データ分析

資産運用はAIと人間の共存が不可欠~三菱UFJ信託銀行の挑戦[後編]

記事内容の要約

  • AIによる投資判断に人間の判断は加えないことが、成果を出すポイント
  • 学習を重ねることで、AIによる市場心理の分析・投資判断の精度は向上
  • 説明責任を果たして顧客の企業理解を深めるには、人間によるコミュニケーションが必須
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この記事の前編を読む

三菱UFJ信託銀行では、資産運用の判断をAIに任せるファンドを提供している。これまで金融機関では、金融工学の専門家が高度な数学的手法を駆使して、市場予測やファンド開発を行ってきた。コンピューターはあくまでも道具の1つとして活用されてきたが、AIの登場と実用化によってその構図は変化するのだろうか。AIの可能性、業務における人間とAIのすみ分けについて聞いた。

投資判断はAIに一任

三菱UFJ信託銀行のAIファンドでは、テキスト分析とディープラーニングを組み合わせて投資判断を行っている。同行国内株式クオンツ運用課の岡本訓幸氏は、AIの価値について「これまで人力では不可能だった膨大な情報の分析を高速に処理できることと、人間の恣意(しい)性が入り込まないこと」と説明する。実際の運用では、期待どおりの成果も出せているというが、将来すべてのファンド運用がAIに任されるという世界が到来するのだろうか。


三菱UFJ信託銀行株式会社 資産運用部 国内株式クオンツ運用課 チーフファンドマネージャー岡本訓幸氏

「まず、現時点においてAIが行っているのは、どの銘柄をどれだけ買うべきか、先物をどれだけヘッジすべきかを、提示するところまでです。実際の売買等は、人間がやっています。お客さまからお預かりしている資産の運用なので、われわれも目を通さないわけにはいきませんし、思わぬエラーやミスを回避するためにも全自動ではありません。ただ、AIが出した判断に、人間の判断を加えることはしていません」(岡本氏)

学習を重ねることで対応力を増すAI

岡本氏によれば、AIが出した判断に人間の判断を加えないことが、AI運用で成果を出すためのポイントだという。人間では目を通しきれない膨大な量のデータから導き出した結果なので、仮に人間が見て首をかしげるような内容だったとしても、信じるべきというわけだ。そもそも、人間とは異なる運用判断ができるからこそ、ファンドとしての存在意義があるし、人間が運用するファンドに対するリスクヘッジにもなる。

たとえば、自然災害や政治情勢の急変など、予期することが難しい出来事が起こった際も、AIは学習することで次の機会への対応が可能になると、同行受託財産企画部の染谷知氏は説明する。


三菱UFJ信託銀行株式会社 受託財産企画部 次長 染谷知氏

「われわれの行う運用は、中長期的な視点で行うもので、その途中にはいい時もあれば悪い時もあります。不測の事態には対応できませんが、その際の金利や為替の変化といったデータが蓄積されることで、次に同じような状況に陥った際にうまく対応できるようになることを期待しています」(染谷氏)

ある事象が起こり、それが市場にどう影響するのかを学習するのは、人間もAIも同じだ。ただし、AIは人間とは異なる視点によって、その事象の根拠を探し当てることができる。

「AIは、人間では気づかないささいな変化を捉えることも得意です。一例を挙げると、ブレグジット(英国のEU離脱)の際、AIの運用はあまりうまくいきませんでした。ただ、その経験を踏まえて、米国大統領選でトランプ大統領が勝った当日、日本の市場は下落しましたが、AIは前日に『すべてヘッジせよ』というシグナルを出していました。おそらく、市場心理のデータのなかにフルヘッジすべき要因が潜んでいたのでしょう。人間だとなかなか見つけられない、ちょっとした変化をAIは読み取れていたのだと思います」(岡本氏)

データ分析という領域では、AIは人間以上の力を発揮できる。ただし、今のところは、分析にあたってどの範囲までのデータを使わせるかは、人間の力が必要だという。市場への影響度を考えずに手当たり次第にデータ取得してAIに分析させようとすると、むしろ精度は落ちてしまう。将来的には世の中のあらゆるデータを投入しても正しく分析できるようになるかもしれないが、現在のAIの性能では不可能だ。そこを勘違いして「とりあえず全データを分析させよう」とすると、思うように成果がでないため、AI活用時には注意すべきだと岡本氏は指摘する。

AIだけでは難しい領域とは

仕事における人間とAIの役割分担について、銀行らしい視点として染谷氏が挙げたのが、顧客とのコミュニケーションだ。いうまでもなく、資産運用を依頼してくる顧客とのやり取りも銀行の重要な業務のひとつである。これは、現在のAIにはまだ不可能な領域だと岡本氏は語る。

「われわれは最終投資家ではなく、お客さまの資産をお預かりして代わりに運用する立場です。運用結果の理由を説明するときに、AIに聞いてくださいとは言えません。しかも、ディープラーニングの場合は、AIがどのように答えを出したのかというプロセスはブラックボックスになっています。そのため当行では、詳細は伏せますが、AIの出した答えをある程度推測できるような仕組みと体制をつくりました。AIがなぜその結果を出したのか、正確に言えばわからないのではなく、人間が理解できないだけです。推測であっても、少しでも理解して説明できるようにすることが重要だと考えています」(岡本氏)

もう一つ、投資運用会社として、投資先の企業や運用する株式の評価として、その企業の経営者と接することもある。人間同士のコミュニケーションを通じて、その企業や株式を評価する業務も、AIには難しいと染谷氏は指摘する。

「投資先企業と対話しながら、その企業の株をわれわれが運用し、中長期的な企業の成長とともにファンドのリターンを上げる。これらの対話活動をエンゲージメントという言葉で呼んでいますが、これも人間の仕事です。10年ぐらいたったら、驚異的なAIをもつロボット担当者が、企業の経営者と対等に会話し、企業価値を高めるために親身になってコミュニケーションを取り、株価向上に貢献することがあるかもしれませんが、少なくとも今はまだ無理でしょう。AIは企業へのアドバイスの材料になる要素は発見できますが、さまざまな企業や経営者のタイプに合わせて企業風土やガバナンス体制といった非財務情報を評価するような部分は引き続き人間がやるべきですし、われわれはそこを磨かなければいけないと思っています」(染谷氏)

AIのさらなる進歩を見据えながら技術革新を取り込む

岡本氏も、「少なくとも今後数年は」と前置きしつつ、コミュニケーションや創造的な領域でAIが人間に取って代わることはないだろうと考える。

「データ分析などにおけるAIの精度が、今後ますます高まることは確実でしょう。しかし、どんなにAIが進化しても、お客さまが人間である以上、運用に人間が介在する余地はなくならないという気がしています。また、何か新しいことを生み出す、何もないところから発想するというのは、AIには難しいでしょう。ただ、まだまだ進化するAIの可能性に、われわれとしても、非常に期待しています。まずはファンドの運用として使い始めましたが、これで終わりではなく、技術革新があればそれを取り込んで商品やサービスに生かしていくべきだと考えています」(岡本氏)

三菱UFJ信託銀行のAIファンドのように、実際に成果が上がっているならば、今後投資におけるAIの活用が進むことは確実だろう。ただし、それがどこまで普及するのかは、顧客である投資家の意識によるところも大きいのではないだろうか。

「結果が出るなら、運用するのは人間でもAIでもかまわない」というのは合理的な考え方ではあるが、そこまで割り切れないのもまた人間だ。世の中にAIが浸透し、投資家の意識が変わったときこそ、金融業界に大きな革新が訪れるのかもしれない。

プロフィール

三菱UFJ信託銀行株式会社 資産運用部 国内株式クオンツ運用課 チーフファンドマネージャー岡本訓幸氏

1990年 三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入行。三菱UFJトラスト投資工学研究所へ出向し、金融工学に関する研究業務に従事。その後、三菱UFJ信託銀行で国内株式クオンツ運用等のファンドマネージャーとして従事、運用経験年数は24年超。2011年10月より国内株式クオンツ運用のヘッドに就任し、AIファンドの開発を主導。

三菱UFJ信託銀行株式会社 受託財産企画部 次長 染谷知氏

1994年 三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入行。2014年10月より現部署で資産運用全般に関する企画・推進業務を主導。2015年7月より次長に就任。

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