組織づくり・人材育成

「人事×テクノロジー」HR Techで実現するパーソナライゼーション[後編]

記事内容の要約

  • バラバラに管理されてきた人材のデータを統合・分析することで、人の採用や配置転換、育成におけるミスマッチを防ぎやすくなる
  • 人事業務におけるデータの活用やAIによる自動化には課題と限界もある
  • 課題を乗り越え、適正なHR Techの活用を推し進めれば、個々に最適化された人事が実現できる
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この記事の前編を読む

人事業務の効率化と自動化を中心に普及と発展が進むHR Tech。その可能性は、データの収集・分析、AI活用の進展によってさらに広がりを見せる。HR Techが切り開く人事の将来について、株式会社リクルートホールディングス リクルートワークス研究所所長の大久保幸夫氏と、同研究所グローバルセンター センター長、村田弘美氏に話を聞く。

人事関連データを統合する意義

企業には、社員に関する多くの情報が蓄積されている。たとえば、採用にあたって誰が面接して、どういう評価を下したかという情報、採用後の配属先と業績、昇給昇格の履歴、スキルセットやトレーニングの成果などがそれに該当する。

しかし、これらの人事関連データが、一元的に管理されて総合的に分析できる状態に置かれているのかというと、そうではない企業も多い。人事関連データを統合する意義について、リクルートワークス研究所の大久保幸夫氏と村田弘美氏は次のように語った。

──人材に関する情報が統合されていないと、どんな問題が起こるのでしょうか。

大久保幸夫(以下、大久保):実は、企業のもつ人材データを分析してみると、採用時の評価と入社後の業績がまったくリンクしていないケースが大半なんです。データの相関分析によって、そのことがわかれば採用時の評価手法を変えるなど、改善の一手を練ることができるでしょう。ところが、データがバラバラに管理され、総合的な分析ができていなければ、採用時の評価の仕方が間違っていることにすら気づけない。つまり、企業と社員双方にとって「こんなはずじゃなかったのに」という悲劇が続いてしまうのです。


株式会社リクルートホールディングス リクルートワークス研究所 所長 大久保幸夫氏

──総合的なデータ分析ができれば、そのようなミスマッチは防げるということでしょうか?

村田弘美(以下、村田):人材採用時における評価は精緻化できるはずです。たとえば、高いパフォーマンスを発揮している社員のデータを分析することで、自社で成功する人材のパターンがモデル化できます。採用時に、そのモデルと求職者のデータを照らし合わすと、入社後に高いパフォーマンスを発揮してくれそうな人材を、より効率的に、かつ高い精度で選り抜くことができます。

──つまり、人材の評価をより科学的に行えるようになると。

村田:そうです。人の採用や配置の最適化、育成のプランニングなど、人事上の何らかの意思決定を下す際には、個々人の性格やスキル、これまでの成果、働いてきた組織の特性・上司の性格など、多岐にわたるデータを使って分析するのです。それらのデータを体系的に統合管理してAIなどのテクノロジーを使って分析すれば、人事上の意思決定に至るまでのかなりのプロセスが自動化できます。また、意思決定もより正確に行えるようになるでしょう。

多く利用されている採用関連のHRテクノロジー
「企業」、「人材サービス会社」、「一般求職者」、「フリーランサー」それぞれのカテゴリーでHRテクノロジーは活用されている

出典:リクルートワークス研究所『世界の人事が注目する28の「HRテクノロジー」/プロが注目する「HRテクノロジー」』

大久保:かつては、優れた人事担当者とは「社員の顔と名前、適性・性格、能力から家庭の事情に至るまで細かく把握していること」だとされてきました。しかし、企業のグローバル化が進展したことで、人事担当者の記憶に頼るだけでは、どこに、どのような人材が存在するかを把握できなくなっています。何しろ社員は、世界中にいるわけですから。しかし、そうした問題も、人材管理システムなどのテクノロジーの力を借りることで解決できるのです。


株式会社リクルートホールディングス リクルートワークス研究所
グローバルセンター センター長 村田弘美氏

── ただ、データによって個人の業績を見ていくだけでは、いわゆる「ムードメーカー」といえる社員に対する評価は厳しいものになったりしないのでしょうか。「職場を和ませる」といった役割も、テクノロジーは理解できるのでしょうか。

大久保:人材の評価軸を変えれば問題ないと思います。たとえば評価軸に「コミュニケーション」という項目を設定し、個々人のコミュニケーションの量と質を客観的に計測し、その結果と所属組織の業績との相関関係を分析します。そうすれば、ムードメーカーとしての社員の働きを、定量的に評価できるようになるはずです。最近では、HR Techの1つとして、従業員のコミュニケーションの量を測定する研究も行われています。

自動化の課題と限界

──データやAIの活用によって、人間とは異なる観点からの人事評価が可能になりますね。しかし同時に、人事評価がAIで決められることに抵抗感を示す人も多いのではないでしょうか。

村田:そのとおりです。ですから、AIを使うにしても、人事上の最終的な意思決定は人が下すことが前提条件です。要するに、人事のすべてをテクノロジーで自動化してはならず、必ず人が介在しなければならないということです。これを法律で定めている国もあります。

──データの収集・分析を進めるうえで、人事部門では扱えない個人データなどはありますか?

大久保:HR Techで重要なデータは、主に、パフォーマンス、キャリア、ヘルスケアの3つです。そのなかでも、ヘルスケアに関するデータは、取り扱いが特に難しいですね。従業員の肉体的・精神的な健康状態を測るうえで必要不可欠な情報で、長時間労働を縮減することにも役立つ大切なデータですが、個人の健康状態に関するデータを人事部門が勝手に収集し、使うことは許されていません。

また日本の企業では、人事評価の際に、成果よりもプロセスを重視する傾向が強くありますが、働き方改革でテレワークなどを認めた場合、そのプロセスが見えにくくなります。結果として、見えるものがアウトプット、つまり成果になります。アウトプットをどのように集計して測定するか、またそれに基づいた評価をどうするのか、人事制度を変革する必要があります。たとえば、働いた時間と成果についてのデータを測定できれば、同じアウトプットを出した人が複数いる場合には、働いた時間が短い人、つまり生産性が高い方を評価する、という評価軸にもできるでしょう。

このためには、従業員の日々の就労状況をシステム的にトラッキングする仕組みが必要ですが、就労データをあまり細かく取ろうとすると、監視を嫌う社員たちから抵抗を受ける可能性も大きいと思われます。

──そうした問題を解決する手だてはあるのでしょうか。

大久保:難しい問題ですが、まずは、目的と、データの取得・活用の範囲を会社が従業員にしっかりと説明し、会社と従業員との間に強い信頼関係を築くことが必要です。すべてのデータ収集は、従業員のためにあることを理解してもらうことが大切ではないでしょうか。たとえば従来は、人事部門や上長の経験や主観、性別・年齢・国籍・入社年次といった情報に基づき、人事に関する意思決定が画一的になっていたかもしれません。HR Techで収集する人事データは、先入観や主観にとらわれない材料なので、人事が進化して、働く人に役立つということを理解してもらうことが大事ですね。

HR Techが描く未来図

さまざまな課題はありながらも、HR Techによる人事のデジタル化・効率化・自動化は今後も進むと大久保氏と村田氏は口をそろえる。ならば、HR Techの活用を推し進めることで、今後、どのような世界が切り開かれるのだろうか。

──仮に、より広範な個人データの収集と分析が可能になるとすれば、人事業務にどのような変革が起きるのでしょうか。

大久保:究極的には、「人事のパーソナライゼーション」が可能になると考えています。従来の主観や経験に基づく人事だけではなくて、科学的な分析が加わることで、社員1人ひとりの個性や適性、能力に合わせて人事を最適化し、運用していくことが可能になるということです。

──これまでも、個人の適性・能力・成果に応じて、配置や昇給・昇格が決められてきたが、HR Techによって、それらが個々人に対してより的確に行えるようになるということですね。

大久保:そのとおりです。実際、HR Techでデータ分析の精度を高めれば、個々人の能力を最大限に引き出すための配置や育成プランを策定し、遂行することが可能です。

たとえば、人によってパフォーマンスがあげられる時間帯は異なるはずですが、現在は、すべての従業者に単一の就業ルールが適用されています。HR Techを活用すれば、そうしたルールについても、従業員1人ひとりの特性に応じて調整し、運用していくことが可能になるはずです。真の意味でダイバーシティとインクルージョンを実現するタレントマネジメントにつながるのではないでしょうか。

個々人の能力を最大限に引き出し、組織力を高めることは人事部門の大切な使命です。HR Techによる「人事のパーソナライゼーション」は、その使命を果たすための究極的な手法といえるのです。

プロフィール

株式会社リクルートホールディングス リクルートワークス研究所 所長 大久保 幸夫氏

1983年株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)入社。人材総合サービス事業部企画室長長などを経て1999年にリクルートワークス研究所を立ち上げ、所長に就任。2010年~2012年内閣府参与、2012年人材サービス産業協議会理事就任。

株式会社リクルートホールディングス リクルートワークス研究所 グローバルセンター センター長 村田 弘美氏

1983年株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)入社。総務、人事、広告審査、新規事業開発等のHR関連部門などを経て、1999年に社内研究所としてリクルートワークス研究所の立ち上げに参画。2013年よりグローバルセンター センター長。

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