」だ。同サービスに集まった不満の声は、コールセンターや企業アンケートで得られるクレームや改善要望とはどこが異なるのだろうか。また、それらはどのように解析・分析され、ビジネスに役立てられているのだろうか。ポイントは「生活者インサイト」と「テクノロジー」の密接な関わりあいのようだ。同サービスを運営する株式会社Insight Tech代表の伊藤友博氏に話を聞いた。

不満は課題発見やマーケティングのヒントに

不満買取センターは、登録会員が生活の中でふと感じた不満を投稿するサービスだ。同サービスサイトには、商品・サービスへの不満だけでなく、テレビ番組、公共交通機関、政治など、あらゆる分野の不満が日々投稿されている。そして同サービスを運営するInsight Tech社は、集まった生活者の声を人工知能(AI)で解析・可視化し、企業の課題解決を支援している。同社代表の伊藤氏は、こう語る。

「AIを使って人の本音を明らかにして、それを企業や社会へと届けることで、ビジネス課題の解決に貢献したいというのが、われわれの企業理念です。『不満』というとネガティブな印象を持たれるかもしれませんが、そこには課題の本質やマーケティングのヒントが隠れています」


不満買取センターは、ウェブサイト(※1)やアプリから利用できる。

同サービスは、サイトやアプリから会員登録すれば誰でも利用可能だ。会員は、24時間で最大10件までの不満を、自由記述形式で投稿できる。投稿の内容に応じて1〜10ポイントが付与される。企業がリクエストしたテーマに対する投稿であればさらに最大50ポイントと高いポイントが獲得できるようになっており、500ポイントごとにAmazonギフト券と交換できるという仕組みだ。

同サービスが支持される理由を伊藤氏は次のように分析している。

「もちろんAmazonギフト券が目的の方もいますが、お小遣い稼ぎとしては、自由記述形式での投稿は面倒な作業だと思います。それでも投稿してくださる方が多いのは、『ここに書くことで、自分の思いを企業や社会に届けてほしい』という期待をしてくださっているからではないでしょうか。われわれはそれを企業ないし社会へと届けるミッションを負っていると考えています」


不満を投稿するとポイントが付与され、500ポイントたまるとAmazonギフト券と交換できる
提供:不満買取センター

2017年7月時点で、登録会員数は35万6000人以上、これまでに622万件もの不満データが集まっている。

「会員獲得のための広告出稿や入会インセンティブのようなキャンペーンはほとんど実施していません。変わったサービスということもあり、クチコミやメディアで取り上げていただいたことで、自然と波及して35万人もの会員が集まりました。また、気楽に投稿してもらえる場であるために、公式SNSの運営はユーザー対応が得意なメンバーが担当したり、“ふーまん”というゆるキャラを立てて会員とコミュニケーションをとったりと、会員との距離感の近さを大事にしています」

“集める”から“集まる”へ

一見すると、企業にとっての不満買取センターの担う役割は、コールセンターや、いわゆるリサーチ会社と近い印象を受ける。しかし、そこに寄せられる生活者の声の性質は、一般的なものとは大きく異なる。

「コールセンターに集まるのは、怒ったり困ったりしている方の“顕在化”した声が多いと思うのですが、われわれに寄せられる声は“潜在的”な要望や期待が中心です。
また、リサーチ会社が行う調査の場合、質問には選択肢で回答することがほとんどですが、それではある種のバイアスがかかりますよね。関心が薄いことも聞かれればなんとなく答えられてしまう。一方、不満買取センターでは、自由記述式での能動的な声が集まるので、通常の調査では得られない生活者インサイトをすくい上げることができると考えています」


株式会社インサイトテック 代表取締役社長 伊藤友博氏

通常、調査によって収集した声は「仮説を検証して意思決定する」ために使われることが多いが、自由記述式で不満買取センターに集まる生活者の声は、「仮説をつくる」ために必要とされることが多いという違いがある。

「私は前職を含めて10年以上、マーケティングのトレンドを見てきました。いまは、『プロダクトアウト(企業起点)からマーケットイン(顧客起点)へ』というのが大きな流れになっています。さらに細かな流れとして、みんなが持っている商品が欲しいという時代から『これに困っている』『もう少しこうだったらいいな』という、ペイン(悩み)やウォンツ(欲求)に商機が移ってきています。ただ、そういった声は、通常のアンケートではなかなか出てきません。あらかじめ決められた回答の選択肢に縛られず、自由に発信することで、生活者の本音の部分が現れてくるのです」

生活者の本音をくみ上げるには、声を“集める”のではなく、声が“集まる”仕組みが必要だと伊藤氏は続けた。

「通常のアンケートの場合、生活者の意見は受動的になりがちです。生活者自らが能動的に声を発したくなる場こそが必要であり、その役割を担うのが不満買取センターなのです」

生活者の本音を活用して売り上げペースを4倍に

集まった声は、企業の商品開発やマーケティングなどに活用されている。たとえばフランスベッド株式会社では、不満買取センターに集まった20〜40代、1000人の声をもとに家具式ベッドの商品開発を行った。




フランスベッドでは不満買取センターで解析したベッドに関する不満の声をもとに商品開発を行い、これまでの4倍のペースで売れている

「フランスベッド社の課題は、若い人はパイプ式ベッドを購入することが多く、家具式ベッドがあまり買われないということでした。そこでベッド全般に関する不満を当社が解析したところ、スマホの充電をしたりタブレットを立てかけたりしたいという声や、コンセントやティッシュを隠してすっきり納めたいという声が浮き彫りになりました。そして、それらの声を反映して商品開発を行った結果、通常のベッドに比べて売り上げペースが4倍に伸びたそうです」

不満データの解析と可視化

今でこそ不満買取センターに集まる不満の声はAIを使って解析しているが、2012年の創業当初は、アプリやPCでの投稿ではなく、メール等で個別に投稿された不満を手作業で分析し、汎用的なレポートを作成するというアナログな仕組みだった。それがテクノロジーの進化によって自由記述を解析する環境が整ったことで、2015年3月にデータビジネスへと転換し、現在の形になったそうだ。自由記述式の投稿を解析するのは難易度が高いが、高水準での解析・分析ができている背景には、京都大学の黒橋・河原研究室との提携がある。

「京都大学の黒橋禎夫先生は日本語の自然言語解析領域の第一人者で、単語ではなく構文レベルでの解析を得意とされています。単語だけを集計する場合は言葉の登場回数がわかっても、どういう文脈で使われているのかわかりません。たとえば、『やばい』という言葉は、肯定的であったり否定的であったり、いろんな意味で使われますよね。構文レベルでの解析を行うと、不満内容を要約した文章を抽出できるのです。これをわれわれが内容ごとにまとめた『可視化マップ』の形にし、提供しています」


生活者の声が構文解析によって文意のわかる形で要約され、似た話題ごとにグルーピングされた可視化マップ
提供:不満買取センター

他にも、投稿の感情を怒りと嫌気の度合いでスコアリングする「感情スコアリングAI」、立地や価格など投稿をジャンルごとに分類する「ラベル分類AI」などのAIエンジンを用い生活者の声を可視化・分類している。これらによって、どのような意見が多くあるのか、特に優先しなければいけない意見は何かを明らかにすることができ、企業の打ち手の優先順位付けが可能になる。

「われわれが特に重視しているのは、解析した結果をしっかりとビジネスの打ち手へとつなげることです。たとえば『顧客の離反を止めたい。離反のきっかけになるような不満の声を特定してほしい』という企業からの依頼が多いのですが、その場合は数ある不満の中でもどれが離反の原因なのか、その背景にある生活者インサイトは何か、という根っこの部分を導き出すようにしています」

社名変更で目指す、今後の展望

同社の持つ情報やその分析力をさらに幅広く生かすべく、もともとサービス名だった社名を、今年5月にInsight Techへと変更した。

「不満買取センターはインパクトのある名前ですが、一方でわれわれの持つテクノロジー力が伝わらないというデメリットもありました。今後は、不満に限らず人の気持ち全般をAIで可視化することに事業を広めていこうと、社名変更しました。社名の由来は、生活者インサイトをテクノロジーで明らかにしていこうという考えからです」

伊藤氏の考えるインサイトとは、どのようなものなのだろうか。

「たとえば、『窓から隣家のタバコの煙が入ってくるのが嫌だ』『春は、網戸にしたら花粉が入ってくるから困る』『外から部屋の中が見えるのが嫌なので窓を開けたくない』という3つの異なる意見があったとします。それぞれ言っていることは違いますが、背景にあるインサイトは、『窓を開けて風を通したい。でも部屋の中に(異物も人の視線も)入れたくない』ということです。つまり、表面上は違ってみえる意見であっても、背景の心理がつながっていることが、マーケティングにおけるインサイトだと考えます」

社名変更にともない、サービスサイトと企業サイトも切り分けた。そうすることで、サービスサイトはユーザー向けに親しみやすさを、企業サイトは企業に向けて提供できる価値を表現している。


Insight TechのWebサイト(※2)は、緑を基調とし親しみやすいサービスサイトとは大きくイメージを変え、信頼感やテクノロジーへの強さを訴求している

現時点での同社のビジネスは、今までに集めた不満の声を解析して企業に提供するほかに、企業の要望に応じた「投稿してほしい不満」を新たに設定して、集まった声を解析・提供すること、企業が持つ顧客や従業員の声を受託解析することの三つを柱としている。今後は、さらにこんなビジョンを持っている。

「近い将来、APIやダッシュボードを提供しようと考えています。いまはどういう機能をつけると企業のニーズと合致しそうかというのを、クライアントの要望を通して検討しているところです。APIやダッシュボードの理想形としては、生活者インサイトを可視化するだけでなく、そこから評価や意思決定につなげられるようなツールにすること。また、会員の方に向けては、自分の投稿がきちんと企業に届いたことをフィードバックできる仕組み作りをすることで、自分の声を届けたいという期待に応えたいと考えています」

「不満買取センター」の強みは、AIの活用はもちろんのこと、「不満を買い取る」という発想をもって、生活者と企業の双方に貢献する設計の巧妙さも相まっての強みだろう。生活者インサイトをテクノロジーの力でビジネスに転換する同社の行く末に今後も注目したい。

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