データ分析

マイナス金利時代にAIがもたらす価値~三菱UFJ信託銀行の挑戦[前編]

記事内容の要約

  • 三菱UFJ信託銀行が提供するAIを活用したファンドは、利回りよりも安定性を重視
  • テキストマイニングと機械学習を組み合わせることで、安定した成果を生み出す
  • AIのメリットは、投資判断のために分析できるデータ量が圧倒的に多く、恣意的な意向が入らない点
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既存産業に最新テクノロジーを組み合わせることで、製品やビジネスモデルを革新しようとする動きは、各業界で起きている。金融業界も例外ではない。そんななか、個人や法人の資産運用をサポートする三菱UFJ信託銀行は、AIを活用した安定収益型ファンドの提供を開始した。果たして、AIは人間の投資判断を超えることができるのか。

AIファンド――利回りより注目すべきポイントとは

三菱UFJ信託銀行が提供を始めた「人工知能(AI)を活用した安定収益ファンド」(以下、AIファンド)は、ビッグデータやテキストマイニング技術、そしてAIを活用することで顧客の投資収益をあげるという次世代型の資産運用商品だ。

2008年から2015年度までの実際の市場データをもとに、このファンドのアルゴリズムを適用してシミュレーションを行ったところ、平均利回り7.4%という成績をたたき出したという。多くの銀行の普通預金金利が0.1%を下回る現在、7.4%という数字は一見すると驚異的にも思える。「これがAIの実力か」と期待が高まるが、実は「そこまで驚くほどではありません」と、同行 受託財産企画部の染谷知氏は説明する。


三菱UFJ信託銀行株式会社 受託財産企画部 次長 染谷知氏

「7.4%という数字への評価は、どの視点に立つかで変わります。たとえば2012年から2015年にかけてのAIファンドの利回りは12.3%ですが、東証株価指数(TOPIX)も20%から30%ほど上昇しています。市場全体が上昇していたので、7.4%という数字は『株式に投資した割には低リターン』と評価する方もいるでしょう」(染谷氏)

もともとこのAIファンドは、空前絶後の低金利時代にあって、企業の配当に着目して安定収益を生み出そうというもくろみで商品化したものだという。あまり値動きせず、面白みがないと思う人もいるかもしれないが、「利回りの高さより、安定性を重視して設計しているので、シミュレーションの結果は狙いどおりともいえます」と染谷氏は言う。

同行国内株式クオンツ運用課の岡本訓幸氏も、利回りが大きく変動しないところがAIファンドの商品価値だと説明する。


三菱UFJ信託銀行株式会社 資産運用部 国内株式クオンツ運用課 チーフファンドマネージャー 岡本訓幸氏

「市場全体が右肩上がりに成長している状況だと、AIファンドのリターンは物足りなく思われるかもしれません。しかしこの商品は、リーマンショックのようなマイナス局面でも収益を確保できる可能性があるのです。特に注目していただきたいのが、収益のばらつきを示す標準偏差です。TOPIXはだいたいプラスマイナス20%のぶれがあるといわれていますが、AIファンドでは4%です。つまり、投資リスクが5分の1程度に収まっているということです。これがAIファンドの最大の売りです」(岡本氏)


三菱UFJ信託銀行AIファンドのパフォーマンス(三菱UFJ信託銀行の資料をもとに、Insight for D編集部で作成)
※2008〜2015年度まですべての年度でプラスのリターンを獲得、相場の上昇時には先物ヘッジの解除によって上昇に追随、リターン・リスク比など複数の観点でTOPIXより優れた結果を達成

2つの技術を組み合わせて安定した成果をあげる

三菱UFJ信託銀行のAIファンドでは、テキスト分析とAIを組み合わせて、運用判断を行っている。

テキスト分析では、金融系ニュースや企業の決算書や有価証券報告書といった公開文書など、大量の文字情報を中心に分析して、銘柄選択の判断材料にしている。具体的には、テキストデータに含まれるポジティブな表現とネガティブな表現を、機械学習を活用して抽出し、配当利回りと組み合わせて銘柄の魅力度を総合的に評価する。

一方AIでは、為替、金利、投資家心理などの株式市場に影響を与えるさまざまな要素をディープラーニングで解析して、翌日の株価を予測している。同行ではこれを「AIを活用した先物アクティブヘッジ」と呼んでいるという。

2つの技術を組み合わせている理由について、岡本氏は「1つの技術に過度に頼らずに複数の技術を組み合わせたほうが、成果が安定するという考え方を関係者の間で共有できていました。また、片方がうまくいかなかったときのリスクヘッジの意味もあります」と説明する。

人間による運用はAI運用に取って代わられる?

資産運用の現場では、これまでもコンピューターを使った分析は行われてきたが、それはあくまでも補助的役割としての活用であり、最終判断は人間が行ってきた。AIの登場は、投資判断の常識やビジネスモデルそのものを大きく変えるのだろうか。この疑問に対して、岡本氏は「AIの活用は、従来行ってきたことの延長線上にあります」と答える。

「AIの導入によって大きく変わったのは、投資判断に使えるデータの量が格段に増えたことです。以前の線形モデルはモデル構造上の制約から、人間がある程度データの種類や数を絞りこまなくてはなりませんでした。たとえば、株式市場に影響のありそうなデータが100~200個あったとしても、10~20個くらいまで要素を絞り込む必要があったのです。しかし、ディープラーニングを使えば、どのデータをどのぐらいの割合で組み合わせて分析すればいいのかをすべてAI自身が判断できます。さらに、市場で起きていることを日々学習して、AI自身がモデル構造を見直すことでパフォーマンスを向上させます。もともと人間がやっていたことを代替して、なおかつ人間の恣意(しい)的な意向が入らないというのが、AIのメリットです」(岡本氏)

人力では不可能だった膨大なデータ分析を可能にし、さらに人間ならではの不要な意図を排除できることが運用にとって望ましいなら、そもそも人間は必要ないのではないか。そんな疑問も浮かんでくるが、後編では人間とAIの切り分けや人間ならではの役割について聞いていく。

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プロフィール

三菱UFJ信託銀行株式会社 資産運用部 国内株式クオンツ運用課 チーフファンドマネージャー岡本訓幸氏

1990年 三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入行。三菱UFJトラスト投資工学研究所へ出向し、金融工学に関する研究業務に従事。その後、三菱UFJ信託銀行で国内株式クオンツ運用等のファンドマネージャーとして従事、運用経験年数は24年超。2011年10月より国内株式クオンツ運用のヘッドに就任し、AIファンドの開発を主導。

三菱UFJ信託銀行株式会社 受託財産企画部 次長 染谷知氏

1994年 三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入行。2014年10月より現部署で資産運用全般に関する企画・推進業務を主導。2015年7月より次長に就任。

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