ビジネス創出

自分が思う以上にストレスはたまっている!? ストレスを数値化する意味とは

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日々の生活におけるあらゆるモノやコトがデータ化され、分析される今。依然として未知の領域が多いとされるのが、ヒトの体に関するデータ――生体データだ。生体データが蓄積・分析されることで、どのような世界がひらけるのか。その可能性に「ストレス」というアプローチから挑んでいる企業の取り組みに迫る。

生体データに見いだしたビジネスチャンス

政府が掲げる「働き方改革」やそれに伴う長時間労働の改善など、仕事や働き方を見直す取り組みが注目を集めている。そして、それらと切っても切り離せない問題が「ストレス」だ。仕事はもちろん、人間関係や将来の不安など、現代人の生活はストレスに満ちている。

そのような中で、2013年夏にリリースされたストレス測定アプリ「ストレススキャン」に関心の目が注がれるのは必然ともいえるだろう。開発したのは代表取締役 西池成資氏が率いる株式会社ストレススキャンだ。


株式会社ストレススキャン 代表取締役 西池成資氏

西池氏は大学院では油田に関するデータを研究。卒業後に勤務した大手鉄鋼会社の研究室でも、自社工場の生産性に関する研究を行うなど、データを扱うことを専門としてきた。その西池氏が常々注目してきたデータが「生体データ」だ。

「ビジネスにおけるデータ活用の重要性は日に日に増していますが、中でも、将来重要になるのは生体データだと思ったのです。GoogleやAmazon、AppleといったIT界の巨人でも、生体データはまだ十分に取得・分析できていません。新しい知見を得るためには、まだ誰も集められていないデータを集積することが必要だと思っています。それが新しい市場の創出にもつながると考えていますし、生体データこそが大きなビジネスチャンスだと確信しました」

西池氏は、信念を実行に移すために2010年に独立。当時はまだストレススキャンの構想はなく、別の事業を手がけていたが、今から4年ほど前、生体データに関する興味深い話を耳にしたことから、その構想はアプリという形に実を結んでいく。

「大学院時代に医学部専門予備校の講師を務めていたこともあって、医師の知り合いが多いのですが、彼らと話すなかで、まだ解明されていない体のメカニズムのひとつに自律神経があると分かりました。そこで、もし人間のストレスと関係が深い自律神経に関するデータを取得して分析できたら面白いと思ったのです。それが『ストレススキャン』を手がけることになったきっかけです」

ストレスは数値化できるのか

「ストレススキャン」はスマートフォンのカメラ部分に指をあてるだけでストレスを計測できるアプリだ。指先から心拍数と心拍変動(以下、HRV)と呼ばれる心拍一拍の間隔の変化を測定し、それらの数値を分析して、自律神経のバランスを『ストレス指数』として算出する仕組みだ。リリース直後からさまざまなメディアで取り上げられ、これまでのダウンロード数は200万を超える。

註釈内容をあらわした図

スマートフォンのカメラに指をあてたストレス測定(写真左)のほか、測定の履歴を一覧できる「カレンダー」(中)や、平均値などを表示する「分析」(右)機能もある

心拍数を測るアプリそのものは、現在ではそれほど珍しくない。しかし、ストレススキャンが他と大きく違うのは、HRVを測定する点にある。

「ストレス指数を算出する上で、HRVの値は非常に重要です。ストレススキャンではHRVをもとに独自の解析を加え、『ストレス指数』として算出しています」

こう説明するのは、アプリ開発の中心を担うテクニカルディレクターの若林尚文氏だ。多くの心拍数測定アプリの測定時間が10秒程度なのに対して、ストレススキャンの測定時間が約90秒と長いのも、HRVを測定するためだ。


株式会社ストレススキャン テクニカルディレクター 若林尚文氏

「HRVは、精神にかかる負荷の状態、つまりストレスと重要な関係があると一般的に考えられており、自律神経の変化を測定する指標としてヨーロッパやアメリカの心臓学会でも広く知られています。ですから、当社が示すストレス指数は、医療的なガイドラインに沿ったものだといえます」

ストレススキャン社は、現時点でアプリを通じて延べ1000万回数(約90秒の成功測定回数)を超えるHRVの測定データを持っており、同氏は「アジア人のHRVデータ所有量は世界一」と自信を見せる。

「健康診断の結果などでよくある『標準』『良い』『悪い』といった評価は、膨大な人数の測定を行うからこそ、平均値や基準値をもとに算出して表せるわけです。逆に言えば、膨大なデータの蓄積がなければ、基準を決めるための閾値(いきち)は定めることができません。当社は多くのデータを集められているので、平均的なHRVを見つけ、それをもとに『ストレス指数』を算出できるのです」(若林氏)

註釈内容をあらわした図

交感神経と副交感神経(自律神経)のバランスを定量化する「心拍変動解析(HRV)」を用いてストレス指数を算出。医学的な知見にもとづいた数値化を実現している

さらに若林氏は、自身のストレスの具合を「ストレス指数」として知る意味を次のように語った。

「一般的にストレスは、体調や気持ちの浮き沈みなどによって本人が主観的に把握することが多いと思いますが、継続的に『ストレス指数』を測定することでストレスの具合を客観的に把握できます。また、ストレススキャンでは、測定前に自分自身の現在のストレス状況について『100段階中どの程度たまっていると思うか』を主観で入力するようになっています。もしストレスの具合を50くらいだと感じていたのに、ストレス指数が80と出たら、ストレスを自覚できていなかったという捉え方ができるのです」

「もしも」の事態に備える予防サービス

サービスをリリースして以来、大きな反響を集め、ユーザー数、測定数ともに急増しているストレススキャン。一方で、そのビジネスモデルはまだ完全に確立されているとは言えない。ストレススキャンは無料アプリであるため広告でマネタイズしているが、その収益はまだ大きなものではないという。

そうしたなか、同社がかじを取り始めているのが、法人向けサービスとしての普及である。

2015年12月、労働安全衛生法の一部改正を受け、従業員50名以上の職場ではストレスチェックの実施が法的に義務化された。これによってストレスチェックは各企業が委託した第三者機関が行うことになるが、調査票に回答するのは従業員本人であるため、会社に知られることを恐れて正しく回答しない、あるいは忙しくて適当に答えてしまうといった可能性がある。しかし、ストレススキャンでの測定を定期的に行うことができれば、客観的なデータをもとにストレスチェックを実施できる。

「ストレススキャンによって従業員の健康状態を把握することで、うつ病などの発症を未然に防げる可能性があがります。さらに一歩踏み込んで、ストレス指数の高い日は勤務時間を短くするなど、効率的に働いて生産性を上げることも可能になるでしょう。また鉄道運転手や長距離ドライバーといった緊張を強いられる業務であれば、従業員のストレス指数を把握することで、事故を未然に防ぐことにもつながります」(西池氏)

註釈内容をあらわした図

一般ユーザーには無料でアプリを提供し、企業向けには、アプリを活用したプロモーション支援や、アプリから得られたデータと知見にもとづいたソリューションを提供する。これがストレススキャン社のビジネスモデルとなる

ただこういったサービスは、まだ起きていない事態に備える、いわば予防を目的としたものだ。必ずしもなくてはならないといったものではないため、現時点では興味を示してくれる企業はまだ多いとはいえないという。しかし、社員を大切に考える企業にとっては、ストレススキャンは有効なツールになると西池氏は確信している。そこで、ストレス指数の信ぴょう性をさらに高めて、企業の信頼を勝ち取ることを目指し、大学との共同研究や企業への試験導入などを行っているそうだ。いずれは、ストレス指数を提示するだけでなく、生産性向上のためのコンサルテーションも提供できるようなソリューションサービスとして展開していく予定だ。

生体データのさらなる活用に向けて

自律神経のデータを活用する可能性に着目して開発されたストレススキャンだが、西池氏は「当社のミッションは、生体データを活用してヒトの生産性をあげること。ですから、ストレススキャンも理念を追求するなかでのひとつの過程と位置づけています」と、必ずしも活用する生体データの種類にこだわっているわけではないと語る。ストレスを測る指標がほかにも見つかれば、ストレス指数の信ぴょう性をあげるためにもそのデータ取得・分析には積極的に取り組みたいという。

「ストレス指数は、一般的な企業に限らず、スポーツ界などでも活用できると考えています。例えばプロアスリート選手の成績には、メンタルが大きく影響しますよね。スタメンを選ぶ際の指標の1つとして、ストレス指数などを利用できるはずです。またビジネスに限らず、日々の生活を豊かにするためにも、ストレスを把握してコントロールすることは大事です。将来的には国が『ストレス指数』の有効性を認め、活用することで、医療費の削減にも貢献できればと考えています」(若林氏)

デジタル化によって日常生活の利便性や生産性が向上しても、人間関係やコミュニケーションにおけるストレスは新たに生み出され、過労死、うつ病、自殺など深刻な問題を引き起こす。人間の真に豊かな生活とは何か。ストレススキャン社は生体データの可能性を今後も追い続ける。

プロフィール

株式会社ストレススキャン 代表取締役 西池 成資氏

株式会社ストレススキャン Technical Director 若林 尚文氏

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